64(野坂山地)三十三間山地区−−−−5万分の1地形図【西津】【熊川】−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔景 観〕

64 三十三間山地区                                  [⇒位置図]

〔概 要〕
 県境稜線部に位置してかなり定高性を示す三十三間山(842.3m)の西側には
山麓部に丘陵地が付着しており、一段と低い三遠三角地は若狭湾岸地域の中で最
も沈水性地形の著しい部分である。山地部はすべて中・古生層から構成され、丘
陵地には更新世の地層が分布している。
 山頂付近は、ツルシキミ型のオオバクロモジ−ブナ群集組成の原生林が、ごく
狭い範囲に残存している。全体的には、伐採が著しく、不安定な林帯に変化して
きた。
 鳥獣相では、ヒヨドリ、ホオジロ優占の地区で、森林鳥もある程度は認められ
るが、生息密度は低い方である。大型獣類の生息もあるがよい生息環境とはいえ
ない。
 昆虫相では、中には注目すべき昆虫の生息も認められるが、その種構成は比較
的単純で、個体数の面でも貧弱である。
 三十三間山からの、沈降海岸特有の起伏と屈曲に富む若狭湾沿岸部と三方五湖
の俯瞰景観は、極めてすぐれた自然景観を呈している。


〔地形・地質〕
 三十三間山は、三方郡三方町と滋賀県高島郡今津町との県境に位置しており、
野坂山地(湖北山地)の中で最も西方ブロックの一部をなしている。その山頂部
には、かなり平坦面を残しており、定高性も認められる。また、山稜はほぼ南北
に延びており、その西側の山麓部には、海抜250m以下の丘陵地が付着している。
この山地と丘陵地の境付近を南北性の三方断層が通っているものと推定される。
 三方断層を境に東・西両側の地塊が大きく差別的変位をし、西側のブロックが
大きく陥没したとみられる。そのため、三遠三角地は若狭湾岸地域の中でも、最
も沈水性海岸線の著しい部分になっている。
 三十三間山を構成する中・古生層の岩相、構造は若丹山地のそれらと類似して
いるが、三方断層に近接した部分では、その走向も南北方向を示している。三方
断層の形成時代を知ることにより、若狭湾の沈降運動の時期を推定できる。その
ためには、この断層で切断された地層である西麓丘陵地を構成する洪積層(能登
野層)が問題となろう。
 能登野層は成願寺・倉見付近の丘陵地に分布し、主に礫層から構成されるが、
中部に泥質層を挟み、Menyanfhes trifoliata、Donacia等の化石を産し、潟沼の
堆積相を示している。「地形面をもたない地層」という観点から更新統下部とさ
れているが、上位の三方礫層とは一連であることから中期更新世と推定でき、若
狭湾の沈降期は更新世前〜中期と考えられる。


〔植 物〕
 三十三間山の山麓は、倉見部落を流れるはす川の本流と標高200mの地点で合
流する付近に位置する。
 三十三間山を主とする森林植生は、谷筋、谷沿いの斜面及び尾根筋とで、かな
り明確なすみわけ現象が見られる。
 渓流沿いの水辺には、カラスノサンショウ、アブラギリ、コアカソ、
ナツエビネ、ミカエリソウ、キンバイソウ、リョウメンシダ、ジュウモンジシダ
、モンジシダ、その上部斜面沿いには、アカシデ、コハウチワカエデ、コナラ、
アカマツの高木層、ヒサカキ、ダンコウバイ、ムラサキシキブ、クロモジ、
アセビ、シラキ、ヒメアオキ等の低木層がひろがり、標高300〜400m付近の尾根
筋に到ると、アカマツ林帯が形成され、林間に、コナラ、アカシデ、
コハウチワカエデやリョウブなどが優占する。
 標高600m付近から上部には、ブナ林相が分布しはじめ、標高750m付近までに
は、林間にアカシデ、クリ、コナラ、ミズナラ、ブナ、コハウチワカエデ、林床
には、ヒサカキ、クロモジ、ツルシキミなどが優占し、全体的に、
オオバクロモジ−ブナ群集のツルシキミ型の林相と二次林化の過程として考えら
れるクロモジ−ブナ群集との、やや中間型の組成が見られる。
 山頂付近には、ススキとチシマザサが優占する風衝草原がひろがっている。
 三十三間山の森林植生帯としては、県境脊梁を通しての移行的な組成が見られ
るのが特徴的である。


〔鳥 獣〕
 繁殖を終えたエナガの群れをみる。ヒヨドリ、ホオジロが優占するが、
シジュウカラ、イカル、アオゲラ、メジロなどの森林鳥も出現する。23種を認め
たが渡り途上と思われるツツドリ、カッコウ、オオルリがあり、ロードセンサス
法による生息密度はヘクタール当たり5羽程度で夏緑広葉樹林もある程度みられ
るが多い方ではない。
 ニホンイノシシ、ニホンツキノワグマ、ニホンカモシカ等の大型獣が生息する
。


〔昆 虫〕
 地形的・地理的には相当豊富な昆虫を示すであろうと期待されたが、地区の大
部分が人工的な植林地や耕作地になっており、現地調査の結果では昆虫類の種構
成は比較的単純で、個体数の面でも貧弱である。しかし、中には注目すべき昆虫
もその生息が認められ、潜在的な特色を示している。その例として、甲虫類では
、オニグルミノキモンカミキリ、クロニセリリンゴカミキリ、
ツノボソキノコゴミムシダマシ、ヒメキマワリ、クロモンケブカテントウダマシ
、カタモンヒメクチキムシ、ハロルドヒメコクヌスト、ヨツモンヒメクチキムシ
などは福井県では採集例が少ない。蜂類では、ニッポンアワフキバチ、
アタマギングチバチ、コウライプセンバチ、ハクサンプセンバチ、
ソボツチスガリ、シモヤマジガバチモドキ、コキマダラハナバチなどが珍しい種
としてあげられる。トビナナフシやトゲナナフシモドキの記録も注目すべきで、
ウチワヤンマが採集されている。中腹の渓流沿いには、特に珍しいものではない
がアザミテントウが多産する。全体的には昆虫相は貧弱であるが、自然環境の回
復が期待されるならば、昆虫群集から見た自然度も高まる可能性があり、今後の
追跡調査が必要な地区と思われる。


〔景 観〕
 十村の東にそびえる三十三間山は、海抜842.3mの中山性の山で、この山は伐
採が非常にすすんでいるので、自然林的な林相景観を示しているところが少ない
のは、誠に惜しい。
 しかし、山頂はススキやチシマザサの草原群落があり、風衝低木林がひろがり
、その下方にはブナの萌芽林の分布もみられるもので、亜高山性の山の如き景観
がみられる。
 山頂よりの眺めは、沈降海岸特有の起伏と屈曲に富む地形の若狭湾や三方五湖
を一望におさめることが出来るもので、眼下に展開する景観は、極めてすぐれた
ものである。
 即ち、眼下のはす川の沖積地に点在する村落の向うには、変化に富む地形によ
って区切られた三方五湖は湖水毎に水色を異にして望まれ、梅丈ヶ岳の向うには
屈曲のはげしい複雑な海岸線をもって若狭湾中に突出している常神半島や、水の
美しい世久見湾があり、その西に黒崎、小鰡ノ鼻によってかこまれた田烏、矢代
の湾、また久須夜ヶ岳を半島の先に聳出させている内外海半島や海湾など頗る変
化に富むもので、この山の山頂より望まれる自然景観は、頗るすぐれたものであ
る。
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(この地区の情報は BEATLES さんに入力を協力していただきました)