34(丹生山地)国見岳−大芝山地区−−-5万分の1地形図【福井】−−−−−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

34 国見岳 − 大芝山地区                     [⇒位置図]

〔概 要〕
 国見岳の頂上部を含めた山稜部は定高性を示し、その北及び南側には深い河
谷が形成されている。新第三紀中新世の国見累層が中・下部にあり、その上部
に国見安山岩が広く分布している。周囲には動・植物化石の産地が多い。
 植生は、大芝山のミズバショウやハンノキ林の分布、アカマツ林に見られる
ヒサカキ型、ヤマツツジ型、サイゴクミツバツツジ型等の多様化、クリ−
ミズナラ林における多雪型のミズナラ−マルバマンサク−チゴユリ群落の分布
など、代償林における多様化が非常に著しいことで貴重である。
 この地は、渡り鳥の経路となっているが、二枚田幹線林道の開通に伴い、一
帯の伐採が進み、生息環境は次第に悪化している。昆虫相も単調であり、両生
、爬虫、貝類の生息環境としては一般的である。
 丹生山地の一角を占める国見岳は眺望にすぐれ、山頂部からは眼下に日本海
と三里浜砂丘、また福井平野が一望される。


〔地形・地質〕
 福井市三本木川と五太子川にはさまれた山稜部は、国見岳の頂上部を含んで
、遠望した場合に海抜500m内外の定高性を示す。これらの諸河川は、西流して
日本海に注ぎ、その中、上流部は深い河谷を形成している。五太子川の中流に
は五太子の滝があり、これは硬い安山岩々脈が造瀑層を作る。
 この付近一帯の新第三紀層は、国見累層と呼ばれ、凝灰岩、凝灰質砂岩、泥
岩などから構成されており、一部に亜炭層を挟在する。この地層を厚く被ふく
して国見岳安山岩が不整合に重なる。そのため、一段と高い山稜部を作ってい
る。それに対して低い大芝山付近は、海抜400m程度で、国見岳安山岩をのせ
ていない。この安山岩の活動した時代は、中新世後期と考えられる。


〔植 物〕
 丹生山地の北東端付近に位置し、国見岳(656.1m)及び大芝山(455.1m)
を中心とする地形的にやや緩やかな斜面を持った台地状山地である。
 山麓付近では、近年著しく伐採が進行されスギ植林がひろげられているが、
標高100m付近からは、ヤブツバキクラス域代償林、標高400m付近から頂上に
向かって、ブナクラス域の代償林が密生して高い基礎自然度を示し、好適な植
生環境が構成される。
 ヤブツバキクラス域の代償林帯では、クリ−コナラ林及びアカマツ林が優占
し、谷筋ではスギ林が分布する。
 クリ−コナラ林帯では、まず大芝山において、ごく狭い範囲であるが自然林
的な林相として残存するハンノキ林の林床に、ミズバショウの群体が見られ、
それらは、同種の南限域に当るということで、区系地理学的に極めて重要であ
る。
 コナラ林相では、林間優占種からホツツジ型、タカノツメ型 及び
マルバマンサク型の三群落型が顕著であり、全域にわたって均質に分布して、
典型的な二次林帯が構成されている。それらの中で、特にマルバマンサク型は
、上部のブナクラス域代償林に接して、豊富な植相を保っての二次林化が見ら
れる。
 アカマツ林では、尾根上にかなり安定した林相がひろがり、林間優占種から
ヒサカキ型、ヤマツツジ型、サイゴクミツバツツジ型等が、顕著な林叢として
見られる。そして、分布上限付近では、クリ−ミズナラ林に接して、組成的に
もマルバマンサク型になっている。
 国見岳及び大芝山を中心にして、標高400m付近から山頂へ、林間に
マルバマンサク、林床にチゴユリが優占するミズナラ−マルバマンサク−
チゴユリ群落が顕著である。それらの林間及び林床には、トキワイカリソウ、
ホクリクネコノメソウ、エゾユズリハ、キンキマメザクラ、
サイゴクミツバツツジ、ケナシヤブデマリ、タニウツギ、チャボガヤ、
ヒメアオキ、アクシバ、ツノハシバミ、スミレサイシン、クルマバハグマ、
ハウチワカエデ、オオバクロモジ、ヤマボウシ、コアジサイ、イヌガヤ、
ウワミズザクラ、ナツツバキ、アワブキ、ウリハダカエデ、コミネカエデ、
タンナサワフタギなどの日本海地域固有種が 豊富に分布しているのが注目さ
れる。
 一光の標高100m付近に位置する白山神社の社叢では、林冠のブナは伐採さ
れ、わずかに低木層及び林床草本層が残存しており、それらには、
オオバクロモジ−ブナ群集の標徴種が残存していることから、伐採前にはブナ
林であったことが明らかに推定される。このことは、福井県におけるブナ帯の
現存植生が、標高200m付近にまで下限域がみられることからも、生態地理学
的に極めて貴重である。
 最近、林道造成及び宅地利用のために、特に大芝山付近の平坦な斜面におけ
る伐採が顕著になって、すぐれた自然景観や二次林帯森林相観の美しさが急速
にそこなわれているので、早急にこの地区の森林生態系の構造に対する再検討
によって、今後の保全策を早急に進めるべきである。


〔鳥 獣〕
 二枚田幹線林道の開通に伴い、頂上付近をはじめ、一帯の伐採が進み、渡り
鳥の経路とはなろうが、生息環境は見るべきものが少ない。


〔昆 虫〕
 二枚田幹線林道や森林伐採に加えて、国見岳山頂付近の観光地化によって、
自然環境は著しく変化していて、昆虫相は単調になっているが、一部では往時
の面影を残すかのようにいくつかの注目すべき昆虫が見られる。蝶類では、や
や少ないものとして、オオムラサキ、スミナガシ、アサギマダラ、
アオバセセリ、ツマグロヒョウモンなどがあげられ、トンボ類では
ミルンヤンマ(奥平町)、オオルリボシヤンマが生息する。国見岳頂上近くで
はエゾゼミの声を聞く。甲虫類は多くないが、シラホシナガタマムシ、
スジグロオオハムシが採集されている。ハチ類も貧弱であるが、高地性の
リンゴノヒメハナバチの生息は注目すべきである。
 すでに保養施設などの開発や車の交通量の増加によって、大きく変貌してし
まってはいるが、自然公園的要素を残しているので、現状以上の破壊をさけ、
多少とも自然の回復を計りたいものである。


〔爬虫類等〕
 両生類ではモリアオガエル、シュレーゲルアオガエル、ヒキガエル等の一般
的なものが多い。ヒダサンショウウオの確認、それにオオサンショウウオを確
認した(1970ごろ)という聞き取りについては信憑性に欠けるが、丹生山中で
の2、3の同様の口伝には吟味の必要がある。三本木でのタカチホヘビの確認
はこの種のヘビが広く県内に分布することを示すものである。爬虫類では、こ
の他は一般種のみである。
 貝類ではオカノニシキマイマイの生息は北限として注目される。
イツマデガイ、ハリマ、ムシオイガイ、ベッコウマイマイ類、コハクガイが多
く、生息密度が平野に比べ大きい。国見岳にはオオキセルガイが多い。


〔陸水生物〕
 国見岳、大芝山を水源として、流程数kmの一光川が越前海岸に注いでいる
。大芝山の湿原にはミズバショウが分布し、南限地として貴重である。
 (藻類)
 一光川には50種余りの付着藻がみられる。量的にはいずれも少なく、
カマエシフオン、ユレモ、ヒシガタケイソウ、クチビルケイソウなどがやや目
立つ程度で、付着藻群落の貧弱な河川である。量的には非常に少ないが、湿原
によく現われるイチモンジケイソウの仲間が数種類でてきた。前記の
ヒシガタケイソウが同じく湿原性の種類であることと合わせて注目される。
 (水生昆虫類)
 一光川は、流水量は少なく、田畑からの排水や砂防工事による人為的な影響
が大きく、水生昆虫の自然な生息場所を見出すことは困難である。種類数、現
存量ともに極めて少ない。
 (水生及び湿生植物)
 一光川の一角である大芝山付近には、湧水あるいは伏流水の涵養によるいく
つかの貯留水域が形成されている。また、近年大芝山に近いところにある水田
を堰止めして溜池を造成した。それらの中で、標高380m付近に位置する湿原
には、ハンノキ−ハイイヌツゲ−シロネ群落が優占しており、その林床に南限
種と考えられるミズバショウが多数株分布して、特色のある湿原自然環境を構
成している。
 また、溜池では、当初ヒルムシロが優占する水生植物群落系を呈したが、現
在では周辺からのヨシの侵入によって、沼沢地生態系を構成している。富栄養
化が急速に進行していると考えられる。


〔景 観〕
 丹生山地の一角を占める国見岳は、海抜 656mの中山性の山で、山頂は南北
にほぼ同じ高さを保ち、東西は急峻で西側に深い谷地形をもつ。その山容は、
海抜の割合いに雄大で、亜高山性の山にも比すべき山岳景観をもつ。
 山麓の谷地形にはスギの植林がすすんでいるが、他はクリ、コナラ林、クリ
、ミズナラ林を主とする夏緑広葉樹林で、林相等にみられる山の自然景観には
、まだ自然が比較的よく保たれている。
 眺望性にすぐれた山で、山頂からは日本海、変化に富む地形の丹生山地、福
井平野などを一望におさめることができ、その景観はすばらしい。しかし、近
時、大型林道が開通してより、車の乗り入れが可能になったので、そのすばら
しい展望性をもつ景観も、近景となる山の風景が急速に変貌をとげつつあるこ
とは残念で、対策が望まれる。
 大芝山の本郷側尾根には、アカマツの自然林の群落があり、山の景観に頗る
風致を添えている。更毛、末に面する斜面は急峻であるが、山上一帯はなだら
かでクリ、コナラ林、クリ、ミズナラ林が分布し、クリ、ミズナラ林帯の一部
に湿原があって、僅かではあるがミズバショウが自生している。これらの景観
は、極めて貴重な自然景観である。
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