47(越美山地)上大納鷲鞍岳地区−−5万分の1地形図【荒島岳】−−−−−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔景 観〕

47 上大納鷲鞍岳地区                            [⇒位置図]

〔概 要〕
 この地区は、九頭竜構造帯に属しており、古生層の帯状構造が発達している
。北に大納断層が、南に秋生断層が共に東西方向に並走し、大納断層の北側は
中生代後期の手取層群が、秋生断層の南側は時代未詳の中生層が広く分布して
いる。
 植相では、鷲鞍岳(1010.5m)の標高800m付近から、ブナの原生林に近い林
相が残存しているが、全体的にシロモジ型ブナ林の組成を示すものとして、本
県のブナ林の群落の系統にひとつの特徴をそえている。
 鳥類では、鷲鞍岳を中心にブッポウソウ、サンショウクイの繁殖、
シジュウカラ、カケスが多く、獣類ではツキノワグマをはじめ中・小型獣が多
数生息する。
 また、鷲鞍岳の一部に残る自然林は、豊富な昆虫相を示し、県下他地区には
分布しないが、極めて稀な種が数多く確認されており、特にブナ林帯での甲虫
類では貴重な種が少なからず生息し、自然度の高さを示唆する。上大納、下大
納にも分布上注目すべき蝶類が生息する。
 この地区の山地は、1000m〜1100mの低高性を示して、ブナ、ミズナラを主
とする夏緑広葉樹林と、谷部のスギ植林地が調和した森林景観を呈している。
九頭竜湖は、ロックヒルダムによる人造湖で、谷々に水を満たした湖岸は変化
に富み、新緑紅葉が美しい。


〔地形・地質〕
 北側及び南側の地域に比して、やや高度の大きい壮年期山地で、ほぼこの範
囲が九頭竜川構造帯に当る。
 大納断層(長野)と秋生断層は東西方向に平走し、これに挟まれた九頭竜構
造帯では、比較的石灰岩に富む古生層の帯状構造が発達し、大谷層・木戸層の
分布パターンと斜交する。
 大納断層の北側には、ジュラ紀中期の手取層群(海成層)がこの構造帯と直
接する。構造帯の中の古生層では、野尻層群の分布が最大で、下位の小様層産
の腕足類化石などから、時代は中部二畳紀と考えられる。最も古いシルル−
デボン紀の上穴馬層群は、北東部の長野、南部の上伊勢に小分布し、上伊勢か
らはハチノス珊瑚等が多産する。この他、小規模に大谷礫岩、芦谷層、木戸層
などが複雑に挟在分布する。
 手取層群堆積前に、古生層の基本的構造が形成されたものと考えられる。


〔植 物〕
 鷲鞍岳及び九頭竜湖を含む地区で、特に、ダム建設によって自然林がかなり
広範囲にわたって伐採されたが、周辺の山地、斜面、特に鷲鞍岳の上部斜面を
中心にして典型的な夏緑広葉樹林、中でも日本海型ブナ林が広範囲に残存して
いる。
 ダムを基盤とし、周囲山地の夏緑広葉樹林の自然景観は、全体として調和の
とれた構造を示し、特に秋季紅葉による自然美は、本県の中で、最もすぐれた
峡谷景観のひとつに挙げられる。
 鷲鞍岳の標高800m付近から、山頂に向かう斜面に残存するブナ林では、林間
にオオカメノキ、エゾユズリハ、シロモジ、チシマザサ、林床では
エゾユズリハ、リョウブ、シロモジなどが優占し、全体的には、ブナ−
シロモジ群落にまとめられ、太平洋沿岸要素であるシロモジが優占することで
、日本海型ブナ林の林相として注目される。
 九頭竜川の上流域の巨礫河床の草本群落も顕著である。


〔鳥 獣〕
 鷲鞍山の鳥相は、原野性のホオジロ、高原性のウグイス、森林性のカケス、
シジュウカラの生息が多く、アオゲラ、ヒヨドリ、キジバト、イカル、メジロ
、トラツグミの留鳥、夏鳥にサンショウクイ、ブッポウソウの繁殖、托卵する
ホトトギス、カッコウ、ツツドリの他、クロツグミ、オオルリ、コルリを見る
。他の地域、特に夏緑広葉樹林帯においては、相当の生息及び繁殖があるもの
と思われる。
 鷲鞍山頂付近にて、ニホンツキノワグマの生息を確認する。


〔昆 虫〕
 九頭竜川・九頭竜湖・大納川に囲まれた鷲鞍岳は、独立した小山塊をなし、
地形は単調で開発もかなり進んでいるが、そのわりには昆虫相は特色があり、
角野スキー場より上の部分は、自然度の高い林相が保たれており、中腹以上の
ブナ帯には、特に甲虫類に分布上貴重な種が数多く生息している。山麓部には
蝶・甲虫・蜂類が少なくない。
 下大納・上大納付近は、鷲鞍岳とは地形的におもむきを異にするが、珍しい
種を含む蝶類が豊富で甲虫もかなり多い。ここはクロシジミの県下唯一の生息
地として知られていたが、当地区に含まれる角野東方でも最近発見された。ま
た、オナガシジミ、ムモンアカシジミも採集されている。また、
カゲロウギングチバチ、エゾカギバラバチなどの珍しい蜂類も採集されている
。
 以下は、鷲鞍岳(山麓部を含む)の昆虫相の概要と、分布が確認された注目
すべき昆虫の例であるが、蝶では上記のほかミヤマカラスシジミが採集された
ほか、登山道には普通種を含め個体数がかなり多い。甲虫では、大形華麗な珍
稀種には恵まれないが、マダラクワガタは 県下唯一の産地、
ツブコメツキモドキ、セマルツヤマルアリモドキは全国的にも稀で県下2例目
、そのほか、キアシオビジョウカイモドキ、クロスシイッカク、
マツシタトラカミキリ、キモンハナカミキリ、タテジマハナカミキリ、
メスグロカミキリモドキ、ムツモンナガクチキ、オオマダラコクヌスト、
ウストラフコメツキ、ムツモンミツギリゾウムシ、アカハムシダマシ、
オオクチカクシゾウムシなどは県レベルではかなり珍しい甲虫である。また、
ノミナガクチキの1種や新種と思われるムクゲキスイムシの1種など、小形甲
虫では分類学上貴重なものが採集されている。蜂類もかなり多く、山麓の民家
やその周辺に山地性のハチが集まり、スギハラギングチバチ、
ジンムプセンバチ(多産が注目される)、ニッポンアワフキバチなどが採集さ
れている。セミ類ではエゾハルゼミやエゾゼミが多く、また、最近採集された
アオクチブトカメムシは、福井県初記録の大形美麗種で、ツノアオカメムシは
比較的少ない美しいカメムシである。
 今次の調査が行われる以前は、ほとんど昆虫は採集されていなかったので、
調査精度はそれほど高くないにもかかわらず、多くの注目すべき種が確認され
たことは、当地区の潜在的自然度の高さを示すもので、今後の保全が強く望ま
れる。


〔爬虫類等〕
 両生類・爬虫類では、モリアオガエル、カジカガエル、ヤマアカガエル、
イモリ等が多い。中竜地区ではハコネサンショウウオが確認されている。
トカゲ、マムシ、シマヘビ、ヤマカガシが多い。
 貝類では、鷲鞍岳にハゲギセル、オオタキコギセル、チビギセル、
ナミヒメベッコウ、ツノイロベッコウマイマイ等キセル貝、ベッコウ貝が多く
確認されたことを特記する。


〔景 観〕
 この地区の山地は、海抜1010.5mの鷲鞍岳をはじめ、何れも1000m〜1100m
内外の中山性の山であるが、鷲鞍岳はブナ、ミズナラ林が分布しており、山頂
付近ではブナの原生林もみられるなど、原生自然に近い景観を呈し、鷲鞍岳の
南の湖対岸の山(伊勢川湖左岸)も、ブナ、ミズナラ林で、鷲鞍岳に近い林相
景観の山である。
 九頭竜湖は人造湖であるが、谷々に水をみたして湖岸は変化に富み、水に写
している山容は美しい。山麓の湖岸に近いところは、クリ、ミズナラ林を主と
する夏緑広葉樹林で、新緑の頃と秋の紅葉の頃は最も美しい。
 伊勢川の谷の、もと米俵、上、中伊勢の集落のあった地域の谷地形は、スギ
の植林がよくなされており、大納川谷も、大原、下大納、早稲谷の谷地形は
スギの植林がなされて、植林景観としてはすぐれた景観である。しかし、これ
らの山も斜面は、大部分はブナ、ミズナラ林等の夏緑広葉樹林で、伊勢北方の
山地の山頂付近ではブナの原生林もみられ、原生自然に近い景観の地である。
 その点、観光地化しつつある九頭竜湖畔に近い地域であるが、原生自然に近
い森林景観が保たれていることは貴重な地である。
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