33(丹生山地)大安寺周辺地区−−-5万分の1地形図【福井】−−−−−−−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔景 観〕

33 大安寺周辺地区                   [⇒位置図]

〔概 要〕
 丹生山地西側の山麓線は直線的で、福井平野と接している。中新世の大丹生
層は、北方へ緩傾斜する単斜構造を示している。この山麓に沿って南北性の断
層が伏在している。
 植生では、標高200mぐらいまでの低山地で、しかも、斜面における起伏が
比較的少なくて緩やかな地形上に、基礎自然度が大きい代償林が分布すること
、特に、尾根沿いのアカマツ林と山腹のクリ−コナラ林のすみわけが非常に規
則的であり、安定した林相を示すことが注目される。
 大安寺鳥獣保護区、同特別保護地区に指定され、ヒヨドリ、ホオジロなどの
個体数が多く、冬の渡り鳥の経路ともなっている。
 昆虫相は、低山地にしては比較的豊富である。


〔地形・地質〕
 この付近の丹生山地は、多少ケスタ状を呈する低起伏山地で、福井平野と直
接する。主として凝灰質砂岩、泥岩からなる。中新世中期の大丹生層からは、
しばしば植物化石、海生貝化石を産出する。この上位には、安山岩、同質火砕
岩の多い燈豊層が畳なっている。これらの地層は、北方へ緩傾斜する単斜構造
を示すが、山麓線に沿って南北方向に断層が推定できる。従って、地層が平野
側へ急傾斜する部分がみとめられる。この断層に沿って、大安寺温泉などが配
列している。


〔植 物〕
 丹生山地の北東縁、九頭竜川、日野川の西側に緩やかな斜面を示す台地状の
低山である。
 標高 200mぐらいまでであり、山麓部周辺では全域にわたって伐採が急速に
進行されて、基礎自然度が著しく低くなっているが、山頂付近では
ヤブツバキクラス域の代償林、特にクリ−コナラ林及びアカマツ林が分布して
、かなり高い自然度を示す。
 それら二次林の林相は、豊富な種類数を含み、組成的にも均質的で安定な群
落型を呈し、それらの中には、多種類の群落型が識別される。近年、わが国の
森林自然環境の指標として、極相林はいうまでもないが、代償林においても比
較的安定した林相を呈することから対象とされてきた。本県においては、夏緑
広葉樹林帯に比較すると、照葉樹林帯の代償林が、伐採の後の開発行為によっ
てそれらの占有域が著しく減少した。
 この地区では、低山地群の屋根沿いに、クリ−コナラ林及びアカマツ林の二
次林が、安定した林叢として残存していることは極めて貴重である。
 更に、この地区のそれらの林相には、ヤブツバキクラス域であるが、林間及
び林床にトキワイカリソウ、ホクリクネコノメソウ、エゾユズリハ、
キンキマメザクラ、サイゴクミツバツツジ、タニウツキ、ヒメアオキ、
タムシバ、スミレサイシン、ハウチワカエデ、オオバクロモジ、コアジサイ、
ウワミズザクラ、タンナサワフタギなどの日本海地域固有種が、高頻度に分布
する。
 また、クリ−コナラ林では、コナラ−イヌツゲ−チゴユリ群落、コナラ−
ヒサカキ−チゴユリ群落、アカマツ林では、アカマツ−ヒサカキ−
ツルアリドウシ群落、アカマツ−リョウブ−ヤマツツジ群落、アカマツ−
コシアブラ−サイゴクミツバツツジ群落などが、顕著な林叢として広い範囲に
分布している。
 それらの二次林相の組成関係から、主として尾根沿いにヤマツツジ−
アカマツ群集型の典型林相を呈するアカマツ林と、山腹斜面に主として優占す
るヒサカキ型のクリ−コナラ林とが、かなり顕著にすみわけしているのが把握
できたことは、生態地理学的に非常に貴重である。
 最近、道路の改修、拡張工事や土地利用の多様化に応じて、更に伐採域が上
昇する傾向が見られることは極めて重大で、本県において、低山地
ヤブツバキクラス域の代表的な代償林域として保存されるよう検討すべきであ
ろう。


〔鳥 獣〕
 スギ林が大部分であるが二次林も見られ、寺叢林はよい林相を示している。
ヒヨドリ、ホオジロの他、メジロ、ヤマガラ、シジュウカラの個体数は多い方
であり、コゲラ、イカル、カケス、キジバト、アカゲラ、アオゲラ、キジ、
オオタカの生息をみる。
 夏鳥には、ヤブサメの生息、渡りの途中と思われるホトトギス、
アカショウビン、オオルリを観察する。高徳山に連なる海岸近縁の地域として
冬の渡り鳥の経路ともなっている。
 大安寺鳥獣保護区、同特別保護区に指定されている。


〔昆 虫〕
 集落に隣接する地区にしては、自然は割合よく残されており、そこでは昆虫
もかなり多く、オオムラサキ、ムカシヤンマ、ヤマグダマモドキなどの比較的
珍しい大形昆虫の生息が認められている。最近、オオクワガタが記録されたこ
とは特記すべきことである。日本最大のクワガタムシで、全国的にも珍稀な種
とされ、県下からは鳩ヶ湯からの古い記録があったが、暖地性種であるため疑
問視され、福井県における分布が危ぶまれていたものである。


〔景 観〕
 九頭竜川、日野川左岸の山は、海抜200m〜300mの低山性の山で、全山に
アカマツ林、コナラ林が分布していて、アカマツ、コナラ林による典型的な林
相を示している。アカマツ林は老樹が多く、山の景観にマツ特有の風致を添え
ている。
 田ノ谷の山中にある大安寺は、奈良朝の頃、泰澄が開いたと伝える田谷寺の
故地に、福井藩4代の松平光通が外護となって創建した臨済宗の寺で、本堂、
僧堂(庫裡)、開山堂等の諸堂が樹間に整い、緑濃いスギの老樹が覆う参道を
はじめ、サラソウジュ、シダレザクラなどの珍種名木を、創建当時多く集めて
つくられたという境内林は、老樹を伴って枯淡幽玄な趣のただよう禅宗寺院特
有の景観を呈している。
 寺の背後の山中には、歴代藩主の墓を祀る廟所もあり、寺の景観を高める上
に、マツ特有の風致をもつアカマツ、コナラ林の分布する寺の周辺の山が、借
景的役目を果たしていることをみのがしてはならない。
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