74(若丹山地)内浦湾岸地区−−−-5万分の1地形図【丹後由良】【鋸崎】−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔陸水生物〕〔景 観〕

74 内浦湾岸地区                                     [⇒位置図]

〔概 要〕
 ダンノ鼻及び広瀬鼻から、内浦湾沿岸を含む地区で、温暖な小湾内沿岸環境下
におかれている。
 この若狭西端部に新第三紀の海成層が分布しており、この内浦層群と三畳紀の
地層から動物化石を産することは古くから知られている。内浦半島北端の海蝕崖
は安山岩からなり、その規模は雄大である。
 植相では、ヤブコウジ−スダジイ群集のモチノキ亜群集型のスダジイ林が典型
的な林相を呈している。内浦湾の海岸断崖には、タンゴイワガサ、オニヤブマオ
、コオニユリ、オニヤブソテツ、ヤブツバキやトベラが優占する断崖荒原が顕著
である。
 鳥獣相では、エナガ、メジロが優占するが、個体数は多くなく、キツツキ類が
若干見られる。また音海地区にはニホンザルが生息する。
 昆虫相では、音海半島に県下唯一の分布を示す昆虫が相当多数生息し、その中
には分布北限となっている種もあり、暖地性昆虫の豊庫として極めて貴重である
。
 音海半島の北端には、高さ100m〜200mに及ぶ一大海蝕崖が発達し、蘇洞門と
ともに若狭湾り海岸美を代表する景観の一つである。


〔地形・地質〕
 若狭湾に突出した内浦半島と大浦半島に囲まれて内浦湾がある。その外湾に面
する部分では、海蝕崖の発達が著しい。内浦半島の北面には約250mに達する音
海断崖があり、半島東側の各島付近には隆起海蝕台がみられる。
 この地区には、舞鶴層群、難波江層群、流紋岩類を基盤として、それを被う新
第三紀の内浦層群が広く分布している。砂岩・頁岩を主とする舞鶴層群の時代は
二畳紀中・後期と考えられる。また、主として頁岩からなり砂岩をはさむ難波江
層群は、豊富に産する貝化石から三畳紀後期とされている。流紋岩類はF.T.年代
から白亜紀末とみられる。
 内浦層群は下部の火山岩層、中部の砂礫岩層、上部の頁岩層および最上部の火
山岩層からなる。下部は名島付近から、中部は鎌倉付近から、上部は山中、鎌倉
などから多くの貝化石を産し著名2ケある。中部のAfuria、上部のVicaryaなど
がある。浮遊性有孔虫化石から上部頁岩層の時代は、中新世前期末〜中新世中期
であると推定できる。この地区の新第三系は若狭地方で唯一のもので、若狭湾の
新第三系をみるとき貴重な資料となる。


〔植 物〕
 ダンノ鼻及び広瀬鼻から、内浦湾沿岸を含む地区で、温暖な小湾内環境下にあ
り、暖地性常緑広葉樹林、特にスダジイ林がよく保存されている。
 特に半島の沿岸には、スダジイ、タブノキ、サカキ、モチノキ、ヤブツバキ、
ヤブニッケイ、トベラなどが優占し、林間及び林床組成から、ヤブコウジ−
スダジイ群集のモチノキ亜群集が識別される。それらの中で、この付近一帯に
ヤマモモ及びモチノキの顕著なことが注目される。
 二次林としてのクリ−コナラ林では、サイゴクミツバツツジ、ハゼノキ、
ナツハゼ、ヤマツツジ、ソヨゴ、スノキ、ネジキ、クロモジ、ホツツジなどが優
占し、比較的安定した組成を示す。 なお、内浦湾の海岸断崖には、
タンゴイワガサ、オニヤブマオ、コオニユリ、オニヤブソテツ、ヤブツバキ、
トベラなどが優占する断崖荒原が形成されている。


〔鳥 獣〕
 繁殖期3回、秋季3回の調査で計38種を観察した。ヒヨドリの移動する群れも
あって180個体と優占し、エナガ、メジロ、ホオジロ、ヤマガラ、シジュウカラ
が認められた。1回の調査では20種前後で多い方ではない。森林性の鳥は18種と
夏鳥8種のうち6種が繁殖可能性がある。アオゲラ・コゲラのキツツキ類やキジ
の生息も見られる。
 海岸のイソヒヨドリは見るが、ウミネコや水面の鳥は少ない。
 ニホンザルが生息する。


〔昆 虫〕
 当地区の範囲で昆虫相が調査されているのは音海集落の付近と、押回鼻灯台に
至る海岸線に沿ったコースだけにすぎないが、昆虫の種類数と個体数はそれほど
多くないにもかかわらず、珍稀な昆虫が多く採集され、それらの大部分は暖地性
分布を示すもので、暖地性昆虫の県下第1の豊庫といえよう。県下唯一の採集記
録地となっている種が相当数あり、また、分布北限や日本海側における東限とな
っているものも少なくない。特に甲虫類に注目すべき種が多数採集されており、
その分野に関するかぎり、全国的にも高いレベルにあるものと評価される。
 分布北限となっている甲虫としては、ケブトハナカミキリ、ヤノトラカミキリ
、ツシマムツボシタマムシ、トウキョウオオキノコ(和名仮称)、
ホソチビヒラタムシ(和名仮称)、クロヘリメツブテントウ、
クロツヤツツホソカタムシなどがあり、最初の2種は青葉山にも分布しているが
、あとは県下唯一の記録である。また、分布限界ではないが、県下唯一の産地と
なっている目立った種としては(当地に限らず小形昆虫には県下1例だけという
ものが少なくないが、それらは考慮外とする)、ベーツヤサカミキリ、
ニイジマチビカミキリ、コマルガタテントウダマシ、ヨツモンチビカッコウなど
があり、クビアカドウガネハナカミキリ、コクロナガタマムシ、
イガラシカッコウムシ、ムネアカツツカッコウムシ、タバゲササラゾウムシなど
も県下では珍しいものである。暖地性傾向としては、ヒゲナガヒメカミキリ、
キュウシュウチビトラカミキリ、フタオビミドリトラカミキリ、
タケトラカミキリ、ヨスジトラカミキリ、ムネアカナカボソタマムシ、
サシゲチビタマムシ、ミツボシホソナガクチキムシ、
フタモンヒメナガクチキムシ、アミダテントウ、シワナガキマワリなどがかなり
普通に見られることである。
 甲虫以外では、大形のコオロギで暖地性昆虫の代表として全国的に分布がよく
調べられているクチキコオロギの生息が確認され、これは確実な記録としては分
布北限に近い。また、秋期にかなり多くの個体数が見られるマツムシモドキも分
布が知られているかぎり北限である。そのほか、ヒナカマキリ、ウシカメムシ、
スギハラベッコウバチ、ハリカメムシ、オオホシカメムシなどが暖地性傾向を示
すものである。蝶類では特に分布上注目すべきものの生息は認められないが、個
体数はかなり多く、アオスジアゲハは特に多く、オオムラサキも見られる。また
、普通なものながら、他地では個体数があまり多くないホシミスジの多産は興味
深い。
 かつては陸の孤島とまでいわれ、交通の不便な所であって、そのため自然環境
が良く保存されてその名残りとして多くの珍しい昆虫の生存が維持されて来たも
のと思われるが、音海半島の入口に原子力発電所が設立されたのに伴い、道路は
見事に整備された。さらに、近年には音海集落から灯台までの道路も拡張整備さ
れて、ますます観光地化が進行していることは残念である。


〔陸水生物〕
 (藻類)
 内浦湾に注ぐ小さな河川がいくつかあるが、宮尾、白井を横切る小さな河川か
ら取った試料より藍藻2、珪藻25、緑藻3、黄緑色藻1、計31種が確認できた。
オビケイソウ属、コッコネイス属、クサビケイソウ属の珪藻3種がやや多く見ら
れたのみで他は少ない。
 (水生昆虫類)
 河川規模の極めて小さい小流のみで水生昆虫は少ない。特記事項なし。


〔景 観〕
 音海半島の北側の海岸は、2km余にわたる一大海蝕崖で、その高さも100mか
ら200mにも及ぶ断崖がつづく壮大なもので、若狭湾には多くの海蝕崖があるが、
この音海の海蝕崖は、内外海半島の蘇洞門の海岸と共に、男性的な美しさをもつ
もので、変化に富む若狭の海岸美を代表する景観の一つである。
 内浦湾は、湾内に広瀬鼻、ダンノ鼻等の小半島もあって、屈曲と起伏の多い地
形を海岸にもつ湾である。平常は至って波静かであり穏やかであるが、北風の日
は外海同様に波が高くなり、湾内の海岸に海蝕崖も多く発達されている程で、変
化に富む海岸美をもつ湾である。しかも季節や天候によって、湾内風景の表情が
著しく異なると云う、珍しい自然景観をもつ湾である。
 日引の海岸より、湾内の水を隔てて望む青葉山の山容は個性的であり、高浜方
面より望む山容とは、全く異なった美しさをもつ。
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(この地区の情報は BEATLES さんに入力を協力していただきました)