71(若丹山地)加斗海岸地区−−−−−5万分の1地形図【小浜】−−−−−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔景 観〕

71 加斗海岸地区                                   [⇒位置図]

〔概 要〕
 加斗海岸と蒼島を含む地区で、湾内の静かな自然環境下にある。地形・地質は
、北東方向の中・古生層からなる丘陵と平地が交互に配列し、平地には低位段丘
がみとめられる。
 湾内離島の蒼島は、タブノキ、スダジイ、ヤブツバキやモチノキなどが優占す
る典型的な照葉樹林が全島にわたって残存している。それらの林相には、
ナタオレノキ、ヒメユズリハ、モツコク、カラタチバナ及びムサシアブミなど、
区系地理学的に貴重な種類が多い。
 昆虫相も、蒼島では明瞭に暖地性傾向を示し、優れている。
 爬虫類等では、海岸部でアカウミガメの産卵の記録がある。


〔地形・地質〕
 北北東方向の丘陵性山地部が平地部と交互に配列しており、海岸線は比較的単
調であるが、小岬として津崎鼻、中江鼻などがある。沖合いには蒼島が浮かび、
内湾の落着いた風景を呈する。また、岡津、荒木付近の平地部には、低位段丘が
僅かに分布する。
 この付近の中・古生層は主として粘板岩からなり、チャート、砂岩、緑色岩を
伴っている。


〔植 物〕
 加斗海岸と蒼島を含む地区で、湾内の温暖な気候的環境下におかれている。
 湾内離島の蒼島内を南北に走る稜線からの急峻な斜面には、タブ、スダジイ、
ヤブツバキ、モチノキなど、代表的な暖地性常緑広葉樹林が優占し、典型的な照
葉樹林がよく保存されている。
 それら照葉樹林の林冠及び林間には、ナタオレノキ、エノキ、ヤマザクラ、
ヤブニッケイ、ハゼノキ、シロダモ、ヒメユズリハ、サカキ、モツコク、
ツクバネガシ、マルバグミなどの高、低木が繁茂し、林床には、
ホソバカナワラビ、ヒトツバ、ベニシダ、フジイバラ、テイカカズラ、
カラタチバナ、ムサシアブミ、マメヅタ等が分布している。それらの中で、
ナタオレノキは、本州ではここだけに分布する。またムサシアブミは、四国及び
九州の海岸の林内に分布し、本州では、この島以西に分布する。共に植物区系地
理学的に貴重な種類である。
 蒼島の南西部を中心にタブノキ林が発達し、タブノキ−ヤブツバキ−ベニシダ
群落が優占するが、一部にナタオレノキ−ヤブツバキ−ヤブラン群落が分布する
。それらの林相は、林床のムサシアブミやカラタチバナによって特徴づけられる
が、組成的には、イノデ−タブノキ群集の典型的な群落型である。また、北東斜
面を中心に、同島の代表的な林相のスダジイ林が見られる。それらの群落型には
、スダジイ−ヒトツバ群落、スダジイ−ベニシダ群落が識別される。また北斜面
は、組成的に安定したトベラ−クロマツ群集を呈する。
 同島の照葉樹林は、昭和24年に国の天然記念物に指定されている。


〔鳥 獣〕
 カモメ類の群れもなく、蒼島は優れた植相であるが狭隘で種類も個体数も制限
され、調査時にはカウントがなかった。鳥獣類にとって海岸線、林内共に適した
生息環境とは思われない。


〔昆 虫〕
 当地区に含まれる蒼島は植生の項で説明されているようにナタオレノキを含む
暖地性植物群落として著名で、昆虫相も明瞭に暖地性傾向を示す。一般にはまれ
な種とされるアミダテントウが甲虫類の中では優占種となっているのがその例で
、その食餌昆虫であるアオバハゴロモも著しく多い。そのほかの暖地性昆虫とし
て、イセリアカイガラムシ、トビナナフシ、ヒナカマキリ、オオゴキブリなどが
あげられ、オオミスジマルゾウムシ、ムラカミカレキゾウムシの近縁種、ハネナ
シセスジキマワリ、ヒサゴクチカクシゾウムシなどは県下では分布が限られてい
る。特に珍しいものではないが、暖地に多いアオスジアゲハが蝶のうちでは優占
種となっていることも特徴的である。照葉樹林植生に伴って典型的な暖地性昆虫
相を示し、学術的に貴重なばかりでなく、自然観察の場としても優れているので
、その自然環境を損うことなく、保全に一層の配慮が望まれる。
 沿岸地域については特記事項なし。


〔爬虫類等〕
 爬虫類ウミガメ科のアカウミガメが、1967に小浜湾内の海岸で産卵したという
記録がある。その卵が孵化したかどうかは不明だが、県内での産卵記録はこの一
例のみである。ちなみに、石川県内灘海岸で産卵孵化の記録があるが、これが日
本海海岸での北限とされている。(1979 徳本浄 北陸の自然誌)


〔景 観〕
 加斗の海岸は、静かな湖水の如きおだやかさをたたえる小浜湾に臨むもので、
地形的には、青井付近に海蝕崖がみられるのをはじめ、起伏と屈曲が多く比較的
変化に富む海岸である。
 この地区の海岸で、特筆すべきは蒼島で、この島は小さい無人島であるが、島
内にはナタオレノキ、タブノキの群落をはじめ、暖地性植物の群落が残存するも
ので、貴重な林相景観の島である。静かな湖水の如き湾内に浮ぶ姿は、詩情にみ
ちた風景である。
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(この地区の情報は BEATLES さんに入力を協力していただきました)