59(野坂山地)敦賀半島地区−−−−5万分の1地形図【竹波】【今庄】−−−
                        【西津】【敦賀】
〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

59 敦賀半島地区                                  [⇒位置図]

〔概 要〕
 西方ヶ岳(764.1m)及び蠑螺ヶ岳(685.5m)を主峰とする低山地半島で、東
側は敦賀湾、西側は若狭湾に臨む自然景観のすぐれた地区であり、半島部はほと
んど白亜紀末の花崗岩からできており、海岸部には小規模な平地が散在している
。一部南西側の菅浜付近では、中・古生層中に貫入した花崗岩がみられる。その
海岸地形は変化に富んでおり、水島、門ヶ崎、水晶浜などは著名といえる。
 植相は、標高200mまでには、トベラ−クロマツ群集、ヤブコウジ−スダジイ
群集、イノデ−タブノキ群集が、中腹にはヤマツツジ−アカマツ群集、山頂部に
はオオバクロモジ−ブナ群集が分布し、豊かな組成をもって林帯を構成している
。これらの林間には、北限種のヤマモモやヒメユズリハなど、区系地理学的に貴
重な種類が極めて豊富である。
 鳥類では、一般的な森林鳥は認められるが、キツツキ類や森林性の夏鳥の定着
は少ない。猪ヶ池は夏季水鳥の外、冬のカモ類の休息地となっており、南下する
渡り鳥の経路ともなっている。
 海岸周辺部は暖地的要素の強い昆虫相を示し、西方ヶ岳周辺では山地性昆虫が
生息し、生物地理学上貴重な昆虫の記録もある。両生・爬虫・貝類では特記すべ
きものはないが、全体的に豊かな生息相を示しており、特にカエル類が多い。
 敦賀半島は若狭湾内最大の半島で、南北に連なる西方ヶ岳、蠑螺ヶ岳の背嶺山
地は、夏緑広葉樹林に覆われているが、山頂部には花崗岩の露頭があって特異な
景観を呈するとともに、展望も開け雄大な若狭湾のパノラマ景観が眺望できる。
また海岸部では白砂青松の海浜地、花崗岩の絶壁、海蝕洞、岩礁、砂嘴などすぐ
れた自然景観が各所に点在している。


〔地形・地質〕
 南北に突き出した敦賀半島の中央部には、蠑螺ヶ岳、西方ヶ岳、三内山などの
山頂を結ぶ山稜が南北方向に延び、主分水界をなしている。概して、東側(敦賀
湾側)がより急斜面を作っている。また海岸部には、小規模な平地が散在してい
る。
 地質的には、半島部の山地は中生代末〜第三紀初期の花崗岩(新期花崗岩)か
ら構成されているが、半島基部西南側の菅浜、北田、関付近では花崗岩に貫入さ
れた中・古生層があり、接触変成を受けている。
 東側の浦底・色浜・北岸の白木、長谷、西岸の菅浜などには、比高10〜20m程
度のやや急な低位段丘がみとめられ、粗大な花崗岩質の砂礫から構成されており
、旧扇状地性と考えられる。その他の縄間、常宮、山口、竹波、馬背川流域など
は、いずれも沖積低地である。
 水晶浜の花崗岩質の白砂青松、門ヶ崎の花崗岩の海食地形、立石岬の磯景観、
色浜−水島付近の堆積−海食地形など海岸地形は変化に富んでいる。


〔植 物〕
 半島全域が、典型的な花崗岩群によって構成され、それらの深層風化に伴う地
すべり、崩壊が著しく、やや不透水性の貧栄養的な土壌が浅くおおっていること
から、森林帯の形成が非常に困難な条件下にある。
 しかし、現存の森林植生としては、山麓から標高100m付近までは、スダジイ林
及びタブノキ林に優占される照葉樹林、海岸クロマツ林が分布し、それらから上
部標高500m付近までは、尾根沿いにアカマツ林、山腹斜面にはクリ−コナラ林
、クリ−ミズナラ林、そして、そこから山頂に向けて、崩芽林状であるが、ブナ
の自然林が広範囲に分布し、全体的に、垂直分布が比較的明瞭に構成されている
。
 照葉樹林帯では、スダジイ、タブノキ、ヤブニッケイ、モチノキ、シキミ、
ヤブツバキ、シロダモ、サカキ、ヤブムラサキ、ヤブコウジ、ヤマモモ、
ヒメユズリハ やヤブランなどが優占し、アカマツ林、クリ−コナラ林及びクリ
−ミズナラ林では、アカマツ、アカガシ、シャシャンポ、ヤマウルシ、ハゼノキ
、アセビ、ヤマツツジ、ナツハゼ、ソヨゴ、タンナサワフタギ、マルバマンサク
、コナラ、ミズナラ、ハイネズ、ウラジロ やコシダなどが多い。ブナ林では、
ハウチワカエデ、オオバクロモジ、ヒメモチ、ツノハシバミ、ヤマボウシ、
タムシバ、ウスギョウラク、ツルシキミ、ミヤマシグレ、ヒメカンスゲ、
ナツツバキ やウラジロヨウラクなど日本海地域固有要素を多く含む夏緑林相が
見られる。
 敦賀半島では、ヤマモモ及びヒメユズリハが共に北限種で、植物区系地理学的
にも、極めて重要な自然環境である。
 半島の先端部には、原子力発電所が建設され広範にわたって、かなり著しい伐
採が進められて来た。緑化修景が進められているが、岩盤が浅く、表層土に乏し
いことから、非常に困難である。
 今後、更に保全対策が進行されるべきであろう。


〔鳥 獣〕
 西方ヶ岳、蠑螺ヶ岳の稜線にはブナ林が残り、山地斜面には、広範囲に広葉樹
林が分布するが、全体としては優れた鳥類の生息環境とはいえない。この度の調
査では、林地で37種を認め、猪ヶ池および海岸部で15種の水鳥が認められた。
 森林鳥ではメジロ、エナガ、シジュウカラ、ヤマガラ、ヒガラ、イカル、
ヒヨドリ等が多く、樹洞性のコゲラ等キツツキ類は少ない、林縁性のホオジロ、
低木帯のウグイスも多い。半島先端部は漂鳥の移動経路となっており、越前海岸
からのヒヨドリ、カケスの群れが続く。 猪ヶ池はカイツブリ、ウミネコ、
アオサギ、カルガモが周年生息し、冬季はマガモ、コガモ、ヒドリガモ、
キンクロハジロ、ホオジロガモ等の渡来地となっており、鳥獣保護区の特別保護
地区に指定されている。
 西方ヶ岳ではニホンカモシカの生息記録があり、馬背川流域で
ニホンツキノワグマ、白木周辺でホンドキツネを見る。


〔昆 虫〕
 常宮や立石岬の海岸に近いところでは暖地性の昆虫の生息が目立ち、西方ヶ岳
には山地性の昆虫が多い。馬背峠から記録されたアサヒナルリナガタマムシは県
下唯一のもので、県外でも京都府・滋賀県から少数の記録があるだけである。最
近、白木から報告されたキュウシュウトゲバカミキリは、従来九州・四国以南に
分布するとされたもので本州では初めての記録である。営宮の照葉樹に少なくな
いサシゲチビタマムシは分布北限を示す。全般的に甲虫類が豊富で、目ぼしい種
として、ヨコヤマトラカミキリ、カラフトヒゲナガカミキリ、
チャボヒゲナガカミキリ、ムツキボシテントウ、ナカバヤシモモブトカミキリ、
ヒメトサカシバンムシ、シワナガキマワリ、キョウトアオハナムグリ、
チビコブカミキリ(かなり多い)などをあげることができる。
カラカネハムシダマシの固体数が非常に多いのも特徴的である。蝶類もかなり豊
富で、ウラクロシジミの個体数が多く、ウラキンシジミの生息が認められた。蛾
類では秋期常宮の境内でウスバツバメガが発生する。直翅類では立石岬から
ミドリササキリモドキとコガタササキリモドキが報告され、ともに珍しい。
ムカシヤンマが西方ヶ岳への登山道によく見かける。
 猪ヶ池にはチョウトンボの群飛が観察され、このトンボは古くは各地に普通な
ものであったが、近年激減している。この池は水生昆虫の生息地として貴重であ
ると思われ、淡水生物全般についても興味がもたれる。


〔爬虫類等〕
 両生類では、ヒキガエル、アマガエル、ニホンアカガエル、モリアオガエル、
ヒダサンショウウオ、イモリ等各科にわたり分布している。爬虫類では、
イシガメ、クサガメが分布し、それに海亀の漂着種のアカウミガメ、オサガメそ
れにセグロウミヘビと海ヘビが記録されている。アオダイショウ、シマヘビ、
マムシ、ヤマカガシ等多数である。
 貝類では、ほとんどの海岸線上にイツマデガイ、オトメマイマイ、ナミギセル
、ツルガマイマイが非常に多く生息する。山地にはオオケマイマイ、
ナミマイマイ、常宮−竹生線上には、クチベニマイマイが生息するものと考えら
れる。浦底を中心にケハダビロウドマイマイ、オトメマイマイ、ナミギセルが高
密度に生息している。


〔陸水生物〕
 (藻類)
 西方ヶ岳、蠑螺ヶ岳を水源として半島の西側に落合川、馬背川、東側に色川・
手ノ浦川等があるが、いずれも長さ数km以下という小さな河川である。落合川は
流量も比較的多く安定していて、この地区では最も河川らしさを備えている。調
査は半島西側の落合川で上流と下流の2ヶ所、東側で縄間の名もない小川で1ヶ
所、計3ヶ所で行なった。
 落合川では上・下流で2地点合せて藍藻9、珪藻42、緑藻9、計60種が確認で
きた。小さい河川ではあるが上、下流で種類相において大きく異なっていた。
ハリケイソウ属がやや共通にみられたほかは上下流の種類相の重なりが非常に少
ない。藍藻では上流でヒゲモ属、スキトネマ属、ステゴネマ層が多く生育してい
たのに対し下流では全くみられない。これらの藍藻は河川ではあまり見かけない
種類である。珪藻では上流でアクナンテス属の仲間が多くみられたほかは少なく
、かわって下流ではメロシラ属を優占種として、ハリケイソウ属、ニッチャ属、
クチビルケイソウ属の仲間が多くみられた。緑藻では下流においてツヅミモ属が
多くみられたのが特徴としてあげられる。
 縄間では海藻4、珪藻38、緑藻5、計47種が確認できたがいずれも普通種であ
る。ホモエオスリックス属、メロシラ属、ハリケイソウ属、クチビルケイソウ属
、クサビケイソウ属、アオミドロ属などがやや多くみられた。
 (水生昆虫類)
 小河川がいくつかあるが、いずれも流程が短く、流水量も少なく、水生昆虫も
少ない。落合川はこの地区では最も流水量が多く、人手も加わることが少なく自
然の状態が残されているが、勾配が急で、造網型のトビケラが少なく、現存量も
大きくはならない。
 (魚類)
 馬背川でアユ、シマドジョウ、ヨシノボリ、ウキゴリを、落合川でヤマメ、
アユ、ヨシノボリ、ウキゴリを確認したが、いずれも小河川で魚種数は少ない。


〔景 観〕
 若狭湾に突出している敦賀半島の脊梁をなす蠑螺ヶ岳、西方ヶ岳は、中山性の
山で、登るにしたがいクリ−コナラ林、クリ−ミズナラ林と変り、山頂付近では
、かなり広い範囲にわたって、ブナの原生林が分布しているなど、垂直的分布が
みられ、蠑螺ヶ岳の山頂には、岩場や風衝低木も存在するなど、植相も山容も自
然度の高い亜高山性の山をみる様な、山岳景観を呈している。
 この半島の海岸には景勝の地が多い。即ち、半島の北端は、急峻な山が海に迫
る海岸で、崩壊性をもった花崗岩により奇岩奇石の多い岩礁海岸をつくり、海岸
にはクロマツ林の老成木も分布していて、頗る景勝に富む海岸となっている。
 白木の門ヶ崎は、柱状の節理をなす花崗岩の大海蝕断崖で、崖上には、老木の
クロマツ林が分布して、その奇勝には風致を添えている。
 対岸のはるか彼方の陸地を背景に望む立石集落のながめは、離島的な感じをも
つ漁村景観で、人文的要素が多いとは云え村人の生活風景は素朴で、この地特有
の情緒のただよいがあり、稀な漁村景観である。明神岬のアカマツ林、スダジイ
群落、岬突端のモクゲンジの群落、淡水をたたえる猪ヶ池、淡彩画の様な美しさ
をもつ水島など、立石から水島にかけては、地域は小さいが植生において地形に
おいて、極めて変化に富むもので、多様なすぐれた景観が幾つもみられる。
 常宮神社のシイ林の社叢は、老成林によるもので出邃であり、社叢としては、
稀にみるものである。
 三方郡側の竹波より弁天にかけての海岸は、海水が一入澄んでいる上に、文字
通りの白砂青松の海岸で、清澄の感じの高い海岸風景である。ここからの若狭湾
の眺めも、若狭の海特有のおだやかさがよく感じられるもので、すぐれた海の景
観である。
 浦底、色ノ浜等の西浦海岸一帯は、小舟からの眺めは、おだやかであり、しか
も詩情豊かで、ことに蠑螺ヶ岳、西方ヶ岳を借景とする海岸一帯の眺めは、極め
て詩情に富むものであり、この地特有の情緒がつよく感じられる景観である。こ
の詩情豊かなこの地の自然は、西行も芭蕉もこれを愛してこの浦を尋ねている程
で、歴史的、文学的事象と深い関係のある、この地の自然の景観は貴重であると
云える。
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(この地区の情報は BEATLES さんに入力を協力していただきました)