32(三里浜砂丘)三里浜砂丘川西地区−−-5万分の1地形図【福井】−−−−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔景 観〕

32 三里浜砂丘川西地区                 [⇒位置図]

〔概 要〕
 丹生山地北部の山麓には、洪積世の海成中位段丘があり、その海岸沿い三里
浜砂丘(横列砂丘)が分布する。この砂丘は新旧2つの砂丘からなり、特に新
砂丘がこの近くでは発達する。砂丘内側はまだ低湿な状態を残している。
 この地区では、臨海工業地帯の造成により、砂丘地の面積が極めて減少した
が、コウボウムギ−ハマニガナ群集、ケカモノハシ−オニシバ群落、ハマゴウ
−カワラヨモギ群落及びハマヒルガオ−ハマグルマ群落が帯状群落地を示し、
それらの組成種も多く見られることで、典型的な海岸砂丘地植生帯として、北
陸地方でも代表的であろう。
 福井新港造成過程に生じた20haにも及ぶ広い湛水面と周囲に広がる砂丘や松
林は、特に冬のカモ類をはじめ、年間を通じて種々の鳥類が観察できるまれな
事例である。これは、海岸のため積雪も少なく水面凍結もないこと、トラック
騒音はあっても、距離も遠くて安全な生息環境を有しているためである。一時
的現象であるが、渡り鳥の生態を知るうえで貴重な経験である。
 昆虫相は、砂丘地帯と防風林の組み合せによる特有の植生のため独特で、極
めて貴重な昆虫が生息し、特にハチ類は豊富である。
 三里浜砂丘海岸の大部分は、臨海工業地帯として埋立造成中であるが、鷹巣
川以南はクロマツの防風林を背後に砂丘海岸が展開する。また、工業地帯の内
側砂丘地帯ではラッキョウ畑が広がり、その花は当地の風物詩となっている。


〔地形・地質〕
 この地区は丹生山地の北端部であり、更新世後期の海成中位段丘が広く発達
している。この海成段丘面の一部をうすく被って、海岸沿いには三里浜砂丘(
横列砂丘)がつづく。この砂丘は新旧両砂丘からなり、その最高度は約40mで
ある。旧砂丘は被ふくした新砂丘がうすく、3つの砂丘列をつくる。旧砂丘と
新砂丘の間には黒ズナ(腐食質土壌)層がはさまれており、縄文後期から古墳
時代に及ぶ土器片を出土することがある。黒ズナ層の年代は約3,500〜1,500年
前で、その時期には海岸線がはるか沖合へ後退し、飛砂のない安定した旧砂丘
の表面には、ヨモギ属を主とする草原が広がっていたことが推定できる。
 現在、福井市川尻付近で、新砂丘砂中に市瀬川の河川水を投入して、砂丘地
における地下水人工涵養試験を行っている。米納津〜白方付近では、砂丘地の
開発によって地質断面があらわれ、砂丘構造がよく観察できる貴重な露頭があ
る。


〔植 物〕
 三里浜は、九頭竜川河口の西側に形成された、南北に細長い、全長約12km
、幅約1.5kmの小規模な海岸砂丘である。
 近年までは、海岸線沿いの防砂、防風林を中心に、マツ林を主とした林帯が
形成され、聚落あるいは神社社叢の残存照葉樹林をあわせ、極めてすぐれた自
然景観が構成されていた。
 現在では、福井新港、臨海工業地帯の造設工事が急速に進展することによっ
て、一部既存の林帯の保存は見られるが、企画された地域のほとんどにおいて
、伐採、造成によって、植生の減退、破壊が進行し、近年来の砂丘地農業利用
の進行ともあわさって、すっかり自然景観が変貌されるに到った。従って、海
岸林を主とした基礎自然度も著しく低下した。
 しかし、この三里浜砂丘川西地区に入る砂丘地では、現在なおマツ林及び海
岸砂丘地植物群落が残存され、すぐれた植生帯とそれらによる相観が保持され
ている。
 汀線に近いところでは、コウボウムギ、ケカモノハシ、ハマニガナや
オニシバなどが優占し、中でも、コウボウムギ−ハマニガナ群落、
ケカモノハシ−オニシバ群落が顕著である。砂防柵の内側には、ハマゴウのほ
ふく枝がひろがり、その周辺に、ハマボツス、ウンラン、ハマグルマ、
コマツナギ、ハマベノギク、ハマボウフウ、カワラヨモギ、ハマヒルガオ、
ハマハタザオ、ハマエンドウ、ハマダイコン、ビロウドテンツキ、
スナビキソウなどが分布する。それらの中で、特に、ハマゴウ−カワラヨモギ
群落、ハマヒルガオ−ハマグルマ群落が顕著である。
 それらの内側には、ニセアカシアの低木砂防帯があり、クロマツ防風林に続
く。
 クロマツ林の林間、林床は、人手が入ってかなり不安定になっている部分も
あるが、広い面積にわたって、林間にアキグミ、トベラ、マサキ、シロダモ、
林床にはオオウシノケグサ、ヒメヤブラン、ジャノヒゲ、ヤブコウジなどが優
占して、多少部分的であるがクロマツ−トベラ−オオウシノケグサ−ハイゴケ
群落が顕著に見られる。
 臨海工業地帯を中心に、現在緑地緩衝帯が造成され、それらの成長が順調に
進展されていることから、今後、幾分かは自然度の上昇の可能性があると考え
られるが、少なくとも企業各自において、三里浜全体の自然環境保全に対して
配慮しながら、それぞれの立地における緑化計画を進めるべきである。


〔鳥 獣〕
 福井新港造成過程に生じた20haにも及ぶ広い湛水面と、周囲に広がる砂丘や
松林は、一時的ではあるが特に冬のカモ類をはじめ、年間を通じて種々の鳥類
が観察できるまれな事例である。
 カモ類の越冬は3万羽にも達し、日本産カモ類30種の中24種を数え、
アカツクシガモ、ツクシガモ、アメリカヒドリは個体数が少なく県内初認で、
初認種はこの他にも多く、クロツラヘラサギ、コクガン、インドガン、
ユキホオジロ等16種に達し、全国的にも例の少ないものもある。植物連鎖の頂
点にいるワシタカ科が15種におよんでいることも県内では稀なことで、
オジロワシ、オオワシは翼開長2mもある大型鳥である。
 冬鳥であるホオジロハクセキレイの残留繁殖の他、セグロセキレイ、
チゴモズ、アカモズの繁殖もあり、水辺に棲むカイツブリ、ミズナギドリ、ウ
類、ガン類、チドリ類、シギ類、カモメ類の他森林性鳥類の観察も多く204種
にもおよんでいる。これは全国の有数なサンクチュアリの観察例よりも極めて
優れている。篭抜けのフラミンゴ、ジュウシマツ、セキセイインコまでもが住
み、従来は数日間しか滞在しなかったコハクチョウが越冬するようにもなった
。
 海岸のため積雪も少なく、水面凍結もないこと、トラック騒音はあっても距
離も遠くて安全な生息環境を有していることによるものである。


〔昆 虫〕
 海岸砂丘地帯と、それに平行する防風林帯との組合わせによる特殊な自然環
境であるため、そこに生息する昆虫相も特異で、海浜性昆虫群集と砂地穿孔性
昆虫の豊富さは、県下にほかに類をみない。特に地中造巣性蜂類は、個体数も
種数も多く、中でも大形美麗種で全国的にも極めて稀な
キアシハナダカバチモドキの多数個体からなるコロニーの存在と、
サクラトゲアナバチの多産は特記に価する。後者は、埼玉・石川両県からの記
録があるが絶滅した恐れがあり、現在確実な生息が認められるのは2種とも、
日本で三里浜だけである。また、ハカタアリバチは全国で唯一の生息地である
。そのほか、フクイアナバチ、キンモウアナバチ、ニッポンハナダカバチ、
スナハキバチ、ミドリセイボウなど注目すべきハチ類の種が多く、
ベッコウバチ類も多い。甲虫類ではカワラハンミョウ、
スナグムリヒョウタンゾウムシ、ハマヒョウタンゴミムシダマシ、
オオマルスナゴミムシダマシなど砂地に特異的に生息するものが多数認められ
、最後の種は県下唯一の産地である。バッタ類やハサミムシ類も砂地性のもの
が多い。
 以上のように、学術上貴重なものを多く産するだけでなく、砂丘性昆虫、海
浜性昆虫等の生態観察の場として、研究上、教育上重要であるが、年とともに
生態系はかなり大きく変化しつつある。三里浜の北部が、臨海工業地帯として
はほとんど完全に自然度を失っているだけに、是非とも保全しなければならな
い。


〔景 観〕
 火力発電所のある新保より、白方、川尻、大窪と続く三里浜は、福井臨港の
造成のために、10km余にわたる単調な渚をもつ砂浜の大部分は消滅したが、
その背後は、丘陵性の一大砂丘で、その丘陵には防風林として植えられた
クロマツ林が、自然条件下において、自然林の如くに茂り、また丹生山地より
川尻付近までの砂丘には、アカマツの自然林の巨木も多く分布していて、頗る
風致に富んだ砂丘の続く海岸風景となっている。
 日本海でも数少ない丘陵性の砂丘海岸で、貴重な景観である。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−end−−-