40(南条山地)日野山地区−−-5万分の1地形図【鯖江】−−−−−−−−−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔景 観〕

40 日野山地区                         [⇒位置図]

〔概 要〕
 日野山(794.5m)は「越前富士」と呼ばれ、美しい山容を呈している。中、
古生層を基盤として、中生代に噴出した酸性火山岩類(面谷流紋岩類)が侵食
を受けて形成されたもので、山稜に武周ヶ池が存在する。
 植生では、北限種シモバシラが分布すること、山頂付近にオオバクロモジ−
ブナ群集による極相林が残存すること、代償林のひとつクリ−ミズナラ林の林
間にクロソヨゴ、カクミノスノキ、ツルシキミなどが分布要素になること、ま
た、植相の特徴から孤立山の特徴が見られることなど、生態地理学的に貴重で
ある。
 この地域の鳥相、生息環境は年とともに悪化する傾向が見られるが、留鳥ま
たは漂鳥のウグイス、ヤマガラ、シジュウカラや、夏鳥のホトトギス科の渡り
などが見られる。また、荒谷町の山麓で、ニホンカモシカの確認記録がある。
なお、開発が著しく進行しているが、昆虫相から見た自然度は高く、分布上貴
重な種の記録が多い。
 また、この日野山では、温帯広葉樹の顕著な垂直分布を示しており、両生、
爬虫、貝類の生息に適した環境を形成している。


〔地形・地質〕
 日野山は一名「越前富士」とも呼ばれ、特に武生市街地からみた山形は美し
い。日野山の山容は火山性のものではなく、侵食性のものである。近くにある
野見岳西方の山稜部には、武周ヶ池という小池が存在する。この池の長経は約
20m、短経は約10mであり、かなり埋積が進んで一部は沼地化している。
 この地区の南側に、中、古生層の基盤があり、主としてそれを被ふくする流
紋岩、石英斑岩から山体は構成されている。日野山、野見岳の流紋岩の時代は
中生代白亜紀末で、下位の中、古生層と流紋岩との境界はゆるく北方へ傾斜す
る。日野山の山脚の北側には花崗岩が、また野見ヶ岳の北斜面には、稀に植物
化石を産する白亜紀の足羽層が小規模に分布している。


〔植 物〕
 南条山地の東側日野山を中心とする山塊と、野見ヶ岳(698m)をめぐる地
区で、やや孤立的山塊となっている。
 日野山では、標高約700m付近から山頂に向かって、樹令100年〜150年の
ブナ老令木による極相林が残存し、組成的にオオバクロモジ−ブナ群集の典型
林相が構成されている。
 それらの下部には、クリ−ミズナラ林、クリ−コナラ林及びアカマツ林の各
林帯が垂直的に分布しており、それらの優占度は高い値を示し、好適な二次林
環境が構成される。特に、ミズナラ林では、林間にクロソヨゴ、
カクミノスノキ、ツルシキミなどが組成的に特徴づけている。
 日野山では、北限種シモバシラが分布することも、植物区系地理学的に非常
に貴重である。
 この地区の森林植生帯の特徴は、かなり明確な垂直分布帯が見られ、それら
の林間植種が非常に豊富であることが挙げられる。
 この地区の保全については、まず今後伐採を進めず、できるだけ保護するこ
とが必要である。


〔鳥 獣〕
 生息環境となる林相は、山頂付近のブナ林を残して殆どが二次林で、野見ヶ
岳武周ヶ岳付近にはコナラ林が見られるが、山麓にかけてはスギ林となってい
る。日野山頂より野見ヶ岳に至る歩道沿も、若い二次林である。
 1973年〜1975年にかけての調査の頃と比べると、生息環境、鳥相は次第に悪
化しているように感じる。鳥相は、ヒヨドリ、ホオジロが優占し次いで留鳥ま
たは漂鳥のウグイス、ヤマガラ、シジュウカラ、エナガ、メジロ、コゲラ、
イカル、ウソを見る。夏鳥にはホトトギス科の渡り、サシバ、クロツグミ、
ヤブサメ、センダイムシクイ、キビタキ、オオルリ、サンコウチョウ、武周ヶ
池にコガモ、マガモを見る。1982年には海岸性のミサゴの繁殖があり、日野川
が採餌地となっていたのは珍しい。
 1981年に荒谷町の山麓でニホンカモシカを確認したが、その後の消息は絶え
ている。


〔昆 虫〕
 かつては、優れた自然度を保つ地域であったが、近年の高速自動車道や林道
の建設によって、著しく自然破壊が進行している。しかし、昆虫相から見るか
ぎり、多くの貴重な種が認められ、部分的にせよかなり良好な自然環境が残っ
ているといえよう。
 まず、蝶類では50種が記録され、個体数も豊富である。ミドリシジミ、
アカシジミ、ウラナミアカシジミ、クロコムラサキなどは比較的珍しい蝶で、
早春にはギフチョウ、ミヤマセセリ、コツバメ、ツマキチョウがかなり多い。
山頂にはアゲハ類、タテハ類が多く集まり、時折、暖地性の
ツマグロヒョウモンが見られる。トンボでは、かつてムカシトンボの生息が確
認され注目され、近年採集されず絶滅したかと思われていたが、現在でも生息
することが確かめられた。ほかに、注目されるトンボとして、ムカシヤンマ、
タカネトンボ、サラサヤンマなどが認められる。
 甲虫類も豊富で、スジナシコブスジコガネ、クチキオオハナノミは、県下で
日野山だけから記録され全国的にも少ない。トゲバネナガクチキムシ、
トウキョウトラカミキリ、ヨツモンヒメテントウ、ネジロカミキリ、
アリモドキカッコウは、いずれも福井県ではほかに1ヶ所だけである。そのほ
か、クチキクシヒゲムシ、イツモンテントウダマムシ、
ムネマダラトラカミキリ、モモグロハナカミキリ、ハイイロツツクビカミキリ
、オニヒメテントウ、ツマフタホシテントウ、ヨツモンクロツツハムシ、
ムツモンミツギリゾウムシなどが分布上注目される甲虫としてあげられる。
 ハチ類では、マメギングチの生息が特記すべきで、この種は県下唯一で、日
本海側での分布南限となっている。台湾、中国に分布するということになって
いるツマアカツチバチが日野山で採集され、日本唯一の記録となっている。
ソボツチスガリ、ジンムプセンバチ、フクイアナバチなどの珍しいハチ類の生
息が確認され、山地性のミカドジガバチが山腹に多く、南方系のフジジガバチ
が記録されているなど、ハチ類相はかなり豊富である。アリ類は22種の生息が
認められ、山麓でカドフシアリの生息が確認された。そのほか、高い所では
エゾゼミが生息する。


〔爬虫類等〕
 両生類では、サンショウウオ目で、ヒダサンショウウオ、
ハコネサンショウウオ、イモリ等の生息を確認、カエル目ではヒキガエルを始
め、一般種が多数生息している。爬虫類ではイシガメを始めトカゲ目のトカゲ
、カナヘビ、ヘビ目では、アオダイショウ、シマヘビ、ヤマカガシ、マムシ等
の一般種の生息を見る。植生の豊かさのためか種類数、個体数共に多い。
 貝類では、植相に変化が多く、また調査が進んでいるために、確認の生息種
類数、個体数が共に多い。荒谷滝のシブキツボ、山麓線上に移入種の
ナガオカモノアラガイ等が多く、淡水貝中には、ササノハガイ、マツカサガイ
の生息を見る。


〔景 観〕
 日野山は海抜794.5m、武生の近郊に君臨するかのように聳えるコニーデ型
の火山性地形の山で、山容は頗る秀麗で美しい。
 山麓の谷地形には、スギの植林が進み、支脈の屋根にはアカマツの自然林が
群落をなして分布している。山麓から山頂に向かっては、クリ−コナラ林が、
次にクリ−ミズナラ林が分布し、山頂付近にはブナ林が自生していて明確に林
相の垂直な分布が認められる。山頂付近のブナ林は巨木が多く、山中の林相景
観には原生自然がよく認められる。
 この山は文殊山、越知山などと共に、古代、中世において山岳信仰における
霊山として、越前五山の一つとされていた山で、山麓の萱谷、荒谷、平吹には
それぞれ下ノ宮があって、そこより登拝がなされていた。その点、この山の登
拝の道の自然景観は、山岳信仰における歴史的景観として貴重である。
 山頂よりの眺望は、頗る眺望性に富んでいて、沈降海岸における溺谷をみる
ような、南越の変化に富んだ地形をみることができるすばらしい景観である。
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