44(南条山地)大良周辺地区−−-5万分の1地形図【今庄】−−−−−−−−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

44 大良周辺地区                       [⇒位置図]

〔概 要〕
 この付近の山稜部は定高性をもち、早壮年期の山地形を呈する。大部分中・
古生層から構成されており、海岸部ではふん岩様の岩脈が多数貫入する。大谷
−河野−甲楽城は古くから断層海岸として広く知られるところである。大谷付
近には、北西方向にのびる甲楽城断層に関係した地形、地質がみとめられる。
 植生は、コナラ−ヤブツバキ−ベニシダ群落が優占するクリ−コナラ林及び
ヤブコウジ−スダジイ群集の組成が安定した林叢が分布して、好適な自然環境
を構成する。
 昆虫相は、チョウ類、甲虫類などかなりの個体数が見られるものの、種類構
成は単調で、特にとり上げるべきものを含まない。ただ、
ムナカタエンモンバチが採れたことは注目すべきことである。
 両生・爬虫類では特記することはないが、陸貝では、ナミマイマイ、
オオケマイマイ、イツマデガイ、ムシオイガイが多数生息することは注目され
る。
 陸水生物では、河野川の流域で、水質も良好で自然な状態が多く残されてお
り、藻類は豊富で約70種、水生昆虫は種類数、現存量とも多い。魚類では
アジメドジョウの分布が注目される。


〔地形・地質〕
 地形的に1つは、大良集落付近にかなり平たんな定高性の山地が発達してお
り、全体として早壮年期の地形を呈する。河野川から南方に分岐する小沢も勾
配がゆるく、河川沿いには全く低地は発達せず、僅かに河内集落付近にみとめ
られる。2つは、大谷集落付近を通って、北西方向にのびる甲楽城断層に関係
した地形である。この断層は、柳ヶ瀬断層の北西延長部に当る可能性が大きい
。左横ずれ、北東側上昇の変位を示す断層であり、これによる大谷−河野−甲
楽城間の断層崖(?)は断層海岸の例として、よく引用されてきた。
 地質的には、大部分が中・古生層に属し、構成岩石として緑色岩、砂岩、頁
岩を主としており、一部にチャートを伴っている。特に、緑色岩類は国道8号
線より以西に分布する。構造的にはホノケ山から河内に向かって、漸次沈んで
いく背斜構造で特徴づけられる。なお、大谷北方の海岸には、幅300m程度の
ふん岩様の大岩脈が貫入している。
 この地区では、甲楽城断層に関係した地形・地質が特徴といえよう。


〔植 物〕
 南条郡河野村大谷から大良を通る国道沿いの低山地域で、北側にアマゴゼ山
(400m)が位置するが、その他は比較的暖かな斜面地形を呈する。
 河野海岸沿いには、萌芽林状であるがヤブコウジ−スダジイ群集の標徴種が
多く分布する安定した林相が見られ、照葉樹林帯が形成されているが、内部に
入り菅谷付近を中心に、クリ−コナラ林の優占する代償林帯がひろがる。それ
らの林間には、オオウラジロノキ、ヤブツバキ、シラキ、シロダモ、ヒサカキ
、林床にはベニシダ、ヒメカンスゲ、ヤブコウジ、トキワイカリソウ、
ヒメアオキなどが優占して、スダジイ林要素がかなり入りこんでいて、一応、
コナラ−ヤブツバキ−ベニシダ群落にまとめられる。しかし、林間に
キンキマメザクラ、ハイイヌガヤ、ニシノホンモンジスゲ、
サイゴクミツバツツジなど 日本海地域固有要素が混交して、やや複雑な組成
を示す。
 この地区では、あまり人手が入らず、自然条件下で更新が進められている。
今後、現状の維持が必要であろう。


〔昆 虫〕
 平坦部は広くないが、住居集落、耕作地、道路によく利用され、その周辺部
も植林が進んでいる。一方、斜面の山地部は、良い自然環境が比較的よく残さ
れているように見られ、昆虫相も豊かであろうと期待された。生息する昆虫の
数は少なくないが、チョウ類・甲虫類などもかなりの個体数が見られたが、種
類構成は単調で、分布上注目すべき種や珍しいものは確認できず、普遍種ばか
りで、特にとり上げるものを含まない。ハチ類・アリ類相も貧弱で、豊富な昆
虫相を許容する自然環境ではないことを示している。
 ただ、ムナカタエンモンバチが採れたことは注目すべきことで、このハチは
県内での記録は五所ヶ原と泰澄寺だけであり、全国的にも埼玉県と北海道に記
録があるのみである。


〔爬虫類等〕
 両生類、爬虫類では、一般種のみで特記するものが見当らない。陸貝では嶺
南の敦賀と同様な種が多く生息することは興味深く、研究に価する。
ナミマイマイ、オオケマイマイ、イツマデガイ、ムシオイガイが多数生息する
ことは注目される。


〔陸水生物〕
 ホノケ山(737m)を水源として、流程約12kmの河野川が西流し、河野浦
で海に注ぐ。勾配が急なため、上流から下流までほとんど渓流型の河川形態を
示して、水質も良好である。
 (藻類)
 付着藻は豊富で、70種余りの生育がみられる。その代表的なものとしては、
ホメオスリックス、ヒビミドロ、カワシオグサ、コメツブケイソウ、
アクナンテイスなどがあげられる。河野川は全水系が貧腐水性か、それに近い
水域である。付着藻を餌とするアジメドジョウ、天然アユも多く、自然状態が
良好に保たれている河川である。
 (水生昆虫類)
 山地渓流を特徴づけるものが多く、種類数も豊富で生息状況は良好である。
ムカシトンボの幼虫が生息することや、冬期にアミカ類が多く現れることも特
徴としてあげられる。
 (魚類)
 イワナ、ヤマメ、アマゴ(放流)、カジカ、タカハヤ、アジメドジョウなど
が生息する。小河川におけるアジメドジョウは、分布上注目される魚種である
。


〔景 観〕
 海に向かって急峻な斜面をもつ大良付近は、典型的な海岸断層の地形を示す
景観の地である。村落の南端は海抜200m位の高所で、ここからは敦賀湾を望
むことができる。眼下に展開する敦賀湾は、すばらしい景観であるが、この景
観美に海岸の斜面に茂るクリ、コナラ林が、近景的効果を果していることを見
逃してはならない。
 河野川は、海岸近くに源を発して北西に流れ、深い谷をつくっている。大部
分の山地はクリ、コナラ林を主とする夏緑広葉樹林で、越前地方の低山性の山
にみられる普通の景観であるが、この夏緑広葉樹林に混って、ヤブツバキ、
トベラ、スダジイ等の暖地性の常緑広葉樹もみられることは、海岸に近い山の
風景である。
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