28(越前中央山地)権現山地区−−-5万分の1地形図【大野】−−−−−−−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔景 観〕

28 権現山地区                        [⇒位置図]

〔概 要〕
 この付近の山地は、一部に侵食平坦面がみとめられ、かなりの定高性を示し
ている。権現山の山頂部は、それより一段突出している。この山体を深く侵食
する河谷底には多くの滝ができており、一帯は中新世前期の糸生累層から構成
されている。
 権現山の山頂に分布するミズナラ−ハウチワカエデ−トキワイカリソウ群落
に優占されるクリ−ミズナラ林では、特に、オオバクロモジ−ブナ群集に密接
する標徴種、及び日本海地域固有要素が多く分布し、また全体的に極めて豊富
な植相を持つことが、本県では極めて貴重である。
 柳の滝といわれる谷筋のスギ林には、林床性のキジ、ヤマドリが生息し、滝
の末端に広がる岩壁付近は、オオルリの繁殖地となっている。
 昆虫相は豊富とはいえないが、若干の貴重な種がみられる。
 両生・爬虫・貝類では、若干の水田、社寺の池(両生類の産卵期)及び渓流
、社叢林と良い生態系に恵まれ、それぞれ高密度である。


〔地形・地質〕
 権現山は、今立町内で最も高度が高く、山稜の東にはやや平坦な地形面が認
められ、その高度は海抜500〜600mで越前中央山地の定高性と一致する。この
山体を深く侵食する河谷沿いには、多くの滝が発達する。特に、柳ノ滝(布ヶ
滝)は比高約10m位の美しいものの1つである。厚い塊状の凝灰角礫岩層(糸
生累層)が造瀑層のことが多い。その中に狭まれる凝灰岩中には、しばしば珪
化木を産することで柳地区はよく知られている。この付近一帯は、広く中新世
前期の安山岩質溶岩および、同質凝灰角礫岩で構成される。


〔植 物〕
 水間谷上流域の東側山塊の一角に権現山( 565m)が位置し、山頂から西、
南側斜面を主とする地区である。
 地形的には極めて急峻であり、人手があまり入っておらず、夏緑広葉樹林の
二次林帯が、部分的であるが、基礎自然度の著しく高い値を示すすぐれた自然
環境である。
 森林植生帯としては、山麓から山頂に向かってスギ植林、クリ−コナラ林及
びクリ−ミズナラ林が主林帯を構成し、一部尾根沿いにアカマツ林が介在する
。
 それらの中、特に山頂付近に分布するクリ−ミズナラ林帯には、ブナ、
オヒョウ、シナノキ、ヒトツバカエデ、オオバクロモジ、ハウチワカエデ、
マルバマンサク、アオヤギソウ、ハクウンボク、エゾユズリハ、
マルバアオダモ、チヤボガヤ、キンキマメザクラ、サワグルミ、サンカヨウ、
シノブカグマ、オオカメノキ、コバイケイソウ、ミズバショウ、
オオバシヨリマなど寒地性、日本海地域固有要素が非常に豊富に出現する。そ
れらクリ−ミズナラ林では、林間のハウチワカエデ、林床にトキワイカリソウ
が優占してミズナラ−ハウチワカエデ−トキワイカリソウ群落を呈するが、そ
れらの組成からは、オオバクロモジ−ブナ群集の組成種が顕著で、夏緑広葉樹
林の多雪地域型のすぐれた二次林帯が形成されている。また、その下部山麓に
向かっては、林間にイタヤカエデ、シラカシ、アカシデ、ヤブツバキ、
ダンコウバイ、ヤマウルシ、林床にはトキワイカリソウ、
ニシノホンモンジスゲ、ミスミソウ、オオバイボタ、ヤブレガサ等が優占する
コナラ−ヤブツバキ−トキワイカリソウ群落が形成され、ヤブツバキクラス域
代償林の山地型に入る。
 以上の森林植生は、いずれも階層が発達し、均質で安定した林相を呈する。
また、権現山でミスミソウが見られるのは、本県では若狭の青葉山に顕著に見
られるに過ぎないことから、植物区系地理学的に極めて貴重である。
 この地区の森林生態系としては、クリ−コナラ林帯の分布域、標高300m付
近から上部、山頂にわたる地域の保全について、今後充分検討すべきであろう
。


〔鳥 獣〕
 この地は、往時からの林業地帯であり、スギ成林が分布している。柳の滝と
いわれる谷筋はスギ成木の林床が開け林床性のキジ、ヤマドリの生息に適して
いる。滝の末端には岩壁が広がり、一部に水流もありオオルリの繁殖適地でヒ
ナ2羽への給餌を見る。社叢林はモミの大木、クヌギ、カエデ、シデ等が繁茂
し、エナガ、シジュウカラ、ヤマガラ、イカル、カケスの森林鳥を見る。しか
し、全域にわたってヒヨドリ、ホオジロが優占している。夏鳥のキビタキ、
ヤブサメ、クロツグミ、サンコウチョウ等の繁殖可能な生息環境である。


〔昆 虫〕
 全体的に植林が進んでおり、自然林が残されているのは小範囲である。その
ため、昆虫相は豊富とはいえないが、なかには全県的にみても思いがけない貴
重な種が確認されている。早春には、ギフチョウ、コツバメ、ミヤマセセリな
どの春を代表する蝶が多く見られ、ツマキチョウも山麓にかなりいる。甲虫で
は、シナノキチビタマムシ、タカハシトゲゾウムシ、クロルリゴミムシダマシ
が採集されたことは特記すべきことで、そのほか、注目すべき甲虫として
コルリクワガタ、クチキクシヒゲムシ、ワモンナガハムシなどがあげられる。
蜂類は、全体的には多くないが、春季にハナバチ類が山麓を中心にかなり多く
、フクイキマダラハナバチ、ハリマキマダラハナバチ、
ギンランキマダラハナバチ、タイチョウキマダラハナバチ、
アスワキマダラハナバチ、シラキキマダラハナバチなど、キマダラハナバチが
豊富で、また、クロバネセイボウ、オオセイボウ、ミドリセイボウ、
ミカドジカバチの生息は注目に価する。


〔爬虫類等〕
 両生類、爬虫類では県内生息種の大半がこの地区に生息する。両生類の
サンショウウオ目では、ヒダサンショウウオ、ハコネサンショウウオ、イモリ
の多生息地であり、特にハコネサンショウウオがかなり低山地に見られること
は本県ではあまり例がない。カエル目ではモリアオガエル、カジカガエルの高
密度生息地であることに注意したい。爬虫類では、特殊な種は別として一般的
な種は一通り生息している。
 貝類では、県内陸産貝類の約2分の1を、この地区で占めていることを今回
の調査で確認することができた。低山地ではあるがクロイワマイマイを確認し
た。ヒダリマキマイマイの生息密度が高く、イセノナミマイマイ(関東平野)
の飛分布であることも興味深い。


〔景 観〕
 布滝をはじめ、大小幾つかの滝の続く渓流をもつ権現山は、海抜 500m余の
低い山であるが、その東につづく背後の山地は次第に高く、700m近い山にな
っている。北側及び西側斜面の谷地形には、スギの植林地がかなり分布してい
るが、全般的にはクリ、コナラ林を主とする落葉広葉樹林で、山頂付近には僅
かではあるがブナ、ミズナラ林も分布していて、海抜の低い割合いには人手が
入っておらず、原生林に近いしかも豊かな林相景観を呈している。
 柳の谷の渓流は、水量は多くはないが、布滝をはじめ大小幾つもの滝がかか
っていて、風致に富む渓谷美がつくられている。
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