68(三遠山地)内外海半島地区−−−−−5万分の1地形図【鋸崎】【西津】−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔陸水生物〕〔景 観〕

68 内外海半島地区                                   [⇒位置図]

〔概 要〕
 久須夜ヶ岳(619.1m)東北東に走る山稜の南側には中・古生層が発達し、そ
の北側には花崗岩が分布している。海岸部には奇岩・洞窟の多い蘇洞門のはげし
い海食地形が連なり、その景観は見事である。
 久須夜ヶ岳と夏緑二次林は、安定した林相を呈し、中でもミズナラ−アオハダ
−コウヤボウキ群落によって代表されるクリ−ミズナラ林及び一部に広く分布す
るヤブツバキ林の林叢が注目される。
 この地区は、ホオジロやウグイスよりもエナガ、メジロの個体数が多く、森林
性の鳥類の生息も多い方で、イワツバメの繁殖、ニホンザルの群れなど生息環境
はよい方である。
 昆虫相では、久須夜ヶ岳自然歩道に沿った地域で、蝶類やハチ類が多く見うけ
られ、甲虫類でも非常に稀な種が確認されている。
 若狭湾国定公園を代表する景勝地の一つである蘇洞門は、内外海半島の先端が
6kmにわたって日本海に落ち込むところにある。日本海の波浪が花崗岩を浸食し
、様々な方状節理の奇岩、洞門、洞窟断崖の豪壮な景観を造形し、名勝に指定さ
れている。


〔地形・地質〕
 この半島は小浜湾の東側に位置し、久須夜ヶ岳が最高地点で、エンゼルライン
の終点になっている。湾内の泊・堅海付近には狭い沖積低地がみられる。
 内外海半島の北西側には北東方向に角閃石黒雲母花崗岩がみられ、これと接す
る中・古生層は著しく接触変質(珪化作用)を受けて堅硬となり、松ヶ崎から久
須夜ヶ岳に至る山稜部を作っている。松ヶ崎から白石黒石まで奇岩、奇洞、断崖
がならび、花崗岩中に発達した節理、断層と関係が深い。その中で蘇洞門の大門
・小門は有名である。
 半島主部を構成する中・古生層は主として粘板岩であり、砂岩、チャートも含
まれている。先端の松ヶ崎にはモリブデン、タングステンの旧採跡が残っている
。


〔植 物〕
 久須夜ヶ岳を中心として急峻な地形を示す半島の海岸断崖地や風衝地には、
スダジイの萌芽林が広範囲にわたって分布し、それらから久須夜ヶ岳の山頂に向
かって、クリ−コナラ林、シデ林、クリ−ミズナラ林が分布している。また、中
腹付近にかなり広範囲にわたって、ヤブツバキの密生林叢が分布して、照葉樹林
の自然環境を指標している。
 スダジイの萌芽林は、ヤブコウジ−スダジイ群集落組成の安定した林相を呈す
る。また代償林ではあるが、久須夜ヶ岳山頂付近にはクリ−ミズナラ林の典型的
な林相が見られる。特にミズナラ林では、林冠にミズナラ、リョウブ、アカシデ
、クマシデ、アオハダ、林間にはマルバマンサク、コバノトネリコ、ヤマボウシ
、ケカマツカ、タンナサワフタギ、クロモジ、コバノガマズミ、ツノハシバミ、
林床にはコカンスゲ、コウヤボウキ、シハイスミレ、サジガンクビソウなどが顕
著に見られる。組成的には、ミズナラ−アオハダ−コウヤボウキ群落にまとめら
れる。
 ヤブツバキ林は、半島の標高200m付近の南西急斜面沿いに分布し、組成的には
ヤブツバキ−ヤブムラサキ−イヌナヨダムケ群落として識別される。
 エンゼルラインの造成以後、何回も斜面修復工事が行われているが、土砂くず
れがやや著しく、不安定な状態になっているようである。
 特に、久須夜ヶ岳の中腹斜面における林被がやや衰退しているように考えられ
る。


〔鳥 獣〕
 5〜6月の繁殖鳥、夏鳥の時期2回の調査で計39種を記録した。内森林鳥20種、
夏鳥11種、冬鳥2種、他にスズメ、カラス、ウミネコなど6種である。エンゼル
ラインの道路沿いの観察であったがエナガ、ヒヨドリ、メジロがそれぞれ総出現
数の8%を占め、林縁性のホオジロ7%を上回っていた。カワラヒワ、
シジュウカラ、イカルもそれぞれ7%でヤマガラ、樹洞性のコゲラも多く、
ウグイスは5個体0.9%と少ない良好な環境といえる。
 終点付近ではイワツバメ83個体15%と最大値を示したが、海岸の洞穴で繁殖し
ていると思われ県内でも数少ない繁殖地の一つである。また、ニホンザルの20頭
ぐらいの群れが見られた。


〔昆 虫〕
 エンゼルライン自動車道設置に関連した開発によって、半島の相当部分はほと
んど見るかげもなくなっているが、久須夜ヶ岳自然歩道に沿った地域はかなり良
好な自然度を維持している。同歩道わきは花が多く、その蜜源や花粉を求めて訪
来する蝶類やハチ類が多く、中でも嶺南地方初記録となった美麗種の
ウスキギングチバチの確認は特筆に価する。甲虫類でも、調査回数が少ないので
生息が確認された種類は多くないが、若干の注目すべきものが得られている。1
頭だけ採集されたチャバネホソリンゴカミキリの日本での確実な採集例は1933年
の京都府冠島からのものだけであったという異例の珍稀種である。また、
キボシチビオオキノコムシ、ヒメボタル、モジャモジャカレキゾウムシ、
チャイロズマルヒメハナムシなどの本県では珍しい甲虫が採集された。半島の西
南部の昆虫相は全く調査されていないが、上記のようなことから類推すれば、今
後の精度の高い調査によって、さらに学術上貴重な資料がもたらされるかもしれ
ない。しかし、現段階では推定の段階を脱しえない。


〔陸水生物〕
 (藻類)
 アミダ川・水谷川の小河川があるが、コンクリートの水路と化していて河川と
呼ばれるような水域ではない。2ヶ所合わせて藍藻2、珪藻42、緑藻1、計45種
が確認できた。量的には非常に少なく、コッコネイス属、ロイコスフェニア属、
フナガタケイソウ属、アオミドロ属がやや多くみられた。
 (水生昆虫類)
 河川規模は極めて小さく、水生昆虫は渓流性のものが若干みられる程度で、量
、種類数ともに少ない。
 (魚類)
 小河川で、アユ、ウキゴリ、ヨシノボリが少数生息していた。


〔景 観〕
 内外海半島の大部分は久須夜ヶ岳の山地で、海はこの半島により、波の荒い男
性的な外海と、波静かで温和な小浜湾に分けられる。
 久須夜ヶ岳が、急峻な斜面を以て海に迫る半島北側の海岸は、海蝕をうけて海
蝕崖を発達させ、若狭蘇洞門として知られる大小の岩礁や洞門、洞窟、数十メー
トルにも及ぶ断崖等奇勝の連なる海岸がつくられている。
 この男性的な美しさをもつ景観の海岸も、七蛇鼻を境として南に折れると、一
転して静寂な東側の海岸となる。また半島南側の小浜湾に面する堅海、若狭浦等
の海岸も、あの外海の如き荒々しさは全くみられず、どこをみても温和で、女性
的な美しさがみられる。
 エンゼルラインがつくられている久須夜ヶ岳の山頂よりの眺めは、変化に富む
若狭湾を一望におさめることが出来、雄大で実にすばらしい自然景観である。
 内外海半島のもつ自然の景観には、躍動と静寂、男性的な荒々しさと女性的な
穏やかさの如く、相反する異なった美しさが常にみられるもので、稀な地区であ
ると云える。小浜湾の最奥地にある古津は、古代、中世における港として古い歴
史をもつばかりでなく、この辺の海は誠に静かであり穏やかで、水郷的な景観を
もつ。
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(この地区の情報は BEATLES さんに入力を協力していただきました)