66(三遠山地)常神半島地区−−−−−5万分の1地形図【西津】−−−−−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

66 常神半島地区                                   [⇒位置図]

〔概 要〕
 常神半島と離島である御神島からなる地区で、この付近は典型的な沈水性海岸
線を呈している。常神半島にはヤブコウジ−スダジイ群集、モチノキ亜群集組成
の典型的な照葉樹林が形成されており、本県における照葉樹林帯の最も代表的な
地域である。御神島には、ホソバカナワラビ−スダジイ群集が全島をおおい、若
狭湾沿岸に散在するスダジイ林の群落型のひとつとして、その自然環境が注目さ
れる。
 鳥獣類では、林縁性のホオジロが群をぬいて優占し、カラ類、キツツキ類も見
られるが、生息環境は優れているとは云えない。海岸性の鳥類、ニホンザルの生
息も見られる。
 昆虫相では、アミダテントウ、イチモンジハムシなどの分布北限をはじめ、暖
地的要素が強いが、中でも御神島にはヒメハルゼミが生息し、分布北限種を含む
生物地理学上貴重な昆虫が分布する。
 爬虫類等では、わずかばかりの耕地、小さな渓流、集落の周辺等自然が保たれ
ており、その生息環境は多様である。
 若狭湾に大きく突き出た常神半島は屈曲がはげしく、東海岸には断崖が海にせ
まって人を寄せつけない。西海岸には、静かな浜辺に漁村が点在し、入り込んだ
リアス式海岸の岩礁が夕日に映えて刻々と変化する様は、海の慕情をきわめる。
周囲に海蝕崖をめぐらす御神島付近の海域は、三方海中公園に指定され、自然の
美しさを見せてくれる。


〔地形・地質〕
 三遠三角地内で、最も若狭湾へ細長く突出した部分が常神半島で、その先端付
近に御神島がある。この付近は典型的な沈水性海岸線を呈している。
 梅丈岳から半島部にかけて中・古生層が分布しており、粘板岩、粘板岩・砂岩
互層からなり、チャートを伴っている。一般走向は北東〜南西を示す。


〔植 物〕
 常神半島と御神島の地区で、常神半島は、ほぼ南北に走る稜線から、東側及び
西側に急峻な斜面を形成し、御神島は離島であり、若狭湾では、最大の面積を持
っている。
 半島の西側、湾に臨む小川、神子及び常神における社叢、風衝地を中心にし、
また、御神島全域にわたって、スダジイ林を主とする照葉樹林が極めて安定した
極相組成を示す。
 それらの組成の中、御神島では、全島にホソバカナワラビが優占する群落型が
優占する。林間には、ヒメユズリハ、リンボク、モチノキ、ヤブツバキ、
ヤブニッケイ、ジャノヒゲ、ホソバカナワラビなどが顕著である。やはり
ヤブコウジ−スダジイ群集のチモノキ亜群集と考えられるが、ホソバカナワラビ
−スダジイ群集を設定していることもあり、今後更に検討を要する。
 神子神社のタブノキ林叢では、ヤブツバキ、シロダモ、ヤブニッケイ、
タブノキ、イノデ、ヤブラン、オニヤブソテツやコクサギが優占して、イノデ−
タブノキ群集の典型的な極相が残存している。
 また遊子付近には、低木化しているが、サカキの高密度な分布が見られ、生態
地理学的に非常に貴重である。
 全域にわたり群落組成が安定していることから、本県における照葉樹林帯の最
も典型的な林相が形成される地域であると考えられ、極めて貴重な地域である。


〔鳥 獣〕
 調査はレインボーライン〜常神線の道路沿いと常神地区林地、御神島周囲より
の観察、千島について実施した。林縁種のホオジロが109個体(18%)と優占し
ており、森林性のメジロ63個体(11.4%)、エナガ55個体(9.9%)が次ぎ、
シジュウカラ、ヤマガラ、ヒヨドリ、ウグイス、アカゲラ、コゲラも出現し、出
現36種の中20種が森林およびその周辺の鳥で林相の豊かさを示している。また、
漁港、集落を控えてトビ、カラス、スズメ、ツバメも多く、海岸崖で、繁殖する
イソヒヨドリも住みわけている。御神島の林内調査は行わなかったが、一時期
アオサギのコロニーがあった。千島は小さな岩礁であるがクロサギ、ウミネコの
営巣を見るが釣場となっているため永続性は困難である。
 ニホンザルの生息もみられる。


〔昆 虫〕
 御神島は暖地性昆虫の分布地として、県下では生物地理学的見地から極めて貴
重である。県下で唯一の生息地となっているヒメハルゼミは、スダジイ−
テイカカズラ群集の林に多数おり、間けつ的に大合唱を聞くことができる。この
セミは照葉樹林に特異な暖地性種で、日本海側では新潟県能生(天然記念物)に
次ぐ分布を示し、富山・石川県には正確な生息地が知られていない。
ヒメアヤモンチビカミキリとクロオビトゲムネカミキリはともに北限分布を示し
、福井県からはほかに採れていない。キュウシュウチビトラカミキリと
アミダテントウは福井県の他地でも見られるが、やはり分布北限で、そのほか
ケシカミキリ、ヨコヤマヒメカミキリ、オオゴキブリなど、いずれも南方系の昆
虫が生息する。離島の一般的傾向として、昆虫相の種類数構成は貧弱であるが、
特異な種が認められ昆虫の分布上重要であるので、保全に万全を期したいもので
ある。
 アミダテントウは小川でも記録され、常神ではイチモンジハムシが生息しこれ
は分布北限である。半島部は隣接していながら御神島とはかなり昆虫相が異なり
、ヒメハルゼミ、ヒメアヤモンチビカミキリ、クロケビトゲムネカミキリなどの
生息は認められないが、暖地性昆虫が優占する点では共通しており、
タイワンメダカカミキリ、ヒナカマキリ、ケシコメツキモドキが確認されている
。またイカズチキマダラハナバチの生息は注目すべきで、大型美麗種で珍稀な
トワダオオカの発見も特筆に価する。


〔爬虫類等〕
 両生類・爬虫類では、海岸沿い山麓の狭少部で、種類はかなり多いが個体数は
少ない。トノサマガエル、ヤマアカガエル、アマガエル等に、道路わきの小さな
水溜りの上にモリアオガエルの卵塊を一つだけ木の枝に下がっているのを見た。
ヤマカガシ、シマヘビ、マムシ、アオダイショウ(小川神社の境内で2mを越す
)のを目撃した。トカゲ、カナヘビ、イモリ、ヤモリの生息についても聞き取り
で確かめた。
 対馬暖流に乗って北上するウミガメ、ウミヘビの類の漂着は他と比べて多い。
アカウミガメ、タイマイの漂着については塩坂越の高谷竹次郎(78才)からの聞
き取り、クロガシラウミヘビの漂着は常神の宮川政治(73才)からの聞き取りで
、このヘビの正確な名称記憶で、十分な信憑性を持つものと思われる。
 貝殻類ではオトメマイマイ、イツマデガイ、オオケマイマイ等が多かった。


〔陸水生物〕
 (藻類)
 せまい半島のため河川とよばれる水域はないが、竜宮、常神社、小川、遊子の
4ヶ所の小さな小川で付着藻調査を行った。4ヶ所合わせて藍藻3、珪藻55、緑
藻3、黄緑色藻1、計62種を確認した。
 量的にはたいへん少なく、いずれも普通種であるが、コッコネイス属が4地点
ともに比較的多くみられた。
 (水生昆虫類)
 谷に沿って水路がいくつかみられるが、規模は極めて小さい。河床にコンクリ
ートを張られた部分も多い。水生昆虫は、量、種類ともに少なく、特記事項はな
い。
 (魚類)
 小河川で、ウキゴリ、ヨシノボリが少数生息する程度である。


〔景 観〕
 若狭湾に突出している常神半島に点在する常神、御子、小川などの諸集落は、
最近まで陸路をたどっていくのが困難であったこともあって、離島的な感じをも
つ漁村であった。ことに半島の突端にある常神付近は、タブノキやスダジイなど
の暖地性の常緑広葉樹林の群落が分布しており、この半島の東側の海岸一帯は、
丘陵と海蝕崖のつづく海岸であり、その丘陵に分布する樹木も、スダジイの極相
林、萌芽林が目立ち、半島全体が内陸の山地とは異なった自然景観をもつもので
、離島的な感じが非常に深い。
 常神の湾内の最奥にある常神社の社叢は、かなり広いものであるが、暖地性の
常緑広葉樹林の老成巨木が多く、本県としては稀な景観の社叢である。
 常神半島の先端500〜600mのところにある御神島は、全島が急峻な山地であり
、周囲は海蝕崖をめぐらし、東側の狭隘な礫海岸を除いて上陸の困難な島である
。半島の突端や御神島の外海側は、特につよい海蝕をうけて海蝕崖を発達させ、
岩礁海岸をつくって美しい海に適合した景観を示している。島内にはタブノキ群
落やスダジイ群落が分布していて、地形も林相も原生自然の姿をよくとどめてい
る。貴重な自然景観の島である。
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(この地区の情報は BEATLES さんに入力を協力していただきました)