63(野坂山地)雲谷山周辺地区−−−−5万分の1地形図【西津】−−−−−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

63 雲谷山周辺地区                                 [⇒位置図]

〔概 要〕
 三方町と美浜町にまたがる雲谷山(786.9m)を中心として、定高性を示す山地
の東端に耳川断層が、その西端に三方断層がある南北性の山塊である。その西側
山麓部には、高位段丘などがよく発達している。北部は花崗岩、南部は中・古生
層が広く分布している。
 この雲谷山の斜面において、近年著しく伐採が進められているが、山腹から山
麓にかけては、クリ−コナラ林、クリ−ミズナラ林及びアカマツ林が分布し、尾
根沿いには、ブナ−アシウスギ群落を示す自然林が分布している。
 三方町付近では、ウラジロ型スダジイ林の典型的な林叢が注目される。
 鳥獣類では、ヒヨドリが群を抜いて優占している。カラ類、キツツキ類、渓流
の鳥、タカ類、大型獣類の生息もあって良好な生息環境の様相を呈している。
 昆虫相では、伐採が進行している割には、甲虫類、蝶類の種類は豊富であり、
全国的にも稀なサビナカボソタマムシが確認されている。爬虫類等についても生
息相は良好である。
 陸水生物では、雲谷山を水源とする耳川と三方湖に注ぐ小河川が分布域となる
が、はす川を逆上するハスが分布上注目すべき魚種である。
 西側の緩斜面に対し、東側の斜面は急峻で雲谷、新庄より臨む山容は個性的で
美しく、また山頂からの眺望性もすぐれている。


〔地形・地質〕
 雲谷山付近の山地は、三十三間山地区と同じく海抜800m内外の定高性を示し
ており、東側に耳川断層が、また西側に三方断層が存在する南北性の山塊である
。その西側山麓部には、南部で海抜100m以下の丘陵、北部で海抜30m以下の段丘
が分布する。さらに西側では沖積低地が広がっている。三方断層は山地と丘陵地
の境を南北に通っている。この地区は、若狭地方の中で第四紀層が比較的発達し
ており、三方五湖の沈水性地形が見事である。
 串小川以北では新規花崗岩が広く分布し、南方の中・古生代層中に貫入した接
触部にホルンフェルスがみられる。丘陵部は三方礫層、能登野層で、段丘部は気
山層で構成される。特に気山層は下部泥層、上部砂礫層からなり、三方礫層とは
不整合関係をもっている。気山層は汽水環境で堆積したものと判断される。耳川
に沿った下流部では低位河岸段丘礫層がみとめられ、この付近で南九州起源の蛤
良火山灰層(約2万年前)の存在が確認されている。気山層の作る気山段丘は後
期更新世と推定され、最近若狭地方から、この時期の海岸段丘もいくつか報告さ
れている。


〔植 物〕
 雲谷山は、やや孤立山状を呈し、近年伐採が著しくなっているため、代償林化
が急速に進行しているが、山頂付近には、組成的に安定したブナ林が残存してい
る。この林間には、アシウスギ、ウリカエデ、オオカメノキが亜高木層として、
クロモジやリョウブ等が低木層として優占し、林床には、エゾヤマアジサイ、
チゴユリ、スミレサイシンやヤマソテツなどが生存している。その他、
ツノハシバミ、ヨグソミネドリ、ハイイヌガヤ、ミヤマイボタ、
サンインヒキオコシ、ヒメモチ、ツルシキミ、オクノカンスゲや
オオカニコウモリなどが分布して、全体的には、ブナ−アシウスギ群落にまとめ
られる。
 また、三方石観音の拝殿の斜面には、ウラジロ型スダジイ林の萌芽林が密生し
て、顕著な照葉樹林帯となっている。
 三方町付近の神社社叢には、典型的な照葉樹林の林相がよく保存されている。
中でも、気山の少し西側の山麓にある宇波西神社の背面社叢には、ヤマモモが一
部混生するが、スダジイ林の典型的な林叢が残存している。林間には、サカキ、
モチノキ、ネジキ、アセビ、林床にはウラジロ、ヒトツバ、
ホソバニセジュズネノキ等が優占し、全体的にスダジイ−サカキ−ウラジロ群落
にまとめられる。


〔鳥 獣〕
 夏季・秋季各1回の調査で26種を認めた。ヒヨドリが群を抜いて多く、エナガ
、ホオジロ、シジュウカラ、ヤマガラ、メジロ、コゲラと森林性鳥類が優占し、
クマタカ、ノスリ等のタカ類や、河川、渓谷のカワセミ、カワガラス、ヤマセミ
の生息もあって良好な生息環境の様相を呈している。
 獣類ではニホンカモシカ、ホンシュウジカ、ニホンツキノワグマ、
ニホンイノシシ等の大型獣が生息する。


〔昆 虫〕
 近年、伐採がかなり進行しているが、甲虫類、蝶類の種類は豊富である。蝶類
ではウラクロシジミが多産するのが目立つ。甲虫類は訪花性のカミキリムシ類に
比較的珍しいものが多く、マツシタトラカミキリ、アメイロカミキリ、
トビイロカミキリなどは福井県では多くない。ムネマダラトラカミキリは県下で
は初めて採集された。サビナカボソタマムシは県下で2頭目のもので、全国的に
も採集例は極めて少なく、アカバナガタマムシも採れた。三方観音からの登山口
に生息するサシゲチビタマムシは分布北限に近いもので、日本海側では対馬暖流
の影響する温暖な地域だけに分布する。カイヒメテントウも全国的に稀な種とし
て、その分布が注目される。蝶類は概して貧弱であるが、アスワキマダラハナバ
チの採集記録は注目に値する。アリ類では全体的にはその種構成は貧弱であるが
、三方観音裏の登山口付近の森林では変化に富み、種類数・個体数ともに豊富で
ある。個々の種名をあげて評価することはむずかしいが、枯木や朽木に生息する
小形甲虫は種類も多く、県下では稀なものがかなり採集されており、この地区の
潜在的な自然度の高さを裏付けている。森林開発とともに、三方観音や、直下に
見渡される三方五湖の展望とも伴って観光地化も進んでいるが、昆虫相から見た
自然度は、まだ相当高い状態に維持されていると判断されるので、その保全に留
意したいものである。


〔爬虫類等〕
 両生類について見ると、耳川水系の寄土で、1983に河川改修中
オオサンショウウオが工事人夫により捕獲され、その後上流域に放流された。さ
らに1930ごろに隣接する北川の上流三宅等においても確認されている例により、
前記のオオサンショウウオは自然分布と判断される。その他に一般的なカエルの
類が多数である。爬虫類でも一般種の生息が多い中で、当地区ではカラスヘビ(
アオダイショウの黒化型)が目立って多いことは興味ある問題である。
 貝類では、雲谷山山麓線上にナミマイマイ、アツブタガイの生息密度が高い。
湖や平地・山地とせまい範囲に自然がよく保たれているため、種類数が多い。


〔陸水生物〕
 (藻類)
 耳川中流の小支流(岸名川、雲谷川など)、三方五湖に流れ込む宇波西川、観
音川、今古川、串小川などが雲谷山を水源とする河川である。この地区について
は串小川上流の付着藻について報告する。藍藻5、珪藻12、計17種が確認できた
のみで種類数はたいへん少なかったが、アクナンテス属、コッコネイス属が優占
する付着藻群落を形成していた。コッコネイス属は大水が出て河床が荒れ、礫面
がきれいになったあとなどに最初に侵入してくるといわれる種類である。種類数
の少ないのは出水後の付着藻回復の途中の状況とも考えられるが詳細はわからな
い。
 (水生昆虫)
 耳川上流域の一部、はす川支流の串小川を含む。河川形態Aa型。河床礫は浮
石が多い。水生昆虫は山地渓流の生息状況を示す。造網型トビケラの量は多くな
く、現存量も少ない。


〔景 観〕
 東側の斜面は急峻で、西側の三方町側は緩やかな斜面をもつ雲谷山は、美浜町
側の雲谷、新庄より望むものが、個性的で最も美しい。
 山地斜面下部では、夏緑広葉樹林の伐採、造林が拡大しているもののクリ、
コナラ林とアカマツ林が分布し、登るにしたがって、クリ−ミズナラ林が更に
ブナ−ミズナラ林及び、ブナ、スギ林と、垂直的な分布がみられる林相景観を示
し、美しい山容と共に貴重である。
 また山頂よりの眺望性もすぐれていて、三方五湖や変化に富む海岸線をもつ若
狭湾を一望におさめるパノラマ景観が楽しめる。
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(この地区の情報は BEATLES さんに入力を協力していただきました)