48(越美山地)道斉山地区−−5万分の1地形図【荒島岳】−−−−−−−−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

48 道斉山地区                            [⇒位置図]

〔概 要〕
 道斉山(1188.6m)の西側を流れる真名川は、深い河谷を形成し、河岸段丘
も分布している。ほとんど、中生代後期の手取層群からなり、下部は海成層、
上部は淡水成である。笹生川をはさんで南側には、時代未詳の本戸(礫岩)層
がみられる。
 植相は、クリ−ミズナラ林及びブナ−ミズナラ林によって占められる夏緑広
葉樹林帯であって、尾根の一部には、典型的なオオバクロモジ−ブナ群集に優
占される林叢が分布している。
 鳥獣相では、カラ類の他高地性のクロジやワシタカ類、タヌキ、
ツキノワグマ、カモシカなどが分布し、その生息環境は概して良好である。
 昆虫相は予想外にも貧弱であるが、若干の興味ある昆虫も確認されており、
今後の調査によっては注目される昆虫の生息が見出される可能性が強い。なお
、爬虫類等の生息環境は良好である。
 この地区の山地には、ブナ、ミズナラを主とする夏緑広葉樹林が広範囲に分
布した山岳森林景観を呈しているが、近年伐採造林が進行して自然景観に変化
を与えている。


〔地形・地質〕
 この地区の最高峰は道斉山である。海抜1100m前後の壮年期山地で、西側で
真名川が、北東側で仙翁川が深い河谷を作っている。真名川沿いで中島から下
笹又付近まで低位の河岸段丘が断続的に分布する。中島北東部には昭和40年の
集中豪雨により生じた山津波跡が明瞭である。
 道斉山の北側には、手取層群中部の“礫岩・砂岩層”が広く分布しており、
火砕岩層を挟み上方細粒化現象がよくみとめられる。また、下部は“黒色頁岩
層”が主で、基底に薄い礫岩を伴い、黒当戸付近でNodule(団塊)を、中島付
近からアンモナイト化石を産する。
 不整合を挟んで、下位に石炭紀(?)の藤倉谷層があり、中竜鉱床はこの石
灰岩を交代したスカルン中にある。
 仙翁谷の手取層群中部の中には“ヤケ ”(鉱化)の徴候が多い。
 中島−黒当戸以南の本戸礫岩層、雲川層と前者は断層で接する。九頭竜構造
帯の中に属し、極めて構造の複雑な地帯である。


〔植 物〕
 道斉山を中心とする山地で、クリ−ミズナラ林及びブナ−ミズナラ林によっ
て占められる夏緑広葉樹林帯であり、尾根の一部には典型的なオオバクロモジ
−ブナ群集に優占される林叢が分布している。
 それらの中、ブナ−ミズナラ林及びブナ林では、ブナ、オオバクロモジ、
ミズナラ、ハイイヌガヤ、マルバマンサク、ハウチワカエデ、アラゲアオダモ
、オウレン、チシマザサ、ツノハシバミ、ハクウンボク、オクノカンスゲ、
ヤマボウシなど種類が多い。
 また、ブナ林の林床では、非常に広い面積にわたってオウレンの栽培が行わ
れており、本県における代表的なオウレン栽培地であることで注目される。
 近年、道斉山では、かなり高所まで伐採が進行している。スギの植林限界を
越えているように思われる。夏緑広葉樹林の保全が必要である。


〔鳥 獣〕
 道斉山秋期調査ではシジュウカラ、ヤマガラ、メジロ、ウグイス、カケス、
深山性のクロジのほかクマタカ、サシバを見る。獣類ではホンドタヌキ、
ニホンツキノワグマ、ニホンカモシカの生息を確認、繁殖期には留鳥、夏鳥共
に隣接地区と同様な繁殖があるものと思われる。


〔昆 虫〕
 北部が真名川ダムに面するこの付近は、地形のわりにはチョウ・ハチ類の種
類が多いが、個体数は少ない。道斉山の中央部に入る道がなく、周辺部だけし
か調査できなかったことにもよるが、予想外に昆虫相は貧弱である。蝶類では
ツマジロウラジャノメ、アサマイチモンジが生息し、ムカシヤンマの生息も認
められた。甲虫では普通種が多く、その中でアサギナガタマムシ(他に県下で
は亀山からの記録のみ)は特記すべきである。蜂類では、他地ではほとんど採
れないエゾジガバチモドキが多産すること、コブピソンバチ、
オオアワフキバチなどの珍種が採集されたことは特筆に価する。入念に調査す
れば、相当数の注目すべき昆虫の分布が見出される可能性のある地区である。
 また、西麓にあたる中島の河岸で、稀種マクガタテントウが多数採集された
が、これは県下では古い記録があるが、再確認が望まれていたものである。な
お、同所では山地性のコカメノコテントウ(特に珍しいものではない)など多
くのテントウムシ類が採集された。


〔爬虫類等〕
 両生類・爬虫類では、ハコネサンショウウオ、ヒダサンショウウオの幼生多
数を確認できた。カジカガエル、ナガレヒキガエル、ヤマアカガエル等も多い
。ヘビ類では、シマヘビ、マムシ、ヤマカガシが多く目撃された。
 貝類では、オオギセル、ハゲキセル、エルベルギセル等のキセルガイ類が多
く、山地性の典型的な分布を示している。また稀産種のオクガタギセルが棲息
していたことは特記すべきことである。


〔陸水生物〕
 (水生昆虫類)
 真名川下笹又地点、河川形態Bb型、巨・円礫、上流に笹生川ダム、雲川ダ
ムがあるため、流水量は安定しており、礫表面の藻類の着生形態も良い。
ヒゲナガカワトビケラを優占種として、造網型トビケラが多く、現存量階級は
V。カゲロウ類も多く、ブユ・アミカなどの山地流を特徴づける双翅類もみら
れる。
 (魚類)
 イワナ、アマゴ、アユ、ウグイ、アジメドジョウ、タカハヤ、オイカワなど
が生息するが、真名川ダムができてから、魚の生息量は減少した。


〔景 観〕
 中竜鉱山に通ずる道がつけられている仙翁谷は、上流に上るにしたがって伐
採がなされ、堂ヶ辻山の西斜面では、かなり広い地域にわたって伐採跡地があ
り、スギの植林がなされている。しかし、上流地域は斜面も急峻であり、大部
分はクリ−ミズナラ林、ブナ−ミズナラ林が分布していて林相景観と共にすぐ
れた山岳景観であると云える。
 道斉山は、海抜1188mの中山性に近い山で、全山の広い地域にわたってブナ
−ミズナラ林に覆われ、山頂付近ではブナの原生林もみられるなど、原生自然
に近い景観をとどめる山である。
 山麓が急峻で、北側の斜面では山麓よりクリ−コナラ林、クリ−ミズナラ林
、ブナ−ミズナラ林と垂直な分布がかなり顕著にみられ、南側の笹生川に面す
る谷地形にはスギの植林がよくなされているが、大部分はブナ−ミズナラ林で
、この原生自然に近い林相のもとにそびえるこの山は、深山の趣も深い。雲川
の谷よりみた姿が特によい。
 中島発電所の南山地も、クリ−ミズナラ林、ブナ−ミズナラ林の茂る山で山
麓では、伐採がかなりすすんでいるが、道斉山とよく似た林相をもつ山である
。
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