50(越美山地)姥ヶ岳地区−5万分の1地形図【大野】【荒島岳】−−−−−−
                    【冠山】【能郷白山】
〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔陸水生物〕〔景 観〕

50 姥ヶ岳地区                             [⇒位置図]

〔概 要〕
 姥ヶ岳(1453.6m)及び倉ノ又山(1215.5m)を主とする県境近接の山地で
、この壮年期山地内の北部には東西方向の、また西側には北西−南東方向の断
層(谷)地形が顕著である。時代未詳の中生層中に貫入した花崗閃緑岩が、南
部に分布している。北側にある九頭竜川構造帯とは、秋生断層で接している。
 この山地には、オオバクロモジ−ブナ群集の安定した極相林が分布している
。オオカメノキ、ツルシキミ及びオクノカンスゲが顕著に優占している。
 鳥類では、川沿いにセキレイ類、ダム水面にはカモ類のほかヤマセミ、局地
性のノジコなどが見られ、森林性鳥類にとっては良い生息環境といえる。
 この地区は温見川流域にあたり、水質は良好である。水生昆虫類の現存量が
多いこと、アジメドジョウの分布が注目される。
 姥ヶ岳から倉ノ又山、平家平にかけての山地一帯には、ブナ、ミズナラを主
とする夏緑広葉樹林が分布し、深山性の趣のある森林景観を呈している。


〔地形・地質〕
 この地区は姥ヶ岳、倉ノ又山などを含む壮年期山地であり、北部には東西性
の断層谷が、また西側には、北西−東南方向の温見を通る断層谷が明瞭である
。また、姥ヶ岳の東側斜面は急傾斜であるのに対して、西側は比較的に緩傾斜
である。
 地質的には、基盤として三畳−ジュラ紀の海成層があり、南部で白亜紀−古
第三紀の花崗閃緑岩が貫入している。さらにこれらを被って、新第三紀中新世
初期の安山岩類が広く被っている。温見川の東側では、花崗閃緑岩中に各所で
角閃ふん岩、安山岩岩脈がみられる。西側には珪質頁岩、砂岩、レンズ状
チャート、緑色岩などからなる中生層が広い分布を示す。笹生川から南方に向
う細ヶ谷には、北から順に、木戸層、野尻層群、美濃帯中生層が帯状分布し、
野尻層群と美濃帯中生層の境は破砕帯を伴った秋生断層がある。この付近では
、白亜紀後期の巣原層(足羽層相当)がたたみ込まれており、巣原付近では破
砕帯地すべりが発生している。


〔植 物〕
 姥ヶ岳及び倉ノ山を主とする県境近接の山地で、ブナ原生林及びブナ−
ミズナラ林によって優占される夏緑広葉樹林帯である。
 それらの林相には、ブナ、ヒトツバカエデ、マルバマンサク、
オオバクロモジ、オオカメノキ、タムシバ、チシマザサ、エゾユズリハ、
ヒメモチ、オクノカンスゲ、ツルシキミ、ハイイヌツゲ、ウシカバなど日本海
固有要素を含み、組成的にはオオバクロモジ−ブナ群集にまとめられる。
 現在まで、他地区に比較して、あまり人手が入っておらず、自然更新が進行
されており、今後とも保存されることが望まれる。


〔鳥 獣〕
 雲川ダム東部の一部と平家平・倉ノ又山の上部、笹生川貯水池から姥ヶ岳に
かけて自然林が残り、温見川沿いはスギ林及び低い二次林となっている生息環
境である。
 雲川ダムから温見峠までの道路上調査では、開けた渓谷沿いである環境に
キセキレイ、セグロセキレイ、水面に繁殖のカルガモ、オシドリ、残留した
マガモ、カワガラス、ヤマセミ(繁殖形跡の巣穴あり)夏鳥のアカショウビン
を見る。ヒヨドリ、ホオジロ、ウグイス、カケスが優占し、メジロ、キジバト
、ミソサザイ、コゲラ、本県では標高の中間位で繁殖すると思われる数の少な
いノジコ、トビ、タカ類の古巣を見る。夏鳥ではオオルリが多く、ヤブサメ、
ブッポウソウ、サンショウクイ、センダイムシクイ、ホトトギス、タカの仲間
であるハチクマを観察する。 越美山地としての一般的な生息環境と思われる
が、自然林は森林鳥の生息環境として比較的良好に保たれている。


〔昆 虫〕
 調査は不充分であるが、平家平ではコウライピソンバチ(他に県下では鳩ヶ
湯、泰澄寺のみ)、ガロアギングチバチ、アイヌギングバチ、
ハクサンツヤバチ、コイケアワフキバチ等の注目すべきアナバチ類や、福井県
では記録の少ないケーベルキマダラハナバチが生息する。


〔陸水生物〕
 (水生昆虫類)
 温見川温見地点:河川形態Aa-Bb移行型、上・中礫、浮石が多い。
ツダシマトビケラ Hydropsyche Tsudai、ヒゲナガカワトビケラが優占し、現
存量階級はV〜W、イノプスヤマトビケラ Mystrop hora inops、
ニホンアミカ Blepharocera japonicaなど、山地渓流を特徴づける種類の量も
多い。
 (魚類)
 イワナ、アマゴ、タカハヤ、カジカ、アジメドジョウが生息するが、量的に
は少ない。


〔景 観〕
 小沢川の水源地帯である温見峠北側の、海抜1301.7mから越山(1129.3m)
にかけての県境の山々は、ブナ−ミズナラ林等の夏緑広葉樹林に覆われ、温見
峠北側の山地にはブナの原生林もみられる。
 姥ヶ岳から平家平、倉ノ又山にかけての山地は、海抜1200m〜1100mの高さ
において緩い傾斜をなす台地状の山地で、山容としては個性的な特徴のある山
はないが、この山地もブナ−ミズナラ林が分布し、倉ノ又山の南、西側には、
広大な地域にわたってブナの原生林があり、亜高山性のこの山中の林相は、原
生自然をとどめるもので、深山の趣きの深い森林景観である。
 巣原集落のあった台地から東側にかけての緩い傾斜の山地は、ブナ−
ミズナラ林等の夏緑広葉樹林の分布する山であるが、伐採がかなり行われてい
るので、巨木が少ない。一部にスギの植林もみられるが、手入不充分で自然林
に近い姿を呈している。
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