4(奥越火山地)赤兎、大長山地区−-5万分の1地形図【越前勝山】−−−−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

4 赤兎、大長山地区                         [⇒位置図]

〔概 要〕
 この地区は、県境付近の奥越火山地で、手取層群上部及び面谷流紋岩類を被
って、鮮新−洪積世の古期安山岩が高所に分布している。赤兎山(1,628.7m)
及び大長山(1,671.4m)の標高 1,000m付近から樹令ほぼ 200年ぐらいのブナ
老令巨木が林立し、林床に シラネワラビが優占する ブナ原生林が分布してい
る。それらの組成から、本県における最も代表的な ブナ林帯を形成している。
また、この ブナ林は留鳥、夏鳥のよい生息環境様相を示しており、高地性、深
山性の鳥類が見られるほか、一般的な森林性鳥類が多類生息する。
 昆虫相では、山頂に近い湿地に分布西南限となっている カオジロトンボが生
息し、全般的に昆虫類は豊富で、開発が相当進んでいるが、一部では豊かな自
然度を示唆する昆虫相を示す地域が残されており、今後の保全が望まれる。
 また、この湿地は特定の両生類、爬虫類にとっては格好な繁殖場所であり、
ミズゴケ、モウセンゴケなどの植生もみられる。
 海抜 1,500m〜 1,600mで加越国境に連なる山々は、火山性地形を呈して、
その山容は個性的で変化に富み、願教寺山、二ノ峰らと共に奥越の代表的な山
岳景観を呈している。


〔地形・地質〕
 県境に位置する赤兎山を中心とする奥越火山地の一角を占める地区である。
赤兎山から大長山へ通ずる鞍部には小原峠がある。
 前期白亜紀の手取層群を被って面谷流紋岩類が広く分布する。その上位に鮮
新−洪積世の古期火山岩(経ヶ岳火山岩)があり、安山岩質溶岩、凝灰角礫岩、
火山角礫岩などから構成され、岩相変化が大きい。赤兎山付近の安山岩は
デーサイト質で、弱い流理構造を持ち、溶岩の厚さも薄い。


〔植 物〕
 加越山地の東側の山岳地で、赤兎山、大長山及び小原峠付近を中心とする山
岳地であり、標高 1,000m付近から上部では、典型的なオオバクロモジ−ブナ
群集が優占する日本海型 ブナ原生林が分布している。
 特に、赤兎山では種類が極めて豊富であり、標高 1,000m付近から山頂に向
かって、林床にシラネワラビが著しく優占するオオバクロモジ−ブナ群集の
シラネワラビ亜群集として識別される組成が見られる。林冠の ブナは、樹令
ほぼ 200年に及ぶ老令巨木が蜜生し、林間には マルバマンサク、
ハウチワカエデ、ミネカエデ、オオカメノキ、ムラサキヤシホ、エゾユズリハ
、ヒメモチ、ツノハシバミなど日本海地域固有種が均質に分布して、非常に安
定した極相群落型を呈し、シラネワラビが顕著な原生林である。本県における
最も代表的なブナ林帯である。
 それらの下部には、クリ−ミズナラ林が分布して、全体的に非常に明確な垂
直分布帯を示し、好適な夏緑林環境が構成されている。
 赤兎山の山頂付近の南斜面には、本県では代表的なのみでなく、北陸地方で
も注目されるであろう極めて広大なニッコウキスゲ群落が分布して、非常にす
ぐれた自然景観を構成している。
 山頂から、少し南東に下がったところに小池塘が存在し、水深20cmには、
オオミズゴケが基底になって、周縁部にミカズキグサ及びホタルイの小群落が
形成されて、高層湿原性の自然景観が見られる。


〔鳥 獣〕
 赤兎山頂一帯の低木叢や周辺の疎林はウグイス、夏鳥のコルリが優先する。
森林性のヒガラ、ヒヨドリ、ウソが次ぎ、イカル、アカゲラ、コゲラ、
ホオジロ、キジバト、渓谷のミソサザイ、カワガラス、数少ない深山繁殖の
カヤクグリ、ビンズイ、植物連鎖の頂点にクマタカがいて、鳥類の生息環境は
すぐれている。


〔昆 虫〕
 昆虫の調査は和佐盛平から小原峠を経て赤兎山山頂に到る コース、打波川
流域からの登山道、および小原峠から大長山への コースで主に行われている。
最後のコース については十分に調査されていないが相当豊かな昆虫相を有する
と推定される。
 山頂に近い湿地には カオジロトンボが生息し、これは県下唯一の産地である
とともに分布西南限として生物地理学上貴重である。同湿地には、
ルリイトンボ、ルリボシヤンマ、オオルリボシヤンマなどの注目すべきトンボ
類やキヌツヤミズクサハムシも産する。
 蝶類では、フジミドリシジミが多いことは特記すべきで、ウラミスジシジミ
、キベリタテハ、スギタニルリシジミ、ツマジロウラジャノメなどの分布上興
味深い種が生息するほか、種類数も多い。甲虫類ではホソヒメクロオサムシ(
白山亜種)が確認されたが、これは従来加賀白山からのみ知らされていた(な
お、冠山からも最近発見され、その分類関係は検討中である)。そのほか、数
多くのまれな甲虫が多数確認されており、目ぼしいものをあげると、
ヒメオオクワガタ、コルリクワガタ、イツモンナガクチキムシ、
カタアカナガクチキムシ(県下唯一)、ヒラタクチキムシダマシ、
キンナガゴミムシ、アカバナガタマムシなどである。蜂類では、
キスケギングチバチは小池と当地だけ、フタツバセイボウは西谷村と当地だけ
から知られ、美麗珍種のエゾカギバラバチの雌雄が多産することは注目すべき
である。そのほか、オオドロバチモドキ、キスケギングバチ、
カゲロウギングチバチ、アイヌギングチバチ、コイケアワフキバチなどが特記
すべきものとしてあげられる。標高 400〜1,000mあたりには北方系の
エゾアカヤマアリが生息し、1,100m付近には アカヤマアリの生息が確認され
、これは分布西限と考えられる。そのほか、山地性の昆虫として、コエゾセミ
、ハネナガフキバッタの生息があげられる。
 大野市側は ギングチバチ類ほかの数多くの珍しい蜂類が採集され、蜂類の生
息地としては福井県第1級ともいえる。この地域の特に注目すべき蜂類:
フタツバセイボウ、キユビギングチ、アイヌギングチ、ガロアギングチ、
チュウゼンジギングチ、ヤマトギングチ、ミツバギングチ、オタネギングチ、
シモヤマジガバチモドキ、ミヤマツヤセイボウ。
 小原から小原峠に到る地域は近年林道整備にともなって、森林伐採が著しく
進行しているが、旧登山道に沿った地域はすぐれた自然度を保ち、昆虫類は豊
富である。また、小原峠から上の地域はかなり良く自然が保たれ、山地性の昆
虫が多い。


〔爬虫類等〕
 両生、爬虫類では、標高1,200m前後のブナ原生林の渓流で、
ハコネサンショウウオ、赤池では、クロサンショウウオ、
モリアオガエルを確認することができた。一帯の渓流には、ナカレヒキガエル
が多い。ヤマカガシ、ジムグリ、マムシの多いことも、ノネズミの生息と関連
して注目される。
 貝類では、キセルガイの類、エチゴキセルモドキ、ハゲキセルが多数生息し
ているが、巻貝が少なく、ハクサンマイマイ、ミドリベッコウマイマイの稀産
種も生息していた。

〔陸水生物〕
 (藻類)
 赤兎山山頂より約1km東の位置の避難小屋のある高原(標高約 1,580m)
に通称名「赤池」を中心にいくつかの高層湿原がみられる。この赤池の表泥、
ミズゴケのしぼり汁、プランクトンネット採集の資料から藻類として、藍藻 3
、珪藻11、緑藻17の計31種を確認した。これらの中で比較的多く出現した種類
は、珪藻でヒシガタケイソウ属、緑藻でメソタニウム属、ネトリウム属、
ドシディュム属などである。これらの中でネトリウム属の2種が優占種となっ
ていた。前記した種類はいずれもミズゴケ湿原、高層湿原などによくでてくる
仲間である。ここの池の周辺にはミズゴケ、モウセンゴケ、ヤチスゲなどが優
占する高層湿原の群落がみられるが、藻類 フローラとしても高層湿原の性格
を表わしている。生態的な面でも価値のある湿原といえよう。
 (水生植物)
 「赤池」は水深20cmの小池塘があり、オオミズゴケがひろがる高層湿原が
形成されて、貧栄養的な条件から、貧弱な植生が見られる。
 浅いところには、ミカヅキグサ、やや深いところには、ミヤマホヌルイの小
群落が形成されて特有の自然景観が形成されている。


〔景 観〕
 杉峠の西方から赤兎、大長、烏岳にかけての加越国境に連なる山々は、海抜
1,500mから1,600mもある亜高山性の山で、山頂付近がつきたてた様な山容を
なす烏岳や、女性的な山容の赤兎山(五箇側は急峻で異る)など、各山々は頗
る個性的で変化に富み、願教寺山、二ノ峰らと共に、奥越を代表する自然美に
とむ山岳景観である。
 これら山々の山頂や、稜線からは美しく雄大な白山の近景が眺望される。
 赤兎山の亥向谷、観音谷側の ブナの原生林は巨木が多く、大長、烏岳の北谷
側は、原生自然のままによく自然が保たれていて、自然度の高い森林景観の地
としても貴重である。
 報恩寺山、早内森、石川県三谷を経て白山に至る山の古道は、越前馬場平泉
寺より白山に登拝する古代、中世に於ける修験者の禅定道で、この地区の早内
森の景観は、白山信仰上の歴史的自然景観としても貴重である。
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