45(南条山地)藤倉山地区−−-5万分の1地形図【今庄】−−−−−−−−−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕
〔水生昆虫類〕〔水生及び湿生植物〕〔景 観〕 45 藤倉山地区         [⇒位置図] 〔概 要〕  今庄付近から北西付近に高くそびえる山稜部は、中世代の硬いチャートの厚 層から構成されている。この付近には、チャート(珪石)の採石場が多く散在 する。日野川の谷底低地の所々には、低位段丘が点在し、砂岩、頁岩・ チャートなどの地層は、いずれも北西−南東方向の走向を示す。  植生は、標高200mぐらいの低山地にブナ林が残存し、それらの林間に ユキツバキ、エゾユズリハ及びマルバマンサクが優占して、多雪地帯としての 自然環境を標徴している。それらの特徴が、その他の代償林及び山頂付近の ブナ極相林に共通することは、この地区の森林生態系が極めて貴重であること を示す。  鳥類では、ヒヨドリ、ホオジロ、エナガ、ヤマガラが優占し、鳥種、生息数 、林相の関係は一般的、あるいはやや良いと思われる。  昆虫相は、燧ヶ城跡から藤倉山山頂にかけてかなり豊富である。  両生・爬虫・貝類の生息相は、近隣の樹木の伐採が進み、生息環境としては あまり好ましい現状ではなく、単純である。  今庄は、北陸道における宿場町として栄えた町で、周辺山地と日野川の風致 景観は、風土的情緒をただよわせている。 〔地形・地質〕  この地区には、今庄町の西から北西方向にのびる海抜650mの山稜がある。 この山稜は厚いチャートにより形がつくられ、さらに東方にある焼尾山の珪石 採場のチャートもその延長部にあたる。日野川沿いに、狭い段丘面が所々残っ ており、湯尾東方や今庄南方に分布するものがそれである。これは薄い砂礫層 からなり、洪積世後期のいわゆる低位段丘である。今庄、新道、合波などの集 落はすべて日野川の谷底平野上に位置している。  この地区の地質は、三畳紀のチャート、ジュラ紀の砂岩・頁岩からなり、全 般に走向は北西−南東方向で、北東側に急傾斜する構造をもっている。 〔植 物〕  中央部が、日野川本支流に深く浸蝕されている南条山地西側の一隅、藤倉山 (643.5m)及び鍋倉山(516m)を中心とする低山地区である。  全域にわたって、標高が600mまでぐらいの低山地群であるが、地形的にか なり急峻で多雪地域であることからも、谷筋を除いてあまり伐採が行われてい なかったため、森林植生、特に、夏緑広葉樹が層厚く残存して、基礎自然度も 比較的高い値を示す。  山麓から、スギ林、クリ−コナラ林、モウソウチク林、ウラジロガシ林、 アカマツ林、ヒノキ林、クリ−ミズナラ林、ブナ林の多様な林相が構成されて いる。  藤倉山の標高約600m付近から山頂に向かい、特に 北西斜面尾根沿いに、典 型的なオオバクロモジ−ブナ群集組成の極相林が分布している。それらの林相 に共通する組成を持つブナ林の小林分が、標高240mから280mの東斜面に残存 しているのが見られ、本県の夏緑広葉樹林の分布に関して、生態地理学的に貴 重である。それらは、特に林間に、ユキツバキ、エゾユズリハ、 ハウチワカエデ、ヒメモチ、オオバクロモジ、及びマルバマンサクが優占し、 中でもユキツバキが顕著に見られる。 代償林として、クリ−ミズナラ林及び クリ−コナラ林が顕著な林帯を構成しているが、いずれも、林間は マルバマンサクが優占して、この地区が本県の多雪地域の代表的地区のひとつ であることが見られる。  クリ−コナラ林帯に並列して、尾根沿いにヤマツツジ−アカマツ群集組成の アカマツ林が、かなり広い範囲に散在している。  近年、伐採がかなり著しく進められてきており、特にその上限はクリ− ミズナラ林帯に及んでいる。  この地区の、少なくともクリ−ミズナラ林から上部にかけて、現在の植生帯 を保護するよう計画すべきであろう。 〔鳥 獣〕  焼尾山には採石、湯尾谷はスギ成木林に夏緑広葉樹林が混じり、菅谷道は スギ林、八十八ヶ所から鍋倉山・藤倉山にかけてはクヌギ、コナラ、ブナの若 令林が残り、燧城跡付近は開けた稜線の林相を有する生息環境でヒヨドリ、 ホオジロの他エナガ、ヤマガラが優占し、シジュウカラ、メジロ、アオゲラ、 アカゲラ、コゲラ、イカルの普通に見る留鳥、オオルリ、クロツグミ、 ヤブサメ、サンショウクイ、サシバの夏鳥、カシラダカ、ツグミ、シロハラの 冬鳥を見る。  鳥種・生息数、林相の関係は一般的、あるいはやや良いと思われる。 〔昆 虫〕  標高も低く、市街地に近いところにしては、割合よく自然林が残されており 、かなりの面積はスギの植林地となっているが、燧ヶ城趾から藤倉山屋根筋に かけて、昆虫は豊富である。ハチ類は貧弱であるが、甲虫相やアリ相から見る と高く評価することができる。  藤倉山尾根道で採集されたヒラヤマコブハナカミキリは福井県唯一のもので 、全国的にも非常に稀とされる美しく珍しいカミキリである。 ヒゲナガゾウムシの1種 Xylinadastriatifronsは南方系の大形種で、福井県 では足羽山、青葉山、音海でも採集されているが、全国的には既知産地は少な い。クロアナアキゾウムシは福井県下では当地以外の記録がなく、 カタモンヒメクチキムシは県下で2番目の記録。そのほか、比較的少ない甲虫 として、クロコキノコムシ、アカバコキノコムシ、オニヒメテントウ、 ヒラタクチキムシダマシ、ルリゴミムシダマシ、ドウボソカミキリ、 トビイロカミキリなどをあげることができる。カメムシ類では美麗種 アカスジキンカメムシが生息する。  アリ類は33種が確認され、生息状況も安定し、種類数・個体数ともに豊富で 、燧ヶ城跡におけるサムライアリの生息は特記される。 〔爬虫類等〕  両生類、爬虫類では目新しいものはなく、普通種のみである。両生類では、 ナガレヒキガエルの低山地での生息確認は、今までには例がない。他は一般種 の分布であり、爬虫類でもイシガメ、シマヘビ等の一般種の生息である。  貝類では、林道の石切場にコガネマイマイ、タワラガイが多く、 クロイワマイマイの飛び地分布であることを特記する。 〔陸水生物〕  今庄の鹿蒜川、湯尾谷の間にある藤倉の谷は急勾配で、短い斜面距離を通っ て、日野川本流に合流する。谷は浅く、流水量は少ないが、水は清冽である。 特記すべき生物は少ない。 〔水生昆虫類〕  イノプスヤマトビケラ、キタガミトビケラ、クロツツトビケラなど、山地渓 流を特徴づける種類をふくめて、トビケラ類の種類が多い。 〔水生及び湿生植物〕  藤倉の谷筋では、水中及び河辺ともにほとんど目立った植生は見られないが 、合流する日野川の河床は、上流から中流への移行部付近に当り、多様な河辺 草原植生が急激に増大する。それらの中、特にヨシが優占する河辺草原群落の 顕著な群落帯が形成され、また部分的、特に水辺近くには、ツルヨシの純群落 が形成されて、河川植生の典型的な相観を保っている。 〔景 観〕  今庄は、木ノ芽峠及び栃ノ木峠を越える際の、北陸道における宿場町として 栄えた町で、今も当時の町並景観をよく遺している町である。人文景観的要素 が多いとは云え、貴重な景観である。  背後にある藤倉山は、海抜643.5m、鍋倉山は516mと共に高くはないが、こ の町の背後に迫っていて、山の宿場町らしい町の景観をつくっている。  しかも、人手のあまり入っていない原生自然に近い姿を、よく保っている山 である。麓の谷地形にはスギの植林がかなりすすんでいるが、山の斜面の大 部分はクリ、コナラ林を種とする夏緑広葉樹林で、上るにしたがいクリ、 ミズナラ林が、更に山頂付近ではブナ林もみられるなど、その林相景観には、 原生自然に近い姿が見られるもので、これは貴重な景観であると云える。  人家に近い山の尾根には、風致性に富むアカマツの自然林もあって、町の景 観に風情を添えている。  日野川と鹿蒜川は今庄で合流し、沿岸に山の自然と融和した山村を抱きつつ 北流しているが、この川の景観も風土的情緒が感じられる。  麓に日野川の流が洗う燧ヶ城は、平泉寺長吏斎明の反忠で知られている源平 の古戦場であり、戦国の頃は一向衆徒が信長の統一政権とも対峙したところで 、この燧ヶ城跡のある山を含む一帯の川や町の景観は、北陸路の難所を扼する 容地としての立場が生んだ、歴史的自然景観である。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−end−−-