29(越前中央山地)五箇地区−−−-5万分の1地形図【大野】−−−−−−−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔爬虫類等〕〔景 観〕

 29 五箇地区                            [⇒位置図]    

〔概 要〕
 この地区は、越前中央山地の南西部に当り、河谷及び山稜が共に北西方向に
延びている。一般に表層の風化は進んでおり、中新世前期の糸生累層が広く分
布している。河谷には幅の広い谷底低地が発達し、山麓線は複雑である。
 植生では大滝神社社叢に見られるスギ−シロダモ−ヒメアオキ群落の優占は
、生態地理学的に、特にスギ林の成因に重要な特徴を示す。
 また、この社叢林は、シジュウカラ、エナガ、イカルなどの森林鳥、
ブッポウソウ、キビタキ、ヤブサメなどの夏鳥の生息及び繁殖に、少なくなっ
た原生林として貴重である。
 両生、爬虫、貝類では、大滝神社社叢林の他、月尾川や水田等水環境も良く
、更に集落など生息環境は多様で、それぞれにとり好ましい地区である。


〔地形・地質〕
 この地区は越前中央山地の南西部に位置し、全体として河谷及び山稜が共に
北西方向を示す。海抜300m内外の山稜の形態からみて、晩壮年期的様相を呈
し、一般に表層の風化も進んでいる。また河谷地形は平衡斜面(山腹)と幅の
広い谷底低地からなっている。
 地質はすべて中新世前期の糸生累層が分布し、安山岩質溶岩および火山砕屑
岩から構成され、一部に基盤である古第三紀の西谷流紋岩が露出することから
みて、付近の先中新統の基盤は意外に浅いことが判る。


〔植 物〕
 今立町五箇の権現山(327m)を中心とする低山地であり、多雪地である。
 この地区には、山麓地区に重厚なスギ植林地が分布し、その上部にクリ−
コナラ林がひろがる。
 特に大滝神社の社叢には、それらの代表的な林分であるスギ林が見られ、林
間にはシロダモ、ヒメアオキが優占して、スギ−シロダモ−ヒメアオキ群落が
抽出される。組成的に均質で安定した林相を呈し、周辺において伐採が進行さ
れていることから、今後は、この林相の保全に努めるべきであろう。特に、
シロダモが林間に優占する林相は生態地理学的に貴重である。


〔鳥 獣〕
 この地区は林業地帯であるが、大滝神社奥の院の社叢林は、林床の開けた
ブナ原生林で野鳥の生息には優れた環境である。
 シジュウカラ、エナガ、イカル、カケスの森林鳥や、谷筋繁殖のミソサザイ
、樹洞繁殖のコゲラ、アオゲラ、アカゲラ、および夏鳥のブッポウソウ、
キビタキ、ヤブサメ、オオルリを見る。
 全般的にはヒヨドリ、ホオジロの優占する地区であるが、少なくなった原生
林として夏鳥の生息および繁殖にとって貴重な社叢林である。


〔爬虫類等〕
 両生類では普通種が多い中で、タゴガエル、モリアオガエルが目立っていた
。爬虫類では植生が豊かなためか、種類個体数共に多く、ヤマカガシ、マムシ
がわけても多く見受けられた。
 貝類では、夏緑広葉樹林が安定しているためか、ベッコウマイマイの類の種
類数、個体数が多い。山麓にはホソオカチョウジガイ、モノアラガイ、
コウラナメクジ等の移入種が顕著であった。


〔景 観〕
 和紙の里として知られている五箇集落と月尾谷の間の山地は、スギの植林が
よくすすめられ、しかもその大部分が成林で、針葉樹林特有の緑濃い美しい山
林景観である。
 大滝神社の境内には、数百年の年歴を経たとみられるスギの巨木が、数多く
生い茂り、森厳な趣の神域らしいみごとな社叢景観を形成している。
 その背後の海抜300mに近い山上には、川上御前を祀る奥の院があるが、そ
の参道一帯の斜面には、クリ、コナラ林、ミズナラ林等夏緑広葉樹の自然林が
茂り、山頂付近には、僅かではあるがブナの原生林もあって、海抜が比較的低
いにもかかわらず、高い山においてみられる林相が、しかも原生自然に近い姿
のもとにみられることは、貴重な林相景観であると云うことが出来る。
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