38(丹生山地)厨城山、若須岳地区−−-5万分の1地形図【鯖江】−−−−−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔景 観〕

38 厨城山・若須岳地区                      [⇒位置図]

〔概 要〕
 この地区では、丹生山地南部の山腹急斜面が日本海岸に直に接しており、そ
の山麓に沿って中位の海岸段丘が見事に連続している。山地部はすべて中生代
末の酸性火山岩類(面谷流紋岩類)から構成されている。
 植生では、狭い範囲であるが、厨城山の山頂付近にオオバクロモジ−ブナ群
集が優占する極相林が残存されており、若須岳の山頂付近には、組成的に安定
したクリ−ミズナラ林が分布している。
 厨城山社叢林はブナも保存され、鳥類にとっては夏緑広葉樹のよい生息環境
を有している。付近一帯が、開けている中のオアシスといえる。
 昆虫相は貧弱であるが、若干の珍稀種が採集されている。


〔地形・地質〕
 この地区は、丹生山地南部の沿岸部に近く位置し、海岸よりの山脚部には海
抜60〜70mの海岸段丘がほぼ連続して分布する。その段丘面上には、東側山腹
の急斜面からの崖錐がみられる。なお、海食崖の前面にある海岸低地は狭い。
砂浜のある厨南部を除いて礫がつづく。
 この付近の地質は、中生代白亜紀末の濃飛流紋岩(面谷流紋岩)が広く分布
しており、越前町厨東方には、帯紫色の流紋岩中にスワエルライト(球果)を
含むことが特徴的といえる。
 海岸段丘(中位段丘)を遠望した景観は見事である。


〔植 物〕
 厨海岸沿いの海岸断崖斜面の東側、城山(513m)及びその南側に位置する
若須岳(564.1m)を中心とする丹生山地南側に当る地区である。
 海岸から断崖山頂に向かって、照葉樹林、同代償林、夏緑広葉樹林及び同代
償林の林帯が、安定した森林植生帯を構成している地区である。特に、若須岳
を中心に 標高200m付近から上部では、基礎自然度がかなり高い値を示し、好
適な代償林帯が構成されている。
 城山の山頂付近の狭い範囲であるが、ブナ極相に近い林叢が残存しており、
それらの林間では、ハウチワカエデ、サイゴクミツバツツジ、マルバマンサク
、オオバクロモジ、オオカメノキ、タムシバ、ハイイヌガヤなど、また、林床
にはツルシキミ、オクノカンスゲ、ツクバネソウなどが優占して、
オオバクロモジ−ブナ群集のマルバマンサク型であり、オオカメノキが分布し
ていることなど、生態地理学的に貴重な組成を示す。
 それらの下部には、矢良巣岳山頂付近を中心に分布するクリ−ミズナラ林が
優占し、それらの林間では、イタヤカエデ、ヤマモミジ、オオバクロモジ、
ユキツバキ、マルバマンサク、ハイイヌガヤ、ナナカマド、ホツツジなど、林
床ではオクノカンスゲ、トキワイカリソウ、スミレサイシンなどが顕著に分布
し、ミズナラ−オオバクロモジ群落にまとめられる。
 クリ−ミズナラ林の下部では、組成的に安定したヤマツツジ型のコナラ群落
が形成されている。
 この地区の森林植生の特徴としては、クリ−ミズナラ林が広範囲にわたって
、安定した林帯を構成していること、しかも、低山地で温暖な気候的条件下に
ありながら、組成的には多雪地域型の夏緑広葉樹林を呈することが挙げられる
。
 最近、伐採が急速に進んでいる。特に城山付近では、全域にわたって進めら
れているので、現在わずかに残っているブナ極相林を是非とも保存することが
必要である。


〔鳥 獣〕
 林道開通によって伐採植林がよく進んでいるが、厨城山社叢林はブナも保存
された夏緑広葉樹のよい生息環境を有している。付近一帯が、開けている中の
オアシスといえる。
 ヒヨドリ、ホオジロが著しく優占する中で、エナガ、ヤマガラ、
シジュウカラ、ウグイス、コゲラ、カケスの繁殖期の個体数も多く、留鳥とし
てオオタカ、ヤマドリ、キジバト、アオバト、アオゲラ、ビンズイ、メジロ、
イカル、夏鳥ではヤブサメ、オオルリの個体数が多く、ハチクマ、サシバ、
ツツドリ、ホトトギス、サンンショウクイ、クロツグミ、メボソムシクイ、
センダイムシクイ、サンコウチョウがおり、繁殖種も認められる。冬鳥の
シロハラ、ツグミ、アオジ、アトリ、ジョウビタキの渡来も見られる。


〔昆 虫〕
 林道開発などにより、全山にわたり荒廃が著しく、昆虫相は極めて貧弱であ
る。城山山頂付近に小地域ブナ林が残されているが、ここも昆虫は多くはない
。ただ、城山山頂近くでエグレアリマキバチが採集され、この峰は本州中北部
に産する稀種で、ほかに福井県からの記録がない。また、若須岳で採れた
サビナカボソタマムシは、県下からは本地区と雲谷山からの2頭きりのもので
、全国的にも少なく、採集されると必ず報告されるほどのものである。城山山
麓で得られたメクラチビゴミムシの1種や、フトツツハネカクシも注目される
。さらに、若須岳山麓の千合谷から採集されたヨロイカマアシムシは、全国で
3ヶ所しか産地が知られていない。このように、全体的には貧弱な昆虫相の中
に、極めて珍しい種を含んでいることは、かつてあった昆虫相を潜在的に示し
ているのかもしれない。なお、厨(詳細な位置不明)でオオムツボシタマムシ
の古い採集記録があるが、県下では文殊山でも採れているが、全国的にも珍し
いものであることを付記しておく。


〔爬虫類等〕
 両生類では、一般種のみの確認で、ヒキガエル、ヤマアカガエル、
ニホンアカガエル、アマガエル、イモリ等で平凡。爬虫類ではマムシ、
ヤマカガシ、アオダイショウ、カナヘビ等と単純である。
 貝類では、イツマデガイ、オトメマイマイ、ハリマムシオイガイが生息し、
城山では高度を増すにつれて、ナミマイマイ、オカノニシキマイマイ、
クロイワマイマイと生息相が変っていくことが明瞭に観察できる。特に、
クロイワマイマイの分布は特筆される。


〔景 観〕
 この地区の海岸は、山が海に迫り、茂原付近では崖下に岩礁のともなう海蝕
崖があり、また、海抜40m位から60m位の高さのところに、南北に長く連なる
海岸段丘もあって、その段丘上にはクリ、コナラ林、スダジイ林、スギ林に混
って、アカマツの自然林が分布し、変化に富む海岸地形と調和して、風致に富
んだ美しい景観の海岸風景がつくられている。
 若須岳、城山は何れも海抜500m余の山で、クリ、ミズナラ林を主にする落
葉樹によって覆われている。比較的、人手が殆ど入っていないので、原生自然
に近い自然景観にふれることができる。
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