76(若丹山地)遠敷川上流地区−−−−−5万分の1地形図【熊川】−−−−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔陸水生物〕〔景 観〕

76 遠敷川上流地区                                    [⇒位置図]

〔概 要〕
 遠敷川上流域、百里ヶ岳(931.3m)をめぐる県境脊梁山地及び多田ヶ岳(712
.1m)を含む山地である。
 地形・地質は、県境に近い壮年期山地で河谷は深く、すべて中・古生層から形
成されており、最近スランプ礫岩が報告されている。植相では、オオバクロモジ
−ブナ群集のハイイヌガヤ型の群落が分布する。
 鳥獣では、クマタカ、ニホンカモシカの生息がある。
 昆虫相では、暖地性要素を示す昆虫と山地性昆虫が分布し、その中には珍稀種
も少なくなく、豊富である。
 陸水生物では、河川の水質が良好で水生昆虫類の現存量が多い。
 山麓部は、全般的に植林地が分布するも上部には夏緑広葉樹林が残存し、特に
多田ヶ岳東方の峰は、山麓に点在する古社寺境内の借景となっている。


〔地形・地質〕
 県境にある百里ヶ岳に源を発する遠敷川上流域がほぼ含まれる。海抜600m程
度の壮年期的山地で、深い河谷を形成している。
 地質はすべて中・古生層からなり、主として頁岩、緑色岩が分布し、チャート
を伴っている。緑色岩に近接して小レンズ状石灰岩があり、この石灰岩中から紡
錘虫化石を産し、時代は二畳紀と考えられている。最近は二畳紀のスランプ礫岩
も報告されている。


〔植 物〕
 夏緑林を主とする林帯で、百里ヶ岳及び県境脊梁では、オオバクロモジ−ブナ
群集組成に共通するブナ−ミズナラ林が安定した林相を呈し、多田ヶ岳では、山
頂付近にハイイヌガヤ型のクリ−ミズナラ林が優占する。
 全体的に安定した組成を呈する代償林帯であるが、自然度は非常に高い。


〔鳥 獣〕
 上根来の奥地まで伐採、植林が進んでいるが、一部二次林や夏緑広葉樹林が分
布し、クマタカの生息が知られている。標高300mの上根来地区の人家にはスズメ
が住みついている。獣類では、ニホンカモシカが生息する。


〔昆 虫〕
 下根来から上根来を経て百里ヶ岳に到る地区で、かなり奥まで林道が延び、そ
の支流の谷を含め相当開発が進んでいるが、昆虫相は全般的に豊富で、調査回数
はそれほど多くないにもかかわらず、多数の分布上注目すべき種の生息が確認さ
れている。蝶では1973年ヒサマツミドリシジミが日本海側での北限分布として記
録され(その後、他地でも発見され北限ではなくなった)、アイノミドリシジミ
、ミズイロオナガシジミ、ウラキンシジミなどの生息があげられる。甲虫類も多
く、カミキリムシ類ではベーツヒラタカミキリ、コウヤホソハナカミキリ、
トラフホソバネカミキリ、カラフトヒゲナガカミキリ、
トガリバアカネトラカミキリ、キュウシュウチビトラカミキリなどは県下では知
られた生息地の少ない種で、ヒゲナガヒメカミキリ、ニイジマトラカミキリ、
フタオビミドリトラカミキリの多産も注目される。その他の甲虫としては、
マスダクロホシタマムシ、ムネアカナカボソタマムシ、ベニナガタマムシ、
オオサカヒメテントウ、ノコギリクモゾウムシ、ミヤケヒメナガクチキムシなど
があげられよう。蜂類では山地性のコイケアワフキバチ、フタモンアワフキバチ
、暖地性のミドリセイボウ、大形のミカドジガバチなどが生息する。その他の昆
虫ではイシハラカメムシ、トゲナナフシモドキ、キカマキリモドキを付記してお
く。
 生物地理学的見地からみると、音海や御神島のような若狭湾岸の照葉樹林にみ
られるような典型的なものではないが、嶺北の山地に比べるとかなり暖地性要素
が強く、その上に山地性の昆虫もかなり出現している点で興味深い。


〔陸水生物〕
 (藻類)
 この地区については遠敷川上流域の上根来と白石の2ヶ所の調査結果を示す。
2地点合わせて藍藻11、珪藻62、緑藻2、計75種が確認できた。この河川の流量
は比較的多く、河床は安定していて豊かな付着藻群落を形成している。数多く出
現するが、この水域を代表する種類は藍藻でホモエオスリックス、珪藻で
クノジケイソウ属、ハリケイソウ属、コッコネイス属などである。
 (水生昆虫類)
 河川形態Aa型、勾配が急で、源流域では河床礫の安定度は悪い。水生昆虫は山
地渓流にみられる種類が中心で、種類数は比較的多いが、現存量は大きくならな
い。うの瀬においては、河川礫は、巨、大礫が多くなり、安定度も良くなる。
ヒゲナガカワトビケラなどの造網型トビケラの量が極めて多くなり、現存量は38
g/m2にも達する部分がある。
 (魚類)
 ヤマメ、イワナ、タカハヤが生息していた。イワナは移殖によるものである。


〔景 観〕
 遠敷川の上流の県境は、嶺南第一の標高を有する百里ヶ岳をはじめ、800m〜
900mの中山性の山々が連なる。百里ヶ岳の北斜面はクリ−コナラ林、クリ−
ミズナラ林、ブナ−ミズナラ林と林相は垂直的分布がみられ、西斜面の根来の上
流はスギ林の植林がすすんでいるが、その上はブナ−ミズナラ林であり、多田ヶ
岳の南側山地の山麓は、アカマツ林が多いが、山地はクリ−コナラ林、クリ−
ミズナラ林等の落葉広葉樹林で、この地区の山地は、比較的自然度の高い森林景
観を呈している。
 多田ヶ岳の東側に張り出してそびえる峰は、山麓に点在する神宮寺、若狭彦神
社等の古社寺の宗教的情緒を高める境内景観の借景として、重要な役割を果たし
ている山である。
 百里ヶ岳北側山地の標高500m〜700mの地帯にかけて、シャクナゲの自生地が
ある。春の花の季節は、群落として美事な景観を示す。
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(この地区の情報は BEATLES さんに入力を協力していただきました)