61(野坂山地)五位川流域地区−−−−5万分の1地形図【敦賀】−−−−−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔景 観〕

61 五位川流域地区                                    [⇒位置図]

〔概 要〕
 五位川及び黒河川の上流域と、乗鞍岳(865.4m)の北側斜面を含む地区で、
全体が花崗岩で構成された山地であり、その中に南北方向の河谷が発達し、高位
段丘層のほかに崖錐−扇状地性の低位段丘が多くみとめられる。
 植相は、クリ−コナラ林、クリ−ミズナラ林、ブナ−ミズナラ林、ブナ−スギ
林及びスギ林に、峡谷林として、ウラジロガシ林及びアカガシ林が分布する。ま
た、シロモジ、ハスノハイチゴ、タジマタムラソウ、シロバナウツギ、
コバンノキなど区系地理学的に貴重な種が多い。
 鳥相は、林縁種のホオジロが優占し、低木叢のウグイスも多いが一般的であり
、種類数、個体数ともに多い方ではない。カモシカの生息も認められるがその生
息環境は良好とはいえない。


〔地形・地質〕
 県境付近から北方に流下する五位川以西は、海抜700〜800m内外の定高性を持
つ山地で、その東側は一段低く海抜500〜600m程度である。この地区では、大浦
川、五位川に沿った南北方向のリニアメントが顕著であることから、断層谷と理
解されている場合が多い。この直線性は花崗岩体中に発達する節理、小断層破砕
部、熱水変質部とむしろ関係が深いと考えられ、これらの弱い部分が選択的に侵
食されたものであろう。
 地質的には、全地区が花崗岩類(新期花崗岩)から構成されており、五位川沿
い、また大浦川上流部には、更新世中期の泥炭質泥層を介在する砂礫層が分布し
ている。五位川沿いでは、それを被って新鮮な花崗岩塊に富む崖錐〜扇状地性の
低位段丘が各所に発達している。


〔植 物〕
 五位川の上流域では、太平洋要素であるシロモジが広範囲にわたって移入、分
布し、やや不安定ではあるがシロモジの林叢が見られる。また黒河川の上流域に
は、ハスノハイチゴ、タジマタムラソウ、シロバナウツギ、コバンノキ、
オオバキスミレ、ギンリュウソウ、ヒロハテンナンショウなど本県の植相の中で
、区系地理学的に貴重な種類やオオバクロモジ、ツノハシバミ、マルバマンサク
、キンキマメザクラ、ヒメアオキ、ツルシキミ、ジャノヒゲ、オクノカンスゲな
ど日本海側固有要素を含む夏緑林帯がひろがっている。
 林相としては、クリ−コナラ林、クリ−ミズナラ林、ブナ−ミズナラ林、ブナ
−スギ林、ウラジロガシ林、アカガシ林、シロモジ林及び一部ブナ林が多様に分
布している。
 このうちブナ林は、全体的にはブナ−オオバクロモジ−ツルシキミ群落にまと
められ、典型的な日本海型の組成を呈している。
 近年、伐採が極めて急速に進められており、ために林相が不安定になり、更に
代償林化が著しくなっている。中部山岳地帯の西域から離れた西南日本における
夏緑広葉樹林に移行するものとして、是非とも保全すべきであろう。


〔鳥 獣〕
 スギの若令林分が多く低木林での、林縁種のホオジロが多く、ウグイス、
ヒヨドリが次ぐ。またエナガ、ヤマガラのカラ類に次いでトビ、カラスも多い方
である。移動途中のカケス、イカルをはじめ夏鳥10種、コサメビタキを見る。
 調査総計で34種、うち繁殖種と思われるものにサシバ、エナガ、ヤマガラ、
シジュウカラ、ヤブサメ、メジロ、ヤマドリ、ヤマセミなど約10種が生息する。
 1984年5月、融雪後の谷沿いでニホンカモシカのヘイ死体が5頭も発見された
。


〔昆 虫〕
 広域にわたって伐採・植林が行われているので昆虫相は単調であるが、乗鞍山
頂付近は比較的よく自然度が保たれており、稀少種のノコギリハリアリをはじめ
、蟻類相が豊富である。昆虫相の調査は十分でないためもあるが、特にとりあげ
るほどの注目すべきものの生息は確認されていない。


〔景 観〕
 この地区は、黒河川、五位川間の山地及び五位川右岸の山地で、前者の山地は
、海抜750m〜800mの中山性の山が連なり、愛発の山、乗鞍岳を主峰とする。俗
に言う愛発の山は、この山地のほぼ中央にそびえる海抜765.2m、720m、739m
等の一群の山を指す。
 五位川右岸の山は、海抜500m〜600mで、滋賀、福井の県境の脊梁をなす山で
ある。
 愛発の山、乗鞍岳は、海抜400m位を境として、クリ−コナラ林、クリ−
ミズナラ林が分布し、山頂に近づくにしたがいブナ−ミズナラ林及び、スギ−
ミズナラ林と、林相が垂直的に変化し、尾根沿いにアカマツの自然林も点在して
いて、これらの山の林相景観は自然林に近いものである。
 疋田、追分、駄口よりのぞむ愛発の山は、急峻で山容も恰かも亜高山性の山の
如き様相を呈し、美しい。敦賀地方では野坂山と共に、山容も美しく人々にも親
しまれている山で、この地方を代表する名山の一つである。
 近年、夏緑広葉樹林の伐採が進み、スギの造林地が拡大しているが、ここは西
近江路も、東近江路も、北陸路も相会するところで、上方、北陸に通ずる要地で
あり、古くは藤原仲麻呂、辛加知の乱、中世末に於ける朝倉義景の近江出陣など
、文字通りの北陸への関門として、幾多の歴史的事象を有する地で、この地一帯
の景観は、歴史的景観としても貴重であり、夏緑広葉樹林帯の保全が望まれる。
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(この地区の情報は BEATLES さんに入力を協力していただきました)