35(丹生山地)小丹生−茱崎地区−−-5万分の1地形図【福井】−−−−−−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔爬虫類等〕〔景 観〕

35 小丹生 − 茱崎地区                [⇒位置図]


〔概 要〕
 この地区は、日本海側に沿って高、低2つの海岸段丘が続いている。新第三
紀層は海岸部で撓曲し急傾斜している。地層は、中新世の国見累層に属し、下
位は陸水成また上部は、内湾性の化石を多産する。地層の好露出が続き、鮎川
貝化石産地は古くから有名である。
 植生は、非常に狭い範囲であるが、社叢や風衝地を中心にして、イノデ−
タブノキ群集の優占する極相林が残存し、安定した林相を構成しているのが注
目される。
 海岸線ではウミネコ、冬期のカモメ、ウミウの生息をみるが疎である。
 大和川や段丘上の用水等、両生類に密接な関係を持つ水環境は良好である。
 岩礁と海蝕崖が連なる海岸線にあって、小丹生の波状侵食海岸は、特異な自
然景観を呈している。


〔地形・地質〕
 この地区では、丹生山地が急斜面をもって直接日本海にのぞむ。越廼村大味
より北方では、高低2つの海岸段丘が断続的に分布している。中新世中期の国
見累層(深谷層、大丹生層)が海岸に沿って良い露出を示す。その下部は主に
凝灰質岩(深谷層)から、上部は凝灰質砂岩、泥岩の互層(大丹生層)からな
り、下部層は植物化石を、上部は貝化石(内湾成)を産し、その岩相、化石の
状態から判断して、三角州から次第に内湾へ移化していったことがわかる。全
体として新第三紀層が海岸部で撓曲構造を示しており、地層は海側へ急傾斜す
る。
 小丹生西方海岸にある“鬼の洗たく場”は大丹生層の互層部で、硬い部分(
砂岩)と軟かい部分(泥岩)とが海水の差別侵食を受けた素晴らしい景観が続
いている。この付近からは、植物化石、貝化石、亀化石などを産し貴重な露頭
といえよう。


〔植 物〕
 白浜、小丹生、大丹生及び茱崎を結ぶ越前海岸域及び丹生山地の北西縁断崖
山地からなる地区であり、かなり急峻な斜面地形であるが、風衝地的条件下に
あり、海岸林植生帯による基礎自然度は高い値を示している。
 この斜面地には、海岸マツ林及び組成的に安定した照葉樹林及びそれらの代
償林であるクリ−コナラ林が分布している。また、海岸沿いの山麓斜面には、
福井県の県花であるスイセンが広い範囲にわたって分布している。同種は、南
条郡河野村神土から丹生郡越廼村大味付近までの海岸段丘を中心に分布し、広
く疎生的ではあるが、若狭湾沿岸の大飯郡付近までに見られる。元々はおそら
く自生地と考えるが、途中で、他種あるいは品種の導入による改良が行われて
いるようである。冬期1月頃に開花するスイセンの美しさは、越前海岸におけ
る自然景観に美観をそえる。
 小丹生及び大丹生付近の神社社叢や風衝地に残する照葉樹林は、林間に
ヤブツバキ、シロダモ、ヤブニッケイ、モチノキ、マルバグミ、林床には
ジャノヒゲ、ヤブラン、ヤブソテツ、ベニシダなどが優占して、全体的には
ヤブコウジ−スダジイ群集のモチノキ亜群集にまとめられる。タブノキ林は、
組成的にイノデ−タブノキ群集としてまとめられるが、それらの分布域は非常
に狭い。
 それらの照葉樹林は、樹高が全体的に7mから8mまでぐらいの低林冠であ
り、樹齢も比較的若いようであるが、密度はかなり大きく平坦地の相観とはか
なり相違している。
 越前加賀海岸国定公園の指定以来、一部好適な環境への造成が進められたが
、多方では、かなり著しい伐採等の進行による環境破壊が生起されている部分
が多く、今後、海岸自然景観の保全に対する対策が検討され、計画されるべき
であろう。
 なお、この付近の海岸断崖斜面に散在するケヤキ林叢は、自然林として特徴
をもった林相を呈するようであるが、今のところ、まだ明確にされていないの
で早急に調査されることが望まれる。


〔鳥 獣〕
 海岸に面する斜面一帯は代償林、スギ林が多く、生息環境は一般的である。
 海岸線ではウミネコ、冬期のカモメ、ウミウの生息をみるが疎である。


〔爬虫類等〕
 両生類中モリアオガエルが際立って多く、県内では当地区ほど広範に分布す
る所は少ないであろう。シュレーゲルアオガエルも多い。爬虫類では一般的な
アオダイショウ、シマヘビ、ヤマカガシ等が普通に分布する。海岸線上の常緑
広葉樹林にトカゲが目立って多い。
 貝類では海岸の山麓にオカノニシキマイマイの大型種、イツマデガイ、
ハリマムシオイガイ、ベッコウマイマイ、コウラナメクジが多いことが注目さ
れる。(本調査とは直接の関係を持たないことだが、本地区内の小丹生海岸で
エチゼンオオスッポンの化石が発見されている。中期中新世のものだといわれ
ている) 勿論当地域にイシガメの現存することと併せて付記する。


〔景 観〕
 小丹生の海岸には、なぎさ近くに凝灰質砂岩と泥岩が交互に層をなして連な
り、軟い泥岩は波浪の侵食をうけ、硬い砂岩が幾重にも帯状をなして海岸に並
びのこる俗に「鬼の洗濯板」と云われる珍しい海岸地形がつくられている。自
然の造形美であり、誠に珍しい貴重な自然景観である。
 小丹生から茱崎にかけての海岸は、山が海に迫り海蝕をうけて、断崖と岩礁
のつらなる地形がつくられている。山には汀近くまでクロマツ林、アカマツ林
の老樹が分布していて、断崖と岩礁のつらなる海岸は、その変化に富んだ海岸
地形と相和して、風致にとんだものとなっている。
 海に迫る山麓の斜面には、香気を放つスイセンが栽培され、初冬の風景はこ
の地特有の風土的情緒のただよう海岸風景であり、自然のもつ美しい景観であ
る。
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