6(奥越火山地)大日峠、杉山地区−5万分の1地形図【越前勝山】【永平寺】

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔爬虫類等〕〔景 観〕

6 大日峠、杉山地区                           [⇒位置図]

〔概 要〕
 大日山( 1,368.0m)の一部には、白山と同時期に噴出した安山岩がみとめ
られる。中生代の手取層群が広く基盤を構成しており、南部では新第三紀鮮新
世の牛ヶ谷層の存在が知られており、各種の化石を多産する。この地区は低山
地であるが、オオバクロモジ−ブナ群集の標徴種が優占し、安定した組成を示
す ブナ−ミズナラ林が分布している。
 鳥獣相では、渓流沿いの開けた地域の夏緑広葉樹林帯に ホオジロが優占する
ほか、一般的な森林性鳥類や夏鳥も観察され、また例年局地的なノジコの繁殖
も認められている。
 爬虫類等では、横倉から野津川上流、杉山から小豆峠にかけて林道が開発さ
れ、植林化が進んでいるが、自然がまだよく保たれており、渓流沿いには、水
田、砂礫地が散在して、両生類、爬虫類の生息環境としてはかなり恵まれてい
る。
 大日峠から西方にのびる山稜線の下部に壁と云われる断崖を連ねる山容は、
この地方の山を代表する山岳景観の一つである。


〔地形・地質〕
 大日山付近を除いて、海抜 1,000m以下の山地からなり、牛ヶ谷北方に広い
緩斜面がみとめられる。
 この地区には、基盤の手取層群が分布し、それを被って鮮新−洪積世の火山
岩類がある。白亜紀前期の手取層群に属する砂岩頁岩互層(北谷互層)は淡水
成動物化石を産する。勝山市杉山北方から、Trigonoides,viviparus,「ワニ」
などが報告され、古手取湖の存在を示す。大日山を構成する黒雲母石英安山岩
は白山と同時期に噴出したものと判断される。
 この地区南端の牛ヶ谷北方で、新第三紀鮮新世の有律互層である牛ヶ谷層が
僅かに分布する。これは火山の近くにできた「せき止湖」に堆積した地層で、
細〜粗粒の凝灰岩からなり、化石を多産する。ブナ、カエデなどの植物化石、
他に淡水魚、昆虫などの化石もみつかっており、古手ヶ谷湖沼の存在を示す。


〔植 物〕
 加越山地の稜線地区で、大日峠を含む区域である。
 比較的低山であるが、尾根沿いでは、ブナ−ミズナラ林の安定した林帯が分
布、夏緑広葉樹林の自然環境が構成されている。
 林相には、ブナ、ミズナラ、ヒナウチワカエデ、ヒメモチ、オオカメノキ、
マルバマンサク、サイゴクミツバツツジなどが優占し、特に林間に 
アカミノイヌツゲが著しく優占しているのは、低山地としては極めて注目すべ
きである。
 ブナ−ミズナラ林は、全体的にはオオバクロモジ−ブナ群集に共通する安定
した組成を示す。


〔鳥 獣〕
 小豆峠、木地山峠、大日峠一帯に2次林、杉山谷の西又沢から林道終点にか
けてはいくらかの自然林が残る(皿川上流未詳)林相でホオジロ優先、
ヒヨドリ、キセキレイも見られるが、森林鳥のコゲラ、開けた環境にウグイス
も多い。メジロ、シジュウカラ、ヤマガラ、エナガ、カワラヒワ、アオゲラ、
カケス、カワガラスの留鳥。夏鳥のオオルリ、ノジコが多く、ヤブサメ、
サンショウクイ、コサメビタキ、キビタキ、クロツグミを見る。杉山谷の自然
林におけるノジコの生息は数少ない例で観察の度に見られる。


〔爬虫類等〕
 両生類、爬虫類では、モリアオガエル、カジカガエル、ヤマアカガエルが多
い。シマヘビ、ヤマカガシ、マムシの多いことは、奥越山地に共通した生息相
である。
 貝類では、種類数は相当に多いが、個体数が少ない。 ツルガマイマイ、
ノトマイマイの混生生息は研究すべき点である。
 (付記)
 現生の爬虫類ではないが、杉山地区で白亜紀のテドリワニの化石発見(1982
・東洋一)があったことと、足羽郡美山町でジュラ紀のテドリリゥの化石発見
(1966・北川俊一)があったことは、非常に興味深いことである。


〔景 観〕
 加越国境にそびえる大日山は、加賀大日、横倉兜岳など幾つかの峰よりなる
山であるが、何れも海抜 1,300余mの亜高山性の山で、ブナ、ミズナラ林が茂
り、深山の趣が深い。急峻で8、9合目あたりに壁と云われる断崖を多く連ね
るその山容は、頗る個性的で、男性的な美しさをもっている。勝山地方より仰
ぐ山容は、この地方の山を代表する山岳景観の一つである。
 この大日山の東に稜線を連ねる山々は、海抜 1,100m内外の山で、かつて木
地屋が活動した地と伝えられている。
 この地区の山々には、小豆峠、苅安越、木地山峠、新又越、大日峠など、加
賀の山村に通じる峠が幾つもあるが、近年、中野俣、奥河内、横倉等山村の廃
村が相次いでいることから、峠の利用が激減し、道もわからないようになった
ものが多い。峠の道や廃村をとりまく自然の景観には、荒廃の感が深い。
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