52(越美山地)能郷白山地区−−−−5万分の1地形図【冠山】【能郷白山】−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔景 観〕

52 能郷白山地区                             [⇒位置図]

〔概 要〕
 能郷白山(1617.3m)、若丸山(1285.7m)及び、温見峠を含む地区である。
この壮年期山地は、中古生層から構成されており、それを貫く花崗閃緑岩が能
郷白山を造る。山体の高所には新第三紀中新世の火山岩類がみとめられる。
 この地区は、本県の代表的な豪雪地のひとつであり、サラサドウダンや
マルバマンサクが優占するオオバクロモジ−ブナ群集の典型的な極相林が分布
し、生態地理学的に極めて貴重な地域である。
 鳥類では、ヒガラなどのカラ類、キツツキ類が観察され、低い所はホオジロ
が優占しているがヤマドリ、ウグイスも見る。鳥類にとって優れた生息環境と
いえる。 昆虫相はよく調査されていないが、その中でも分布上注目すべき種
がかなり確認されている。温見峠では、当地固有の甲虫の生息が認められてい
る。
 爬虫類等では、温見川沿いに多くの水溜りや荒地が点在して、格好の生息環
境をつくっている。
 能郷白山から温見峠にかけての山地斜面には、多くの崩壊地が発達するも夏
緑広葉樹の原生林に覆われて、深山性山岳森林景観を呈している。


〔地形・地質〕
 この地区は、全体として壮年期の越美山地に属しており、県境に位置する能
郷白山付近は、海抜1200m以上に小起伏の尾根がみとめられる。白谷、根尾西
谷の両河川から尾根に発達する谷は、いずれも急峻にして、崩壊が著しい。
 緑色岩を狭み、主として砂岩・頁岩から構成される中・古生層が広く分布す
る。これに貫入した花崗閃緑岩体が、能郷白山を作っている。約1370m以上の
高所に新第三期中新世初期の安山岩類(糸生累層)が存在する。


〔植 物〕
 能郷白山、若丸山及び、温見峠を含む県境脊稜を中心として、その北側斜面
山地を含む地区であり、本県における代表的な多雪地のひとつである。
 それらの中、能郷白山を中心とする脊稜では、ブナ−ミズナラ林、ブナ原生
林及びチシマザサ風衝草原への移行が垂直的に極めて顕著であり、日本海側に
おける多雪地帯の夏緑広葉樹林帯の典型的な植物生態系が構成されている。
 それらの林相には、ブナ、チシマザサ、オクノカンスゲ、サラサドウダン、
ツルシキミ、ハウチワカエデ、シナノキ、タムシバ、ツノハシバミ、
エゾユズリハ、ハイイヌガヤ、ヒナウチワカエデ、マルバマンサクなどが優占
し、典型的な日本海型ブナ林のオオバクロモジ−ブナ群集が代表的な林相であ
る。
 また、温見峠の南東斜面を中心に、典型的なオオバクロモジ−ブナ群集の組
成を含むブナの原生林及びそれらの標徴種が優占するブナ−ミズナラ林が占め
る夏緑広葉樹林が構成されている。
 それらの林相には、ブナ、ヒトツバカエデ、マルバマンサク、
オオバクロモジ、オオカメノキ、タムシバ、チシマザサ、エゾユズリハ、
ヒメモチ、オクノカンスゲ、ツルシキミ、ハイイヌツゲ、ウシカバや
シノブカグマなど日本海固有要素を多く含む組成が見られる。
 本県における夏緑広葉樹林の代表的な林帯のひとつである。


〔鳥 獣〕
 山頂部は笹原や低木叢、温見峠から見る斜面は二次林、西斜面に優れた原生
林を残す生息環境で、渓流にカワガラス、低い所でホオジロ、ヒヨドリ、
キジバト、ヤマドリ、ウグイスを見る。林内にはヒガラ、エナガ、
シジュウカラ、イカルが多く広葉樹林の特性を生かしている。カケス、
ヤマガラ、ウソ、アオゲラ、アカゲラの留鳥、冬鳥のシロハラ、ツグミ、
ジョウビタキをみる。夏鳥については調査してないが、カラ類の生息密度から
みて優れた生息環境を有していることから、その生息および繁殖も十分期待で
きるものと思われる。


〔昆 虫〕
 全般的に開発はあまり進んでおらず、優れた自然度を保っていると推定され
るが、開発されていないがために道路事情が良くなく、登山道も整理されてお
らず、昆虫相はあまりよく調べられていない。しかし、ごく最近、温見峠から
山頂方面へ調査が可能になった。
 蝶類ではオナガアゲハ、スギタニルリシジミ、ツマジロウラジャノメのほか
、普遍種の生息が確認されているが、上記理由で詳細は今後の調査に期待した
い。特記すべきことは、ヌクミメクラチビゴミムシなる当地固有の種が記載さ
れていることである(産地は温見峠)。その他のめぼしい甲虫としては、
ダイミョウナガタマムシ(県下唯一)、アイヌテントウ、
ヒメマルガタテントウダマシ、ウスイロテントウダマシ、
ヤマトヨスジハナカミキリ、マルモンハナノミダマシ、ヤマトオサムシなどが
採集された。温見峠の登山口から中腹にかけては、ハナバチ類やアナバチ類の
種類数が多く、サッポロジガバチモドキ、ナシジセイボウ、
フタツバトゲセイボウなどの珍しい種を含んでいる。以上のように、少回数の
調査にもかかわらず、かなりの注目すべき種が確認されていることは、当地の
昆虫相の豊かさを反映しているものと考えられる。


〔爬虫類等〕
 両生類・爬虫類では、ヒキガエル、ヤマアカガエル、カジカガエル、
モリアオガエル等が多い。(旧西谷村中島で 1930年ごろオオサンショウウオ
が確認されたとされているが、当地区と深い関係を持つのではないかと思われ
るふしがある。)シマヘビ、ヤマカガシ、マムシ、トカゲ等が多い。
 貝類では、種類数は多くないが個体数が多い。クロイワマイマイ、
ハクサンマイマイ、エチゴキセルモドキ、ココロマイマイ等高山帯の巻貝が多
く確認されたことを特筆する。


〔景 観〕
 能郷白山より、若丸山にかけての県境の脊稜山地は、海抜1600m〜1200mの
亜高山性の山々が連なる山地で、山麓の温見川、熊河川沿いの旧集落付近の山
地は、伐採が進みスギ林、ナギ畑跡も所々にみつけられるが、全体的にはブナ
−ミズナラ林を主とする夏緑広葉樹林が分布し、中腹位から上はブナの原生林
に覆われていて、深い自然が感じられる林相の森林景観をもつ山地である。
 能郷白山は、崩壊性の著しい谷地形をもってそびえる山で、ブナの原生林に
覆われ、山頂には風衝草原、低木叢があって、深山の趣きの深い幽邃な感じを
もつ山である。能郷白山を中心とする県境の山々の眺めは、どの山も自然林に
覆われて深山の趣きが深く、すぐれた自然美をもつ山岳森林景観である。
 熊河川の谷は、かなり伐採が進みスギの植林も所々にみられるが、手入れが
不充分で次第に自然林に近づきつつある。しかし斜面一帯にはブナ−ミズナラ
林が分布し、特に上部斜面はブナの原生林で美しい林相景観である。
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