5(奥越火山地)取立山、谷峠地区−−5万分の1地形図【越前勝山】−−−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

5 取立山、谷峠地区                    [⇒位置図]

〔概 要〕
 奥越火山地に属するこの山地には、緩斜面が所々発達している。概ね東部で
は中生代末の面谷流紋岩類を、西部では手取層群を広く被って古期安山岩が分
布する。この地区は本県の最豪雪地であるが、取立山( 1,307.2m)の山頂付
近には ブナ−エゾユズリハ−ヒメモチ群落が優占するオオバクロモジ−ブナ
群集の林帯が分布し、その一部、取立平の湿原には、千数百株に及ぶ
ミズバショウの分布が見られる。
 しかし、この一帯の伐採が進み、林縁性のホオジロ、低木叢のウグイスの地
帯をなしている。また、連山の中で夏鳥の数種を認めているが、繁殖の可能性
は少ない地区である。
 昆虫相は、造林地の拡大に伴い、その生息環境が次第に悪化して貧弱である
が、中には潜在的自然度を示すかのようにいくつかの貴重な昆虫の分布が認め
られる。また、渓流が多く川沿いに荒地や水田、砂れき地が散在し、両生類、
爬虫類の生息適地が多い。
 山地部には、全体的に夏緑広葉樹林の伐採が進み、自然景観は人工造林地に
変わりつつある。


〔地形・地質〕
 石川県境にある取立山を最高とし、全体には 1,000m以下の山地で、緩斜面
が所々に発達する。滝波川の低い平坦面はその連続性からみて、河岸段丘であ
る。
 この山地は奥越火山地に属しており、取立山山頂付近の緩斜面上には湿原が
あり、水芭蕉の群生地となっている。
 地質的には、東部は面谷流紋岩類を基盤として、鮮新−洪積世前期の火山岩
類が広く分布しており、火山角礫岩の発達が著しい。また、西部は白亜紀前期
の手取層群(主として赤岩亜層群相当層)が広く分布し、それを不整合に被っ
て、谷峠付近に白亜紀後期の大道谷層があり、上位の面谷流紋岩と複雑に漸移
する。この様な部位に、砂礫を混える凝灰質粘土を主とする地すべり性崩積土
がみられる。五所ヶ原付近から植物化石が、また木根橋付近から三角貝化石も
知られている。


〔植 物〕
 赤兎山、刈安岳(1,545m)、大長山、谷峠、護摩堂山(1,152m)及び取立
山の山地群を含む加越国境山地の中で、谷峠、五所ヶ原、護摩堂山から取立山
地群は、福井県で冬季毎年積雪3m以上に及ぶ豪雪地である。
 谷峠付近及び取立山への尾根沿いのごく一部に、ブナ−チシマザサ群団によ
る日本海型夏緑林帯域がある。しかし、最近伐採が進められ、二次林化、代償
林化が顕著である。
 現在、標高 800m付近まで重厚な スギ植林が広大な面積にわたって分布し、
それらより上部を中心に ブナ原生林及びブナ−ミズナラ林が、安定した林帯を
構成している。
 取立山付近の一部、標高 1,170mの地点における ブナ林では、樹高ほぼ5m
の林冠が構成され、低木層にエゾユズリハ、林床にヒメモチが優占する ブナ−
エゾユズリハ−ヒメモチ群落が顕著である。
 取立山の一部、取立平付近には湧水涵養による湿原があり、狭小な谷筋に千
数百株に及ぶといわれるミズバショウの群落が分布し、それらに多種類の湿原
植物が分布して、独特な湿原の植生景観が構成されている。


〔鳥 獣〕
 中心域の取立山、護摩堂峠、谷峠にかけての山地は、全体的に伐採が進み、
一部に二次林が点在するが生息域としては貧弱で、ホオジロ、ウグイスが優占
し、2次林にシジュウカラ、ヤマガラ、エナガ、カケス、渓流にキセキレイ、
カワガラスの留鳥、夏鳥の ホトトギス、キビタキ、クロツグミ、ヤブサメ、
センダイムシクイを見る。この地区でタカ類の古巣をみた。

〔昆 虫〕
 大規模な国道や林道の開発や森林伐採によって自然度は著しく低下し、以前
(10数年前)より昆虫の種数は急速に激減している。特に谷峠から護摩堂峠ま
での開発が大きい。取立山頂付近はやや良く残されている。採集される昆虫の
個体数は割合多いが、多様度に乏しく、注目すべきものはあまりない。蝶も屋
根筋の登山道などに多いが普通種ばかりである。甲虫類では、オトシブミ類、
ハムシ類、ハナカミキリ類など明るい葉上に生息するものは少なくないが目ぼ
しいものの記録はない。その中で、マガタマハンミョウは県下では冠岳(永平
寺町)に次ぐ2番目の記録で、この種は東北から北陸に生息し、分布南限であ
るし キオビトラカミキリはスギの害虫とされているが、県下で具体的に標本
が実検されたのは岩屋に次ぐ2例目である。蜂類は注目すべきものとして
フタモンアワフキバチとエグレアリマキバチがあげられるくらいである。
アカヤマアリ、エゾヤマアリの生息が確認され、これらは福井県における分布
西限として注目される。


〔爬虫類等〕
 両生類、爬虫類については、護摩堂谷、滝谷に県内ではかつて見たことのな
い多数の タゴガエルを観察することができた。取立山のミズバショウの自生
地で、イモリとモリアオガエルが目立って多かった。多分この環境では、
サンショウウオも生息するだろうと探したが見当たらなかった。谷峠の渓流の
すぐそばで、繁殖行動に参加するヒダサンショウウオの雌を倒木の下で確認し
た。石川県との県境で、ヒキガエルの多数生息を見た。マムシ、ヤマカガシ、
アオダイショウが多い。
 貝類では平凡な地域である。スギの植林地にタカキビガイ、カサキビガイな
どのキビガイ類が多い。イブキゴマガイが確認できたことと、県境近くで
ウゼンドブシジミが確認できたことは特筆に値する。


〔陸水生物〕
 (水生生物)
 取立平の湿原は、標高約 1,000m付近に位置し、腐植化しているが全体的に
湿原が形成され、千数百株に及ぶとされているミズバショウの大群落が分布し
、天然記念物に指定されている。湿原には、その他サワラン、コシンジュガヤ
、ミカズキグサ、エゾアブラガヤ、カキツバタ、ヌマハリイなど生態地理学的
に貴重な種類が多く分布している。


〔景 観〕
 取立山は、山頂からその東方の県境にかけて、かなり広い取立平と云われる
平のある山で、北谷側からは急峻で、護摩堂峠より県境の稜線をたどる以外に
は、登ることは困難である。その取立平の県境付近には、ミズバショウの自生
群落があり、山頂に近い急斜面には原生林に近い林相の ブナ林もみられ、山
頂はすぐれた自然景観の地である。
 海抜 1,000m位までは伐採がすすみ、山伏山(護摩堂峠、谷峠間の山)、木
根橋集落背後の山も同様で、ブナの木は稀に遺存しているのみであるが、自生
地として重視すべき地である。
 取立山、山伏山の中腹にはゆるやかな台地状の斜面があって、そこには五所
ヶ原、東山等の加越国境の山地にみられる特有の農産生活を営む出作が散在し
ているが、出作の人々の生活風景は、自然とよく融和していて、これらの山の
自然の景観に風土的情緒を加えている。近時、出作は急激に廃退しつつある。
 谷集落は牛首地方との交易の據点で、両地を結ぶ谷峠の旧道は、幾百年にわ
たる交易路であった。峠頂上の目安とされた大杉をはじめ、旧道の景観は歩荷
の生活をしのばせる数少ない歴史的自然景観である。
 取立平や護摩堂峠よりのぞむ白山の眺めは雄大で、白山の山岳美を遺憾なく
とらえることが出来るすばらしい景観である。
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