27(越前中央山地)文殊山地区−−-5万分の1地形図【鯖江】−−−−−−−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔景 観〕

27 文殊山地区                               [⇒位置図]

〔概 要〕
 文殊山は、武生盆地の北東端に位置する低山地で、山麓部には先新第三紀の
基盤がみられる。山体は、その上位に重なる中新世前期の糸生累層から構成さ
れる。
 植生は、標高300m付近に、アカシデ−ホツツジ−ニシノホンモンジスゲ群
落、ミズナラ−ナツツバキ−チゴユリ群落、アカマツ−ホツツジ−シシガシラ
群落など、代償林型として県内で少ない林相が分布していること、渓谷沿いに
極めて層の厚いスギ−コアジサイ−イノコズチ群落が分布しているのは貴重で
ある。
 この地区の鳥獣は、面積に比して種類数は多い方であるが、個体数は少ない
。環境としてはよい方であろう。
 昆虫相は、市街地に近い低山で、植林地が多いわりには豊富で、特に甲虫類
には数多くの珍稀数が採集されており、自然観察地として優れている。


〔地形・地質〕
 この地区は、越前中央山地が武生盆地の北東端付近に位置し、山体を構成す
る火山性岩石の複雑な岩相分布を反映して、その侵食地形も不規則である。盆
地よりの山脚部には、古第三紀の帯紫色を呈する西谷流紋岩類が露出しており
、その上位を厚く被ふくする中新世前期の糸生累層を構成する安山岩質溶岩お
よび同質火砕岩類が分布する。
 この山頂付近から遠望した福武低地(平野部)の景観はきわめて良い。


〔植 物〕
 文殊山(365m)を中心とし、主にその東側地域の水田及び集落からなる地
区である。
 文殊山では、かなり森林が分布し基礎自然度はやや高い値を示すが、周辺部
では低い値になっている。
 文殊山の山麓から山頂まで、植林が進められており、スギ林及びヒノキ林が
その主なものである。自然林は、極く狭い範囲になっており、わずかに
アカシデ林、ミズナラ林及びアカマツ林など、代償林が分布しているだけであ
る。 二次林化の著しいアカシデ林では、低木層にオオバクロモジ、ホツツジ
、ヒサカキ、マルバアオダモ、コバノガマズミ、サワフタギ、林床に
トキワイカリソウ、ニシノホンモンジスゲ、ツルアリドオシ、キツコウハグマ
が優占して、全体的にはアカシデ−ホツツジ−ニシノホンモンジスゲ群落にま
とめられる。
 また、標高360m付近の社叢林として、顕著な代償林としてのクリ−
ミズナラ林が分布している。それらの林間には、ヒサカキ、ナツツバキ、
ツリバナ、オオバクロモジ、マルバアオダモ、ダンコウバイ、林床には
チゴユリ、トキワイカリソウ、アクシバ、ツクバネウツギなどが優占して、全
体としてはミズナラ−ナツツバキ−チゴユリ群落にまとめられる。
 文殊山の西側斜面の尾根沿いの一部に、かなり顕著なアカマツ林叢が分布し
ている。それらの林間には、オオバクロモジ、マルバマンサク、アオハダ、
コシアブラ、ヤマツツジ、ウワミズザクラ、イタヤカエデ、ウリハダカエデ、
ホツツジ、ヒサカキなど、林床ではシシガシラ、アキノキリンソウ、
キツコウハグマ、シュンラン、ヤブコウジなどが優占して、全体的にアカマツ
−ホツツジ−シシガシラ群落にまとめられる。組成的にはやや不安定で、クリ
−ミズナラ林への共通性も見られ、多雪型の群落型に近似する。
 文殊山のスギ林は、極めて広範囲にわたって分布し、人手が入り組成的には
不安定であるが、林間にコシアブラ、ホツツジ、コアジサイが部分的に優占し
、林床ではイノコズチ、ドクダミ、カラムシが優占して、全体的にスギ−
コアジサイ−イノコズチ群落にまとめられる。
 近年、人為的及び自然災害、特に雪害などによって、かなり林相の衰退傾向
が見られ、今後殊にスギ林のすぐれた相観保持のためにも、林相及び立地条件
に関する研究が必要であろう。


〔鳥 獣〕
 スギ林がよく生育しているが、登山道上部、社叢林から頂上にかけての稜線
付近は夏緑広葉樹林が残る生息環境を呈している。
 全般的にヒヨドリが優占するが、シジュウカラの生息数も多く、アオゲラ、
コゲラ、ホオジロ、メジロ、ウグイスなどが見られる。アオバトは数少ない種
である。谷筋のスギ林はサンコウチョウの適地を示し、森林性のキビタキ、
クロツグミ、サンショウクイ、サシバなどの夏鳥も見られ、面積に比して種類
数は多い方であるが個体数は少ない。環境としてはよい方である。


〔昆 虫〕
 福井・鯖江の市街地に近い低山丘陵で、面積の大部分がスギの植林地である
が、かなりの自然植生が残され、昆虫相は豊富である。蝶類は特に、珍稀な種
は分布しないが、個体数・種数ともに多く見られる。トンボ類では
サラサヤンマが記録され、オオカワトンボは県下では数少ない生息地の1つと
なっている。甲虫類は、低山地としてはその種類数が頗る豊富で、多くの珍稀
種が記録され、枚挙にいとまない。そのいくつかを例示すれば、
オオムツボシタマムシは県下で2頭目で分布北限記録。
モンシロハネカクシダマシは県下唯一で分布北限。ムネスジキスイムシ(県下
唯一産地)、イトヒゲニセマキムシ、オオナガキスイムシ、ネスイムシの1種
 Europs temporis などは全国的にも数例の記録しかないもの、そのほか、
アラキヒメテントウ、ナガヒメテントウ、ヒラタキノコゴミムシダマシ、
ツマグロチビオオキノコ、サビマダラオオホソカタムシ、
ハイイロツツクビカミキリ、アカヘリテントウなど 注目すべき甲虫が多い。
ハチ類では、ムロタキマダラハナバチは模式産地で、他に全く記録がなく、珍
種フクイアナバチや山地性のミカドジガバチが記録され、山麓では暖地性の
ミドリセイボウが採れている。また、山麓の集落周辺はかつては セイボウ類
の宝庫とされていたが現在では少なくなった。系統学上・分布上貴重な昆虫で
あるヨロイカマアシムシの模式産地である。暖地性のオオゴキブリも少なくな
く、分布北進の例として注目されるヨコヅナサシガメが山麓で採集され、また
、付近にはゲンジボタルも生息する。近年、麓の集落から頂上まで遊歩道が整
備されたが、旧来の道の位置につけられたことと、一般車輌の通行ができない
ため、それほど自然破壊とはなっていない。むしろ、児童・生徒や一般市民の
自然観察に便利となった。都会からの交通の便もよく、少なくとも昆虫相から
見た場合、自然度も高く、道程規模も適当なので、自然観察の場として、また
学術上秀れた地区であるので、現状の自然環境を維持・保全する施策が必要で
ある。


〔景 観〕
 文殊山は、海抜 350m余の低い山であるが、福井平野の水田の端に聳えたつ
山容は、急峻で個性的な美しさをもつ。全山、特に西斜面の地形にはスギの植
林がよくなされていて、欝蒼と茂っている。山頂付近ではクリ、コナラ林、
アカマツ林の自然林もあって、山の景観に風致を添えている。
 古くからこの山は、越知山、蔵王山らと共に、山岳宗教上の霊山として、越
前五山の一つに数えられてきた山で、山頂には文殊菩薩や正観音菩薩らの諸像
を安置する室堂や奥ノ院の諸堂が遺存しており、北山麓の大村には、成就院を
はじめ、多くの塔頭を擁していた真言宗樗厳寺があるが、これらはその遺跡で
あり、また山頂に通ずる道は、かつて修験者達の登拝した道で、この自然景観
には宗教的情緒のただよいがみられる。
 なお、文殊山は手近な野外レクリエーションの場として市民に親しまれてい
る。
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