37(丹生山地)越前岬地区−−-5万分の1地形図【梅浦】−−−−−−−−−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔爬虫類等〕〔景 観〕

37 越前岬地区                         [⇒位置図]

〔概 要〕
 この地区は、丹生山地の山腹急斜面が直接日本海にのぞんでおり、山腹には
高位海岸段丘地形が断続分布している。また、新第三紀の礫岩相の発達が著し
く、鳥糞岩などは特異である。この礫岩相の下位にくる糸生累層は、越前町玉
川以南に分布している。これらの岩相の複雑さを反映して、海岸地形は変化に
富んでいる。
 植生では、広大な面積にわたって、急峻な海岸断崖地にスイセンの多密な分
布が見られるのは、生態地理学的に貴重である。
 血ヶ平付近のケヤキ、エノキの成木林は、夏鳥、冬鳥の渡りの経路上にあっ
て、一時のよい休息地になっている。
 沿岸には、集落が続き池の多い社寺も多数あり、それに小渓流、小河川もあ
って、両生類の生息条件に適した箇所も少なくない。
 礫岩層の海蝕崖が連なる海岸地形は、海蝕洞や奇岩奇石の岩礁が散在する越
前海岸の代表的な景勝地で、呼鳥門、鳥糞岩の断崖などを擁して、越前加賀海
岸国定公園の特別保護区に指定されている。


〔地形・地質〕
 この地区では、丹生山地中部の山腹急斜面が海岸に直接し、海蝕崖、海蝕洞
が発達する。その途中に、海抜100m内外の高位海岸段丘と、海抜60m内外の
中位段丘が散点的に分布する。特に、越前岬付近では前者の分布が明瞭である
。
 この付近一帯には、中新世中期の厚い礫岩の発達が顕著であり、その礫種か
ら判断すると、より海側にその供給地が予想できる。越前町左右にある鳥糞岩
は総てこの礫岩からなり、その断崖は雄大である。その下位にくる地層は、玉
川以南にみられ、安山岩質溶岩および同質火砕岩などは、中新世前期の糸生累
層である。なお、高位段丘層は主に砂からなるが、これが新しい地質時代の断
層運動で変位している様子がみられる。


〔植 物〕
 越前岬を中心として、呼鳥門、八ツ俣、血ヶ平、玉川などを含む急峻な断崖
地形からなり、土壌層が著しく薄層となった、植生にとって、特殊な条件下に
ある地区である。
 越前岬を中心に、臨海断崖の比較的暖かな斜面に、広大な面積にわたって
スイセン畑がひろがって、勝れた自然景観を構成する。基礎自然度は、やや低
い値を示し疎生的である。
 それらの背面の風衝地には、萌芽林状ではあるが、高密度のスダジイ林冠が
形成されるヤブコウジ−スダジイ群集が優占する極相林帯が狭い範囲であり、
林間種もやや不安定さの中で極めて好適な照葉樹林帯を構成する。特に、それ
らの林間では、ヤブツバキ、サイゴクミツバツツジ、ムラサキシキブが優占す
る。
 スダジイ林帯の上部には、クリ−コナラ林が分布し、それらの林間には、
スダジイ、シロダモ、ナツハゼ、アクシバ、ホツツジ、ヒサカキ等が優占し、
全体的にやや不安定な組成を呈するが、断崖地形上の代償林として特徴的な相
観が形成されている。
 この地区のひとつの特徴として、断崖の上部、平坦な部分を中心とする陽地
環境にスギ林が分布しており、あまり人手が入らずに、自然林的な林相が見ら
れることである。
 また、近年、この地区付近の上部の、比較的表層土の厚い部分に、ミカンの
栽培が行われており、同種の果熟期における気候的条件に対応して、品種の改
良や土質の改良等により、ミカン狩り等レジャー用のレベルまでに生産力を高
めている。
 最近、この地区の上部において、道路の改良等で、伐採が急速に進行されて
きた。
 それらの進行を最小限にし、臨海自然景観を保護するよう、林相分布域の再
調査、環境要因の分析等、早急に研究が必要であろう。


〔鳥 獣〕
 海面の岩礁には、ウミウ、ヒメウが止まっているが、その数は多くはない。
鳥糞岩は夜間のねぐらとなるが、その数は定かでない。大きな岩壁がまっ白に
なることから、他の例から考えると 100羽前後と考えられる。ヤブツバキも多
く自生し、真冬に開花するので、密を求めてのメジロをよく見ることができる
。ヒヨドリ、ホオジロ、ヤマガラ、シジュウカラの留鳥、夏鳥、冬鳥の渡り経
路となっており、血ヶ平付近のケヤキ、エノキの成木林は一時のよい休息地と
なっている。


〔爬虫類等〕
 両生類、爬虫類共に一般種のみで、特記するものは見当らないが、当地区で
は2、3回セグロウミヘビが捕獲されたことがある。山陰地方で見られる竜神
として祀る風習はない。
 貝類では、海岸線上にイツマデガイ、ナミマイマイが生息し、特に
ナミマイマイの北限であることを特記する。


〔景 観〕
 海蝕によってできた急峻な海蝕崖が、数kmにわたって続く特色のある地形
の海岸で、その海蝕崖は礫岩層が多く、しかも高さが 100mにも及ぶところも
珍しくない。崖下には海蝕洞、奇岩奇石の岩礁等が無数に散在し、その変化に
富む地形は、美しい断崖の鳥糞岩や、呼鳥門、奥深い玉川観音の海蝕洞などの
多くの景勝、奇勝をつくっている。
 断崖上には、ドベラ、ヤブツバキなどの常緑樹とクロマツ林などが分布して
いて、それが断崖の景観とよく調和して、この海岸の自然景観は、頗る風致に
とんだ雄大なものとなっている。
 臨海斜面には、広い範囲にわたってスイセン畑が分布しているが、その眺め
はこの海岸特有のもので、風土的情緒のただよう海岸景観である。
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