46(越美山地)荷暮川、平家岳地区−5万分の1地形図【荒島岳】【白鳥】−−
                        【能郷白山】【八幡】
〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔爬虫類等〕〔景 観〕

46 荷暮川、平家岳地区                            [⇒位置図]

〔概 要〕
 岐阜県との県境につづくこの地区は、北側の九頭竜川構造帯と秋生断層で接
しており、荷暮川沿いでは時代未詳の中生層の分布が広い。他の部分では、中
生代末の面谷流紋岩類が厚く被っている。
 植相は、オオバクロモジ−ブナ群集にまとめられる日本海型ブナの原生林と
、それらをとりまく二次林帯、特にクリ−ミズナラ林、ブナ−ミズナラ林から
垂直分布移行が顕著であり、更に、太平洋沿岸要素の中、マルバフユイチゴ及
びマルバノキの分布密度が大きい特徴を持っている。
 爬虫類等では、九頭竜湖の造成と共に住む人もなくなり、耕地もことごとく
荒廃して環境は一変し、その生息環境は大きく後退した。
 この地区は、九頭竜湖南東部に広がる山地で、全般的に谷地形部にはスギの
造林地が分布し、斜面及び尾根部には、ブナ、ミズナラを主とする夏緑広葉樹
林が広がる山岳森林景観である。


〔地形・地質〕
 平家岳(1441.5m)付近を除いて、海抜1000m前後の壮年期山地で、面谷川
、荷暮川などが北方へ流下する。
 九頭竜川構造帯以南の地区に当り、時代未詳の中生層(左門岳層)が分布し
、主として砂岩、頁岩層からなり、複向斜構造を示す。特に荷暮川流域では、
本層から広く分布しており、白亜紀後期の面谷流紋岩が被覆する。その下部に
、一部平家岳層を伴い、これはほぼ水平構造を示す。礫岩を伴う砂岩、頁岩互
層からなり、Podozamites, Seguoiaなどを産する含炭層を伴い、面谷流紋岩と
漸移する。
 明治年間に栄えた面谷鉱山(蛍石、黄銅鉱)は廃鉱となっており、この付近
が面谷流紋岩の模式地となっている。


〔植 物〕
 県境脊稜の南東の一部、平家岳を中心とする越美山地の一角であり、山頂付
近には自然草原、特にチシマザサ草原がひろがり、その下部には、広範囲にわ
たってブナの原生林がかなりよく残存している。それらの林間には、
オオカメノキ、ウスギョウラク、オオバクロモジ、シナノキ、マルバマンサク
、ミヤマガマズミ、ヨグソミネバリ、リョウブ、ハリギリ、ツノハシバミ、
ヒメモチ、ホンシャクナゲ等、林床にはオオカニコウモリ、マルバノキ、
マルバフユイチゴ、ハスノハイチゴ、フタリシズカ、スミレサイシン、
チシマザサ等が高頻度に分布し、全体的に、日本海型のブナ林相、
オオバクロモジ−ブナ群集にまとめられる。それらの林相に、マルバノキ及び
マルバフユイチゴの太平洋沿岸要素が高頻度に分布しているのが注目される。
 また、ブナ林には、一部イタヤカエデ−コシアブラの高木林が分布し、組成
的には、やや不安定であるが特徴をもった相観を呈する。
 渓谷地形が多様に平家岳の周辺に構成されていおり、代表的な渓谷植生が形
成されていることから、冷湿な林内環境によく適応した湿生植物が多く分布し
ている。
 なお、平家岳を中心にして、クリ−コナラ林、クリ−ミズナラ林及びブナ−
ミズナラ林の垂直的な分布移行が極めて顕著な帯状を示すことも、注目される
。


〔鳥 獣〕
 この地区については十分な調査がなされていないが、鳥獣の生息環境となる
植相は、入谷、荷暮川、野々小屋谷など河川渓流沿いの山地斜面は、全般的に
伐採造林地、スギ林が分布し、その上部山地および稜線山地部は夏緑広葉樹林
帯となっており、多くの渓谷をもつ深い山地は奥越地方の山地に共通する環境
であることから、鳥獣類の生息状況も同様なものと思われる。


〔爬虫類等〕
 両生類・爬虫類では、荷暮川流域にカジカガエル、ナガレヒキガエル、
ヤマアカガエル等が多く、ヤマカガシ、シマヘビ、マムシ等を確認した。
 貝類では、クロイワマイマイ、ハクサンマイマイ、ヤマタカマイマイが多く
、クチベニマイマイ(北限)が確認できたことは貴重である。


〔景 観〕
 九頭竜上流の入谷に行われているスギの植林は、すぐれた植林景観をつくり
上げている。県境の脊梁山地はブナ、ミズナラ林が分布し、ブナの原生林もみ
られる。
 根倉谷、荷暮川の谷も、谷地形にはスギの植林がよく行われているが、荷暮
川の谷の植林は、手入れが不充分で自然林的林相を呈している。大部分の山の
斜面はブナ、ミズナラ林で、滝波山(1212m)とそれに連なる県境山地は、原
生林に近いブナの自然林に覆われて、深山の趣の深い山岳森林景観である。
 面谷川の谷は、下流はクリ、コナラ林を主とする夏緑広葉樹林で、上るにし
たがいクリ、ミズナラ林が分布しているが、この谷は藩政の頃より大正にかけ
て、銅鉱を採掘した面谷鉱山があったところで、この谷の歴史を示す景観とは
いえ、山を崩した採掘跡をはじめ、屋敷跡、墓石などを多く残して、頗る荒れ
たいたましい景観をとどめている。
 荷暮川の砂防工事の上流から平家岳にかけては、その大部分はブナ、
ミズナラ林で、ことに平家岳ではブナの原生林であり、山頂付近には風衝草原
もあって、高山の趣の深い山岳景観を呈している。
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