62(野坂山地)野坂岳、三国山地区−−5万分の1地形図【西津】【敦賀】−−
                         【熊川】【竹生島】
〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

62 野坂岳・三国山地区                              [⇒位置図]

〔概 要〕
 野坂岳(標高913.5m)を中心にして、夏緑広葉樹による顕著な林帯が構成さ
れている地区で、地形・地質は定高性をもった山地で、東部には花崗岩が広く露
出し、それを深く刻下した黒河川は南北方向に流れ、断層谷とも考えられる。河
床付近には低位段丘礫層が断片的に分布している。また西部には花崗岩の貫入を
受けた中・古生層が拡がっている。
 林相は、北東限種としてのモミジチャルメルソウ、また、暖地性要素として、
アカガシ、カナクギノキ やアセビ、日本海地域要素として、エゾユズリハ、
ユキツバキ、ツルシキミ、キンキマメザクラなどが高頻度に分布している。
 鳥獣では、ヒヨドリが群を抜いている。一般的な森林鳥、渓谷の鳥やタカ類、
獣類の生息もあるが、生息環境は狭められている。
 昆虫相は、若干の分布上注目すべき昆虫の生息が認められるが、それほど豊富
ではない。
 爬虫類等の生息状況は普遍的であるが、陸水生物では、黒河川、耳川の源流域
にあたり、水質は良好で、紅藻類のカワモズクと黒河川上流のアジメドジョウの
分布が注目される。
 野坂岳はこの地方の名山で、その山容は雄大、秀麗であり、また山頂からの眺
めも頗る眺望性に富むもので、脚下に敦賀湾をはじめ変化に富む海岸線をもつ若
狭湾を一望することが出来る。


〔地形・地質〕
 野坂岳と、南方に延びる海抜800m前後の定高性をもった山稜部を中心とした
山地で、東側には、南北方向の黒河川の河谷が発達している。黒河川断層が、こ
の川に沿っているようである。
 この山稜部から黒河川流域にかけては、広く花崗岩(新規花崗岩)が分布して
おり、黒河川沿いでは南北性の節理、小断層などが発達している。また、山稜部
から西側の耳川流域にかけては、北半部は北東性の、南半部は北西性の走向を示
す中・古生層が広く分布し、花崗岩体との接触部付近では、変性を受け
ホルンフェルス化する。中・古生層は、主として頁岩、チャートから構成され、
緑色岩、石灰岩などを伴っている。
 黒河川に沿って、花崗岩巨礫を主とする砂礫層が点在しており、黒河川扇状地
付近の旧扇状地礫層(低位段丘礫層)と一連のものであろう。


〔植 物〕
 この地区は、全体的に地形が急峻であり、野坂岳を中心に花崗岩からなる岩盤
が比較的浅く分布して、所々で露頭が見られる。
 野坂岳の植相では、北東限種としてのモミジチャルメルソウが分布し、暖地性
要素としては、ツクバネガシ、ウラジロガシ、シラカシ、アカガシ、スダジイ、
タブノキ、ヤブニッケイ、カナクギノキ、シラキ、ハゼノキ、ガンピ、アセビ、
ヤブムラサキ、コウヤボウキやウラジロなど、また日本海地域要素としては、
ツノハシバミ、トキワイカリソウ、タムシバ、ツルシキミ、マルバマンサク、
キンキマメザクラ、エゾユズリハ、ハイイヌガヤ、ヒメモチ、ムラサキマユミ、
ユキツバキ、スミレサイシン、ヒメアオキ、サイゴクミツバツツジ、タニウツギ
等多くの種類が分布している。
 そして、敦賀半島と比較した場合、コシダ、ヤマモモやシャシャンポなどがこ
こでは分布せず、全体的に温帯性要素が多い。
 野坂岳の森林植生は、夏緑広葉樹林によって代表され、敦賀半島で照葉樹林に
代表されるのに対応する。
 野坂岳のブナ林は、特に、標高750m付近から880m付近までにおいて、原生林
状の安定した林帯が分布している。それらの組成は、ブナ−オオバクロモジ−
ツルシキミ群落及びブナ−マルバマンサク群落が識別され、全体的には、
オオバクロモジ−ブナ群集に属している。この群落型は、敦賀半島における西方
ヶ岳においても見られるが、西方ヶ岳では、山頂付近までアセビが分布し、野坂
岳では、オオカメノキが顕著であることから、組成的にかなり差があると考えら
れる。


〔鳥 獣〕
 一部に優れたブナ林や夏緑広葉樹が残るが、全域にわたり広範な植林地が見ら
れる。調査年間では45種を認め、移動性の鳥種は夏鳥9種、冬鳥7種、漂鳥6種
であった。繁殖鳥ではヒヨドリが群を抜き、ホオジロ、ウグイスの林縁種、低木
性の鳥が繁殖期に優占している。ブナ林でのアカゲラ、アオゲラ、クロツグミ、
林道などの平坦面に沿う渓谷のキセキレイや、カワガラス、ヤマセミ、森林性の
メジロ、エナガ、シジュウカラの秋季の群れは多い方である。ヤマガラ、コゲラ
が意外に少なかった。サシバ、クマタカ、ハチクマ等タカ類の繁殖があるものと
思われる。
 昭和30年代には、道路沿いの崖でオオルリの営巣をよく見たが、その環境は失
われたようである。しかし、48種もの鳥類が認められ多様な生息環境を有してい
ると思われる。
 獣類ではニホンカモシカが認められ、昭和56年冬に10頭のヘイ死を見たことか
ら一帯には相当数が生息しているものと思われる。


〔昆 虫〕
 昆虫全般から見ると、昆虫の数は少なくないが、開発が相当進行しており、特
記に値する種の生息はあまりない。しかし、ハッチョウトンボ、ルリボシヤンマ
の発生地があり、アキタクロナガオサムシ、ヤコンオサムシなどの生息が確認さ
れた。一方、蟻類相から見ると、野坂岳の山麓付近には数多くの種が認められ、
特にケブカツヤオオアリ、ミカドオオアリなど深山性の種も多く、中腹から山頂
にかけて種類数・個体数とともに多く、高い自然度がうかがわれる。


〔爬虫類等〕
 両生類では、ヒキガエル、ナガレヒキガエル、アマガエル、ニホンアカガエル
、トノサマガエル、ツチガエル、モリアオガエル、カジカガエル等の分布を見る
。ハコネサンショウウオの生息の外に、敦賀の山中で巨大なオオサンショウウオ
が確認された記録(東蒲生1900)がある。古い記録のみでその後の生息について
は全くわからない。(敦賀の山中というのは多分黒河川ではないかと思われるが
推測にすぎない。)
 爬虫類では、イシガメ、ヤモリ、カナヘビ、シマヘビ、アオダイショウ、
ヤマカガシ、マムシ等である。
 貝類では、三国山山頂のブナ林に、ハゲキセル、フトキセルモドキ、
ナミギセルが混棲する。白山系のオオコウラナメクジの生息密度が高い。


〔陸水生物〕
 (藻類)
 黒河川、耳川の源流域、耳川支流の横谷川などがこの地区の主な水域である。
黒河川の上流3地点(楓てい橋、ぶな木橋、雨谷)について報告したい。3地点
合わせて藍藻6、珪藻45、緑藻3、紅藻1、計55種が確認できた。最上流の楓て
い橋地点で優占的にみられた紅藻のカワモヅク属はめずらしい種類で、県内にお
ける生育水域も限られていて、大野市の湧水帯など数カ所知られるのみである。
その他はいずれも普通種であるが、サヤユレモ種、冷・清水域に多い
クノジケイソウ属、ハリケイソウ属、アクナンテス属などが多くみられた。
 (水生昆虫類)
 黒河川の上流域、井の口川が含まれる。河川形態Aa型。山腹の土石が流路に
崩れ落ちている部分が多く、したがって河床礫は渓石が多く、水生昆虫の生息状
況も良くはない。山地の渓流にみられる種類構成である。松屋付近では河床礫が
安定し、現存量も多くなっている。
 (魚類)
 黒河川ではイワナ、アマゴ(放流魚)、アジメドジョウ、耳川でイワナ、
ヤマメなどが生息していた。分布上、黒河川(笙ノ川水系)のアジメドジョウが
注目される。


〔景 観〕
 この地区は、海抜850m内外の中山性の山々を連ねる若越国境の脊梁山地で、
野坂岳、三国山(876.8m)を主峰とする。
 野坂岳は、敦賀の地に君臨するかの様に、雄大な山容をもってそびえるこの地
方の名山で、山麓にはスギの植林とアカマツ林の分布がみられ、登るにしたがい
クリ−コナラ林、クリ−ミズナラ林となり、更にブナ−ミズナラ林及びブナ、
スギ林と変わり、山頂付近にはブナの極相林もあって、この山の林相景観は典型
的な垂直分布がみられる。
 敦賀のどの地から望んでも、この山の山容は雄大で秀麗であるが、山頂からの
眺めもまた、頗る眺望性に富むもので、脚下に敦賀をはじめ変化に富む海岸線を
もつ若狭湾などを一望におさめることが出来、その景観は雄大で美しい。
 この野坂岳の南に続く山々や三国山、美浜町横谷川の水源地域の山も、850m
内外の山で、野坂岳同様に山地の林相は垂直的分布を顕著にしているもので、標
高の割合いに、深山の趣をあらわしている。
 市野々にある国の名勝に指定されている柴田氏庭園は、野坂岳を借景として造
られている名園である。
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(この地区の情報は BEATLES さんに入力を協力していただきました)