72(若丹山地)大島半島地区−−−−−5万分の1地形図【鋸崎】【小浜】−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

 72 大島半島地区                                  [⇒位置図]

〔概 要〕
 大島半島は、鋸崎を先端とし、南北に山稜が斜向しながらかなり急峻な地形を
呈しており、北半部は中・古生層と各種火成岩が複雑に分布しており、開析も進
んでいる。また南西部はカンラン岩〜蛇紋岩体が広く露出している。なお宮留海
岸ではオリビンサンドに富んだ砂浜が注意をひく。
 半島先端部の大飯発電所周辺の山地斜面には、ヤブコウジ−スダジイ群集組成
の照葉樹林の原生林及び代償林が広く分布している。それらの中には、スダジイ
−ヒメユズリハ−コウヤボウキ群落にまとめられる林叢が分布しており、本県に
おける貴重なひとつの森林型である。大島半島でビワの自生帯が広く分布してい
るのは、生態地理学的に貴重である。
 鳥相は、森林性の留鳥及び夏鳥の生息に適した林相は少なく薄い。全域が
ホンシュウジカの行動範囲になっており積雪時には宮留の裏側に集結している。
イワツバメの繁殖地でもある。
 冠者島には、アミダテントウやクマゼミが多く照葉樹林特有の昆虫群集が見ら
れ、学術上貴重である。
 爬虫類等の生息環境は、広葉樹林、針葉樹林共に成育が悪く、加えてササ群落
の浸入等で、その生息相は貧弱であるが、貝類で日角浜のシリオレキセルガイは
、県内最大の生息地となっている。
 半島西側の外海側は、岩礁と海蝕崖の続く男性的な海岸風景に対し、東海岸は
波静かな小浜湾に面して村落が点在し、背後の山地と融合して外海とは対照的な
美しさが見られる。


〔地形・地質〕
 大島半島の北半島の開析の進んだ地形を呈し、先端部の鋸崎付近には海成段丘
が僅かに分布する。宮留付近に海岸低地が発達しており、待ちの山の山体は陸け
い島である。
 南半部は全体として岩床状構造をもった超塩基性岩(ダナイト、
ハルツバージャイト)からなり、犬見付近の半島南縁部に粘板岩・チャート互層
がみられ超塩基性岩とは断層で接している。この互層は層理がよく発達しており
、走向は東西性で北傾斜である。
 また、北半部は頁岩、緑色岩を主とする中・古生層(大島層)、輝緑岩〜はん
れい岩、珪長質岩石から構成される。大島層中に輝緑岩〜はんれい岩が岩脈状に
貫入しており、その後珪長質岩石が貫入して接触交代変質を与えている。朝倉海
岸では、花崗斑岩が大島層を貫いている。待ちの山の超塩基性岩では、蛇紋岩化
部分がよく見られる。その前面の海浜ではオリビンサンドが認められるのが注目
される。
 大島半島では、いわゆる夜久野貫入岩類(夜久野塩基性岩類)とよばれる酸性
〜超塩基性岩が特徴的といえる。浦底集落の北西海岸には、北西−南東方向の
リニヤメントにほぼ近い断層が存在する。これが熊川断層の一連であるかどうか
については不明である。


〔植 物〕
 半島先端部の鋸崎の背面山地がけずられ、原子力発電所が建設されているが、
広範囲にわたって、スダジイ林を主とする暖地性常緑広葉樹林の原生林及びやや
二次林化した萌芽林がよく残存されている。
 特に、原子炉建屋の背面山地南斜面の植相は、林間に、ヒメユズリハ、
ヤブツバキ、ヒサカキ、シロダモ、ヤブニッケイ、クロモジ、ヤブムラサキ、林
床には、コウヤボウキ、テイカカズラ、トキワイカリソウ及びジャノヒゲなどが
優占し、組成的には、スダジイ−ヒメユズリハ−コウヤボウキ群落を呈し、
ヤブコウジ−スダジイ群集として識別される。
 ここでのスダジイ林では、全域にわたって萌芽林性の若令樹林が密生して、照
葉樹林帯としての特徴ある相観が構成されている。
 原子炉建屋周辺の山腹斜面の一部に、代償林としてのクリ−コナラ林及び
ケヤキ林が分布し、比較的安定した組成を示す。組成的には、ヤブコウジ−
スダジイ群集に属する。
 萌芽林を含むが、典型林帯がこれほど広範囲にわたって安定した相観を保存し
ている照葉樹林帯は、本県の場合、他には極めて少ないことから、今後とも保護
、保全を図るべきであると考える。
 また大島半島には、ビワの自生が見られ、極めて貴重である。


〔鳥 獣〕
 犬見〜浦底、日角浜〜大飯発電所のフェンス沿い、宮留周回、鋸崎の全域にわ
たるコースの調査を実施したが、全体的に森林鳥の相はうすく、計53種を記録し
たが、1回当たりでは17種程度で、出現度の高い鳥種で5個体程度であった。内
訳は森林鳥17種、夏鳥12種、冬鳥13種、他にカラス、トビ、スズメ、オシドリ、
クロサギなど留鳥類11種であった。
 鳥相としてはヒヨドリの南下する群れなどあって496個体と群を抜いており、
ホオジロ、カラスがそれに次ぎ、エナガ、メジロ、ウグイス、シジュウカラ等も
見られた。水域のウミネコ、ウミウが計473個体、イワツバメの繁殖80羽、
セグロカモメ、オオセグロカモメの越冬、イソヒヨドリの繁殖をみる。
 ノウサギの他ホンシュウジカは全域で足跡を認め、宮留地区東側の海べり林内
で積雪期を過ごすようである。


〔昆 虫〕
 冠者島は、音海半島、鷹島、蒼島、御神島、常神半島などの若狭湾島嶼・半島
と共通して、照葉樹林に特有のアミダテントウが多い。暖地性のクマゼミも非常
に多く、ミンミンゼミ、アブラゼミ、ツクツクボウシ、ニイニイゼミの生息も確
認された。同じく暖地性のミドリセイボウが採集されていることも注目される。
フタオビミドリトラカミキリは日本海沿岸にそって分布する暖流との関連のある
種で、ウミベアカハネカクシは海浜性の甲虫である。そのほか、
オオミスジタマゾウムシが採れている。全体として、昆虫相はそれほど豊富では
ないが、特色があり貴重な島である。
 大島半島そのものは、昆虫相についてほとんど調べられていないが、内陸性の
ものは少なく、主に沿岸性の昆虫で構成されており、特に暖地性種の傾向も認め
られず特記すべきことは見当らない。


〔爬虫類等〕
 両生類・爬虫類では、10月下旬宮留の集落周辺の水田、畑、小樹林の入りまじ
った狭少部で、ヤマカガシ、アオダイショウ、シマヘビとともに、
ニホンアカガエル、ヤマアカガエル、トノサマガエル等の群を見た。両群の冬眠
前の生態の一端を窺い知る光景である。また付近の泥田の中でイシガメの大集団
を見た。
 貝類では宮留の調査で、シリオレキセルガイ、ホリオカチョウジガイが密度高
く生息していた。日角浜にかけて、オトメマイマイ、ウスベニマイマイ、
ミジンマイマイが多く、特にシリオレキセルガイは県内最大の生息地であること
を特記する。


〔陸水生物〕
 (藻 類)
 小さな小川以外名のつく河川はない。大島半島入口の犬見の小川での調査結果
では、藍藻1、珪藻17、緑藻2、計20種が確認できた。再吟味する要はあるがめ
ずらしい種類デンティクラ属、クチビルケイソウ属が多くみられた。
 (水生昆虫類)
 河川規模の極めて小さな小流ばかりで、水生昆虫も少ない。特記事項なし。
 (魚 類)
 犬見の小河川で、アユ、ウキゴリ、ヨシノボリが小数確認された。


〔景 観〕
 大島半島の外海側は、荒波のために海蝕をうけて、奇岩奇石の多い岩礁と海蝕
崖の続く、男性的な美しさをもつ海岸風景がつくられている。この風景は、陸地
からよりも、海上よりのぞむ方が美しい。
 内海側は、波静かな小浜湾で、温和な感じのただよう女性的な美しさをもつ。
この海に臨む浦底、西村、河村、日角浜、畑村、脇今安、宮留の各漁村は、山地
と渚との間の狭い地につくられているものであるが、人々の生活風景は海や背後
の山と全く融合しているもので、頗る平和であり穏かで、外海とは対照的な美し
さがみられる。
 小浜湾口部に突出し、風衝叢林に覆われた鋸崎は、先端に灯台、周辺に大小の
岩礁を配して、赤礁崎の優雅な景勝とともに海岸線に変化を与えている。
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(この地区の情報は BEATLES さんに入力を協力していただきました)