30(福井平野)九頭竜川河口地区−−-5万分の1地形図【三国】−−−−−−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔陸水生物〕〔景 観〕

30 九頭竜川河口地区                         [⇒位置図]

〔概 要〕
 この地区は、極めて低平な三角州低地で、対岸には三里浜砂丘が拡がってい
る。地表直下には、沖積層最上部泥層(陸水成)があり、三角州頂置層に相当
する。
 植生では、三里浜東端部のトベラ−クロマツ群集、河口地区平野の社叢林に
おけるイノダ−タブノキ群集及び、ヤブコウジ−スダジイ群集が優占する照葉
樹林の被覆は著しく、日本海地域における北東部限界域の生態系として貴重で
ある。
 また、天然記念物オオヒシクイの水面採餌及び、休息地として貴重な地区で
ある。新保橋から下野のかけての岸辺が採餌地となっており、木部小学校南方
の水田一画が、きめられた休息地となっている。
 昆虫相は、貧弱で特に見るべきものではないが、三国港で
ヨコヅナツチカメムシの採集記録は注目すべきものである。
 九頭竜川の河口域を含むこの流域は、河川の汽水域における生物群集として
注目される所である。魚類は、淡水性、汽水性、沿海性のもの全部で27種が生
息する。天然記念物のカマキリ(アラレガコ)は11月頃降河し、河口付近の沿
岸帯で産卵するものと思われる。
 川幅が広く、ゆるやかに流れる河口部の九頭竜川は、一部で水郷的な風情を
漂わせている。


〔地形・地質〕
 この地区は、きわめて低平な三角州低地で、西側対岸には三里浜砂丘(海岸
砂丘)がのびる。この低地直下には、沖積層最上部泥層(陸水成)があり、現
海面に対応する三角州の頂置層(層厚約5m)に相当する。九頭竜川の最下流
は、河床勾配もゆるく感潮河川で、河口部の一部には泥質の分布がみとめられ
る。


〔植 物〕
 九頭竜川河口付近で、福井平野の西隅として水田がひろがること、更に、三
里浜砂丘の東側突端部を中心に、福井新港及び臨海工業地の造成による自然環
境の変動に伴って、基礎自然度が著しく低くなっている。
 しかし、三里浜の東端、新保海岸及び河口部付近には、緩衝緑地帯として残
存された海岸防風林、特にクロマツ林の典型的な自然林組成を示す林帯が分布
している。
 それらの林叢では、人為的な影響が少なく、階層やよく発達した豊富な植相
が見られる。それらの中で、九頭竜川の西岸沿いの林相では、林間にトベラ、
マサキ、イボタノキ、スダジイ、アキグミ、林床には、オオウシノケグサ、
ハイゴケ、ジャノヒゲ、ヤブコウジなどが均質に分布、優占する安定した
クロマツ−トベラ−オオウシノケグサ群集が見られる。この林相は、トベラ−
クロマツ群集(トベラ、マサキ、イボタノキ、オオウシノケグサを標徴種とす
る)の典型的林相である。
 現在、福井県の海岸クロマツ林の極相林は、わずかに敦賀半島、三里浜海岸
及び若狭和田海岸のごく一部にのみ残存しているに過ぎず、それらの中でも、
最も代表的な組成を持つものとして、生態地理学的に極めて貴重である。
 この地区は、潜在的には顕著な照葉樹林帯が優占するヤブツバキクラス域で
あり、それらの典型的な組成を持つイノデ−タブノキ群集、あるいは
ヤブコウジ−スダジイ群集組成の林叢が残存する。
 特に、楽円の神明神社の社叢には、林床にオモトの自生が見られるイノデ−
タブノキ群集の典型林相が残存している。
 最近、工場立地等の開発が進行することによって、それらの林相の変動ある
いは衰退がかなり著しくなっており、特に周辺の植生及び環境が著しく変動し
ていることから、それらの保全は極めて困難であると考えられるが、早急に典
型林叢分布域を明確にすることによって、保全に努めるべきであろう。また、
道路の改修等土地造成の方法については、それらの林叢を破壊しないように計
画すべきであろう。
 なお、河口部付近、特に九頭竜川西岸沿いに、緑地帯を造成することが望ま
れる。


〔鳥 獣〕
 天然記念物オオヒシクイの水面採餌および休息地として貴重な区域である。
新保橋から下野にかけての岸辺が採餌地となっており、木部小学校南方の水田
一画がきめられた休息地となっている。その数は300羽にもおよび、全国総数
から見て、この数は多い方である。石川県片野と往復しており、夜間採餌から
一旦水田で休み、片野に戻るパターンであるが、安全性に伴い休息時間は長く
なっているようである。
 九頭竜川のマコモ、ヨシ等の食草によるもので、これが失われると往来もな
くなると思われる。


〔昆 虫〕
 開発が著しく進み、昆虫相は貧弱で特に見るべきものがないが、三国港で
ヨコヅナツチカメムシの採集記録は注目すべきで、福井市と長畝の古い記録以
外では、三国と名田庄で採れただけである。


〔陸水生物〕
 九頭竜川の河口部では、河床が著しく幅広くなり、表層土は粘土層が厚くな
り広がっている。汽水域は比較的長く、河口から上流約10kmに及ぶ。九頭竜
川は本県最大の河川であり、下流部に形成される汽水域の生態系として重要で
ある。
 (魚類)
 淡水性魚類(フナ、コイなど)や汽水性魚類(クルメサヨリなど)、沿海性
魚類(サヨリ、ボラ、スズキなど)を含めて27種が生息する。また、天然記念
物カマキリ(アラレガコ)の産卵域と推定されている。
 (水生及び湿生植物)
 河口付近ではほとんどヨシによって優占され、組成的には
アメリカセンダングサ−ヨシ群集として識別される河川植生の安定帯をみる。
近年、九頭竜川、特に下流部において富栄養化、汚濁化の傾向がみられるよう
であるが、それらの最も顕著な指標として、このヨシ群落の侵入が考えられ、
今後の保全対策が望まれる。


〔景 観〕
 九頭竜川の河口に面し、背後に陣ヶ岡の丘陵を負う三国町の景観は、人文景
観的要素が多いが、古くからこの河口を利用した日本有数の港として栄えた町
で、船の繋留、河岸の倉庫、人家、社寺に至るまでも、人々の生活風景は、河
口の自然と融和していて、どこをみても古い港町らしい風土的情緒性がみられ
る景観の町である。
 また、この風土的情緒性は、それが素地となって、しばしば文学上の舞台と
もなって取り上げられている如く、この町の景観には文学的情趣もみられる。
 九頭竜川は、川幅広くゆるやかで、川崎、下野荒井付近における風景は、水
郷的な情緒のただよいが感じられる景観である。
 西岸は三里浜砂丘の一部で、そこに風致を添えているクロマツ林は、防風林
として植林されたものが、自然条件下においてあたかも自然林の如くなったも
ので、風致に富み、砂丘と共に貴重な自然景観である。
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