26(越前中央山地)一乗城山周辺地区−-5万分の1地形図【大野】【永平寺】-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

26 一乗城山周辺地区                         [⇒位置図]

〔概 要〕
 この地区は、越前中央山地内を流れる一乗谷川に沿って、狭長な谷底低地が
分布し、その支谷の渓口部には小扇状地が発達している。この付近一帯は中新
世前期の糸生累層が広く分布している。
 植生は、史蹟をとりまく山地森林生態系として、均質で安定した組成を持つ
代償林が規則的に分布している。それらの中、特にアカマツ−ホツツジ−
ショウジョウバカマ群落の典型林相、オオバクロモジ−ブナ群集代償林
ミズナラ林の安定した林相は生態地理学的に貴重である。南限要素である
カメバヒキオコシが分布し、また日本海地域固有要素が多いことは、区系地理
学的に貴重であり、また、史蹟を取りまく自然環境として重要である。
 一乗城山ではニホンリス、砥山ではニホンツキノワグマが確認され、また、
留鳥、夏鳥、冬鳥など個体数も多く、全体的によい環境である。
 昆虫相は、それほど豊かとはいえないが、低山帯にしては甲虫やハチ類に貴
重な種の記録がある。
 両生・爬虫・貝類では、朝倉遺跡整備のため大規模な発掘調査が行われたこ
とで影響を受けたことは否めないが、遺跡以外の環境の破壊は少なく、各分野
共かなり豊かである。
 一乗城山(435.8m)、白椿山(720m)、一乗山(740.9m)、砥山(465.2
m)等一乗谷を囲む周辺山地は、山麓及び谷部にスギ林が分布するが、山腹上
部は夏緑広葉樹林に覆われ、朝倉遺跡を中心とする歴史的環境として比較的良
好な自然景観が保たれている。


〔地形・地質〕
 この地区は、海抜300〜500mの越前中央山地の北西部に位置し、その中を一
乗谷川がほぼ南北に流下する。この河川の両岸には狭長な谷底が発達しており
、その上に朝倉遺蹟がある。
 この遺蹟付近では、一乗谷川に注ぐ小支谷の渓口部に小扇状地(押し出し)
が多く発達する。付近一帯は中新世前期の糸生累層が分布し、安山岩質溶岩お
よび火山砕層岩類から構成される。


〔植 物〕
 この地区は、足羽川の支流一乗谷川沿いを南北方向に狭陵に入りこむ平野部
に向かって、東側から一乗城山を山頂として西側方向におりる山地斜面と、西
側から東側方向におりる低山地を含む一帯である。その南側には、すぐれた景
観を構成する一乗滝をひかえ、また、一乗谷川沿いの広い面積にわたって、史
上極めて重要な朝倉史蹟をあわせ、全体的に極めてすぐれた自然環境が構成さ
れる。
 この地区における森林植生帯は、大部分が夏緑広葉樹林の二次林帯によって
占められ、尾根沿いの、特に一乗城山の山頂付近には、日本海型ブナ林相、特
にオオバクロモジ−ブナ群集のツルシキミ型林床を持つクリ−ミズナラ林が優
占し、その下限域付近のややゆるやかな斜面に、比較的安定した組成を持つ
イヌシデ−チゴユリ群落が分布する。そして、山頂付近から東側及び西側に急
峻な斜面には、ヤブツバキクラスの代償林であるクリ−コナラ林、組成的には
ヤマツツジ−コナラ群集型の安定した林相が、かなり広範囲にわたって成林し
ている。殊に、それらの山麓部林叢では、潜在的にはヤブコウジ−スダジイ群
集の標徴種がかなり現存して、かなり若令のクリ−コナラ林帯がひろがって注
目される。
 このクリ−コナラ帯の上部尾根沿いには、クリ−ミズナラ林の下限域を中心
に、組成的に安定したアカマツ林が、比較的狭い範囲であるが分布している。
全体的には、アカマツ−ホツツジ−ショウジョウバカマ群落として識別され、
一応ヤマツツジ−アカマツ群集の山地型自然林に近い。
 また、風地区の八幡神社社叢には、組成的には安定していないが、林冠が顕
著に優占するウラジロガシ林が分布する。これは、夏緑広葉樹林と照葉樹林と
の中間林帯として、生態地理学的に貴重である。
 蛇谷を中心とする渓谷沿いには、広範囲にわたっって樹幹密度の高い典型的
なスギ植林帯が構成されている。
 それらのスギ植林の組成は、比較的安定しているが、中でも林間にウリノキ
が優占し、林床にはミヤマイラクサが顕著に優占するスギ−ウリノキ−
ミヤマイラクサ群落は、本県におけるスギ林相の代表的なものとして、生態地
理学的に極めて貴重である。
 また、一乗滝を中心として、渓側沿いには冷湿環境に特有な蘚苔類及び、
シダ類の群落が優占する特有な植物生態系が形成されている。
 全体的に、極めて安定した多種類の二次林帯が構成されて、基礎自然度も高
い値を示し、それらの林間及び林床には、特に日本海地域固有種が多く分布し
ている。
 それらの要素の中には、南限分布要素としてのカメバヒキオコシが高密度に
分布しており、ウラジロヨウラク、タムシバ、タニウツギ、マルバマンサク、
ケナシヤブデマリ、エゾユズリハ、ツルシキミ、ヒメモチ、ヒメアオキ、
キンキマメザクラ、サイゴクミツバツツジ、ハイイヌガヤ、ツノハシバミ、
スミレサイレン、ニシノホンモンジスゲ、ホクリクネコノメソウ、
クルマバハグマ、ムラサキマユミ、カガノアザミ、オオタキツボスミレ等日本
海地域固有要素が極めて多い。また、暖地性要素として、シロダモ、
オオバイノモトソウ、オオバノハチジョウシダ、サイゴクイノデ、クマワラビ
、ヤブツバキやサカキ等の分布も重要である。


〔鳥 獣〕
 一乗城山南面は、スギ林がよく育っているが、本丸〜三の丸〜阿波賀にかけ
ては、アカマツ、コナラ、クヌギの成木が続き、よい林相を示している。白椿
山にかけては中腹以上、金谷トンネルの上部、一乗山の広い範囲に夏緑広葉樹
林が残っているが、滝より砥山に至る斜面は、スギ林などの生息環境で本丸道
混交林ではトラツグミ、ヤマドリ、コゲラ、キジバトの繁殖を確認する。全般
的にヒヨドリ優占の他、ホオジロ、ヤマガラ、シジュウカラ、エナガ、ヒガラ
、メジロ、イカル、ウソ、カケス、アオゲラ、ウグイスの留鳥、オオルリ、
キビタキ、ヤブサメ、サシバ、ハチクマの夏鳥、アオジ、カシラダカ、
ルリビタキ、マヒワの冬鳥を見る。冬鳥は通過性のものであるが、単独行動を
とるルリビタキの個体数も多い方であり、カシラダカ、マヒワでは50〜80羽の
群れをなし、全体的に見てよい環境である。
 一乗城山でニホンリス、砥山でニホンツキノワグマを見る。


〔昆 虫〕
 全般的には、伐採・植林が相当すすんで昆虫相は単調化している。一乗城山
頂上付近は史蹟として自然環境の保護に努めているため、植生は豊かであるが
、昆虫相はあまり豊かではない。しかし、低山帯であるにもかかわらず、山地
性の昆虫や、珍稀種の生息も認められていることは、注目すべきことである。
蝶類は、一乗滝付近や城山尾根道などで多くの個体数が見られるが、特に分布
上注目すべきものは記録されていない。オオムラサキ、クロコムラサキが生息
する。甲虫類では、シナノクロフカリキリ、マメダルマコガネ、
シラホシナガタマムシ、マメヒラタホソカタムシ、チビヒサゴゴミムシダマシ
などが県下では珍しいものとしてあげられる。ハチ類では、山地性の稀種であ
るミヤマキマダラハナバチ、ミヤモトヒメハナバチ、カゲロウギングチバチ、
ミスジアワフキバチなどの記録があり、山麓付近ではキマダラハナバチ類が豊
富で、特に珍稀種イカズチキマダラハナバチの多産は特記に価する。また、暖
地性のマイマイツツハナバチの分布は興味深い。そのほか、山地性の
トガリガガンボモドキを産し、一乗川にはゲンジボタルが生息する。


〔爬虫類等〕
 両生類で特記すべきことは、オオサンショウウオがしばしば一乗谷川で発見
されたことである。自然分布か人為的な生息かをめぐって、種々論じられてい
たが、今次の調査で結着した。それは、昭和30年頃、土地の白井によって数匹
が岐阜県から持ち帰られ、これを一乗谷川に放流したことが、梅田清治(故人
)の証言により明確になった。ヒダサンショウウオの城山での確認、
タゴガエル、カジカガエル、モリアオガエル等多数。
 爬虫類では、タカチホヘビが小林(1980)により確認されたことが最初の発
見であった。ヤマカガシ、アオダイショウ、ヒバカリ等多数で、トカゲ目3種
もすべて確認した。
 貝類では、ヤマタニシ、オオケマイマイ、オオタキコギセル、
ハリマムシオイガイ等の微小貝が多く生息していることが確認された。


〔陸水生物〕
 一乗谷川は、一乗山を水源とし、一乗滝で落水し朝倉史跡の西側を通り、足
羽川に合流する。この水域での特記すべき生物は少ない。
 (藻類)
 付着藻は豊富で、ホメオスリックス、サヤユレモ、オオデユイネラ、
コメツブケイソウ、アクナンテイス、クサビケイソウなどが主なものである。
オオデユイネラは紅藻の一種で、県内での分布地は限られている。
 (水生昆虫類)
 現存量は少ない。山地渓流の特徴種であるクロツツトビケラの存在以外、種
類構成の面でも特に言及することはない。
 (水生及び湿生植物)
 一乗谷川の河床にはツルヨシ群落が優占し、かなり侵入しているが、その他
は、あまり顕著な水生、湿生植物群落はみられない。ただ、一乗城山周辺の平
地、谷筋には地形及び湧水、伏流水による周期的なちょ溜水域が分布し、それ
らには、水生及び湿生植物の群落がみられる。
 水田跡の一部に、水生苔類のフジウロコゴケが史蹟の西側山地の山麓部にみ
られ、また史跡地の所々の水湿地には、ガマ、ヒメガマ、カンガレイ、
アギナシ、ヘラオモダカ、イボクサ、ホシクサ、アゼトウガラシ、オモダカな
どが分布している。
 付近一帯は、最近土地造成による埋め立ての結果著しく変貌したが、潜在的
には水、湿環境として好適な地区であり、今後一乗滝における蘚苔類をはじめ
として、環境保全の観点から検討すべきであろう。
 (魚類)
 特記事項なし。


〔景 観〕
 一乗城山、白椿山、一乗山、砥山等によりつくられている一乗谷は、戦国の
頃、越前の守護朝倉氏が、敏景以来5代 100余年にわたって、占領していたと
ころで、今も城山に空濠が遺存するのをはじめ、その麓には一乗川をはさんで
、館跡、空濠、土塁、武家屋敷跡、庭園などの遺構が、広い地域にわたって遺
存している。
 この地の自然景観は、一木一草に至るまで、歴史と深い関係のある景観とし
て貴重であるので、最も遺構をとどめている城戸ノ内、城山一帯は、国の特別
史跡として指定されている地域である。
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