7(奥越火山地)法恩寺山地区−−5万分の1地形図【越前勝山】−−−−−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔景 観〕

7 法恩寺山地区                                    [⇒位置図]

〔概 要〕
 法恩寺山( 1,356.8m)は、経ヶ岳と一続きの山体で、共に鮮新世−洪積世
に噴出した古期の火山岩類から構成されている。山頂からの溶岩流が西側斜面
に分布する緩斜面を作っている場合が多い。
 この地域は、本県における代表的な多雪地域の一つで、夏緑広葉樹林、特に
オオバクロモジ−ブナ群集及び チシマザサ−ブナ群集の極相的な原生林が分
布している。
 また、山麓には平泉寺の スギ林帯及び雁ヶ原の草原地帯を擁し、二次林帯
の垂直分布を含めて、すぐれた林相景観を呈している。
 鳥類では、法恩寺山上部の夏緑広葉樹林内で夏鳥の繁殖が認められるほか、
カケスが優占し、渓流部では カワガラスの繁殖が見られるなどすぐれた生息
環境を呈している。斜面中腹以下では、ヒヨドリが優占する地区である。
 昆虫類は部分的にはかなり豊富であるが、特記すべきものはない。
 法恩寺山は火山地形で、西方には次第に高度を下げて平泉寺に連なる穏やか
な山稜線を持ち、上部には ブナの原生林、山地は スギ造林地が広範囲に分布
する森林景観を呈する。


〔地形・地質〕
 法恩寺山は経ヶ岳と一続きの尾根を作り、東斜面は急傾斜であるに対して、
西側には緩斜面が発達する。その一つである芳野ヶ原は海抜500m〜600mあり
、そこからみた九頭竜川中流域の景観は見事である。全体として西方に向かっ
て山地が低下しているが、三頭山(海抜 777.5m)はむしろ突出している。
 法恩寺山は経ヶ岳と共に、鮮新世−洪積世前期に噴出した火山岩類からなり
、その基盤はいずれも面谷流紋岩類である。この火山岩層は安山岩質溶岩と凝
灰角礫岩〜火山角礫岩の繰り返しから構成され、法恩寺山頂付近に分布する玻
璃質の黒色安山岩溶岩流は最も新規のもので、芳野ヶ原などの緩斜面を作る溶
岩流も同時期のものである。
 法恩寺山頂の南西方に弁ヶ滝がある。この滝は顕著な厚い溶岩流を造瀑層と
している。


〔植 物〕
 法恩寺山は、経ヶ岳( 1,625.3m)の西側に連なり、西側山麓には広大な面
積にわたって雁ヶ原の草原地がひろがり、南側山麓には本県において最も代表
的な林相を呈するスギ林帯が、平泉寺を中心に極めて広大な地域にわたって分
布している。
 法恩寺の山頂付近には、チシマザサ−ダケガンバ群集の一部残存が見られ、
それらの下部に経ヶ岳の ブナ林植相に共通する日本海組成を持つ
オオバクロモジ−ブナ群集が、標高ほぼ 1,000m付近まで残存し、その林間に
は、マルバマンサク、チヤボガヤ、ハイイヌガヤ、オオカメノキ、
エゾユズリハ、ヒメモチ、アオダモ、ハウチワカエデ、ヒメアオキなど、林床
には、オオバユキザサ、イワウチワ、タケシマランなどが顕著である。
 それらの下部には、ブナ−ミズナラ林、クリ−ミズナラ林及びスギ林の垂直
分布が、極めて典型的な帯状林帯を構成し、すぐれた自然景観を構成している
。


〔鳥 獣〕
 鳥獣の生息環境は、法恩寺山には夏緑広葉樹の優れた林相を見るが、高倉山
、暮見川沿いは2次林で一部アカマツ林を含む。三頭山林道は標高 800m付近
に達し、伐採、植林地となっている。
 ヒヨドリが低位置で優占し、ウグイス、カケスが多い方で、コゲラ、メジロ
、シジュウカラ、夏鳥のサンショウクイをはじめ、カワガラスの繁殖、獣類で
はムササビ、トウホクノウサギを観察する。また、オオルリ、キビタキ、
ヤブサメなどの夏鳥も観察できる生息環境を有している。


〔昆 虫〕
 法恩寺山そのものは開発が進み、調査不充分のこともあって、特記すべき昆
虫の記録はないが、中腹に当たる三頭山は甲虫類が比較的豊富である。一本松
では ムカシトンボ生息が記録されているが、現在も生息しているか不明、近
年確認されていない。


〔爬虫類等〕
 両生類、爬虫類では、ヒダサンショウウオを始め、カジカガエル、
モリアオガエル、ヤマアカガエル等が多く、ヤマカガシ、シマヘビ、マムシが
多い。
 貝類では、クワイワマイマイがわずかに生息し、ゴマガイ、イブキゴマガイ
、ヒダリゴマガイ、ナミギセル、オオタキコギセルが多い。一般に種類数はか
なり多いが、個体数は少ない。


〔景 観〕
 法恩寺山は、西になだらかな斜面をむくらせた火山性地形の山で、東南隣に
高くそびえる経ヶ岳の男性的な山容とは対照的に、女性的な感じをもつ山であ
る。
 西斜面は、かなり早くから人手が入っていて、スギの植林もみられるが、海
抜 800m位から上は ブナ林を主にした広葉樹林で、登るにしたがい原生林に近
い林相がみられる。ことに、女神川上流の経ヶ岳に連なる尾根をもつ谷は、
ブナの原生林に覆われていて、自然度も高く、深山の趣の深い幽邃な山岳景観
である。
 浄土寺川上流の一本松は、戦前よりその東方の台地上の芳野ヶ原は戦後の開
拓地で、ナギ畑の景観は恰かも加越国境の山地にみられる出作の様である。
 三頭山より法恩寺山頂を経て、滝波川上流の早内森に通ずる道は、白山信仰
に於ける越前口馬場平泉寺より、白山に登拝した古代、中世の修験者の禅定道
で、今はブッシュ等のためにわかりにくくなっているが、この古道及び古道よ
りみることができる深山の、趣の深い沿道の自然の景観は、白山信仰上の歴史
的自然の景観として貴重である。
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