23(越前中央山地)大仏寺山周辺地区−−-5万分の1地形図【永平寺】−−−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

23 大仏寺山周辺地区                          [⇒位置図]

〔概 要〕
  大仏寺山(807.4m)は、九頭竜川中流の南側にある壮年期的山地に属し、
山地全体は、中新世前期の糸生累層から構成され、構造・岩相共に複雑である
。
 大仏寺山の標高 650m付近から山頂に向けて、標徴種及び日本海地域固有要
素が均質に分布するオオバクロモジ−ブナ群集極相林、また、その下部地域に
は、多雪地区を標徴するミズナラ−マルバマンサク−イワウチワ群落が分布し
て、典型的な夏緑広葉樹林生態系が保存されている。少なくとも、本県におけ
る夏緑林帯としては、生態地理学的に極めて重要である。
 鳥類では、ヒヨドリ、ホオジロ優占の環境であるが、他の留鳥、夏鳥の生息
環境を有するほか、急傾斜地とやや開けた採餌地があって、ワシタカ類の生息
適地がある。 昆虫相は、植林が進み、貧弱で注目すべきものは少ない。
 両生・爬虫・貝類では、大仏寺山、経ヶ岳(上志比村)を主峰とする山地帯
が大部分を占め、水田・小河川・潅漑用水池も所々に散在し、北部は九頭竜川
に接して、多様な環境を形成し、それぞれに適合した環境が存在する。
 陸水生物では、吉峰寺川でムカシトンボの生息が確認された。永平寺川の上
流域には、ジョウモンジシダ−サワグルミ群集によって標徴される渓谷植生帯
が形成されている。


〔地形・地質〕
 この地区は、九頭竜川河谷の南側にある海抜600〜700mの越前中央山地に属
する。この一帯の壮年期的山地は、すべて中新世前期の糸生累層が分布してお
り、安山岩質溶岩と同質火砕岩から構成された火山岩累層で、岩相変化は複雑
である。


〔植 物〕
 越前中央山地の一隅、大仏寺山、仏尾山(826m)、祝山(705.3m)の山地
群が中心となる地区で、東西に走る尾根に、南北にかなり急峻な斜面が構成さ
れている。
 大仏寺山の標高約700m付近から山頂に向っては、ブナ林をはじめとする夏緑
広葉樹林環境が構成され、更に谷筋には、冷湿な峡谷植生環境が形成され、そ
れらの基礎自然度は、中心部では非常に高い値を示すすぐれた地区である。
 植相としては、日本海地域固有要素であるアカミノイヌツゲ、ツルシキミ、
エゾユズリハ、ヒメアオキ、サイゴクミツバツツジ、タニウツギ、ヒメモチ、
スミレサイシン、トキワイカリソウ、キンキマメザクラ、ツノハシバミ、
ケナシヤブデマリ、マルバマンサク、クロバナヒキオコシ、クルマバハグマ、
ムラサキマユミなど豊富に分布し、特に多雪地域要素が多いことが特筆される
。
 この地区の標高 550mまでには、スギ植林、クリ−コナラ林、標高 400m付
近から700m付近までクリ−ミズナラ林、標高650m付近からブナ林への移行が
見られ、山頂付近では、樹令は若いが、林間にマルバマンサク、エゾユズリハ
、タムシバが優占するブナの原生林が残存する。ミズナラ林では、林間に
マルバマンサク、ヤマモミジ、林床にはイワウチワが優占し、多雪型である
ミズナラ−マルバマンサク群落のイワウチワ林床型が優占する。また、クリ−
コナラ林では、林間にヤマモミジ、エノキ、ヒメアオキ、ヤブツバキ、林床に
はオクノカンスゲ、フユイチゴなどが優占して、コナラ−ヤマモミジ−
オクノカンスゲ群落を呈する。
 また、山地南側の渓側には、チドリノキ、ヒトツバカエデ、
クロバナヒキオコシ、カツラ、サワシバ、サワグルミが優占し、中でも
チドリノキが著しく優占する特徴のある峡谷植生を呈し、全体的には、
ジュウモンジシダ−サワグルミ群集に分類される林相であり、日本海側の峡谷
植生の典型であると考えられ、生態地理学的に極めて貴重である。
 この地区は、近くに永平寺をひかえ、宏大な信仰域になっていることから、
現在までスギ植林を含め、本県における代表的な低山地夏緑広葉樹林の生態系
として、極めて貴重な自然環境である。
 近年、吉峰寺側を中心に、伐採が顕著に進められており、それから林帯の組
成変動が著しく、むしろ、不安定な林帯になっているので、今後積極的な保全
策が必要である。
 少なくとも、この地区の標高 500m付近から上部と谷筋の植生帯の保全が必
要であろう。


〔鳥 獣〕
 永平寺より大仏寺山に向かう地域では、混交林も見られるが、剣ヶ岳南面は
植林及び二次林からなり、祝山周辺も林道工事が進み、伐採が広まっている。
経ヶ岳周辺も、スギ成木林と植林地が広範囲に分布し、これら山地のうち残さ
れた夏緑樹林が、鳥獣類の生息地となっている。
 この地区は、ヒヨドリ、ホオジロが優占し、エナガ、ヤマガラ、イカル、
カケス、メジロ、ウグイス、コゲラ、アオゲラの留鳥、夏鳥にサンコウチョウ
、センダイムシクイ、ヤブサメ等が生息している。また、ホトトギス、
ツツドリも生息し、部分的にはすぐれた生息環境を呈している。特に、傾斜の
急な斜面と、開けた採餌地を有する環境は、ワシタカ類のサシバ、ハチクマの
格好の生息地といえる。


〔昆 虫〕
 大仏寺山から経ヶ岳(上志比村)に至る地区で、連続した山塊としてとらえ
ることが出来るが、植林が進んでいて山頂付近や尾根の昆虫相は貧弱である。
山腹・山麓近くでは、普通種ながらかなりの昆虫がみられる。特に大仏寺山の
山腹・山麓ではキマダラハナバチ類が豊富で、また、サッポロジガバチモドキ
のような稀種の生息も確認されている。
 チョウ類は、記録されている種類は少ないが、大仏寺山での
ウラゴマダラシジミ、アカシジミ、ウラクロシジミの記録は注目すべきである
。暖地性傾向の強いツマグロキチョウが永平寺で採集されている。また、大仏
寺山麓でムカシトンボ生息が記録されている。
 甲虫類は貧弱で、注目すべき種としてはセミスジニセリンゴカミキリ、
ツマフタホシテントウがあげられる程度である。


〔爬虫類等〕
 両生類では一般的なものが多いが、ヒダサンショウウオの卵塊と幼生を目視
した。モリアオガエル、シュレーゲルアオガエル、カジカガエル、
ヤマアカガエル等多数を確認した。爬虫類では、イシガメ、トカゲ類等の外に
ヘビ類は一般的なものばかりである。ただ、上志比の竹原におけるシロヘビ(
アオダイショウの白化種)信仰は根強いものがある。貝類では、一般的な種の
生息が多い。人為的なコウラナメクジが生息するが、近年激減してきた。


〔陸水生物〕
 主な水域である永平寺川は、大仏寺山を水源とし、大滝(虎斑滝)となって
落下し、剣ヶ峰沢の水を集めて流下し九頭竜川に合流する。
 永平寺川の上流域は、ジュウモンジシダ−サワグルミ群集によって表徴され
る峡谷植生帯が形成されている。なお、付近の吉峰寺川にはムカシトンボが生
息し、注目される。
 (藻類)
 永平寺の源流域では、コメツブケイソウ、アクナンテイスなど27種の付着藻
が確認された。
 (水生昆虫類)
 永平寺川、吉峰寺川とも、水は清洌で水生昆虫の生息状況もよいが、規模が
小さいため、ヒゲナガカワトビケラの量は少なく、現存量も多くはない。この
2河川とも、山地渓流の特徴種であるクロツツトビケラの生息がみられるほか
、吉峰寺川ではムカシトンボの生息が確認された。
 (水生および湿生植物)
 永平寺境内から大滝までは、比較的急峻な勾配で大仏寺山に向かう渓流をな
す。その渓流沿いの転石表面には、典型的な湿生蘚苔類が高密度に着生し、流
水に露出する転石にコウメバチソウが開化するのをみることができる。また、
渓流沿いには、チドリノキ、サワシバ、タニウツギ、サワグルミ、トチノキ、
カツラ、キブシなどが枝をたれ、水辺の湿地には、ホクリクネコノメソウ、
ウワバミソウ、アカソ、キツリフネソウ、ジュウモンジシダなどが優占して、
ジュウモンジシダ−サワグルミ群集によって表徴される峡谷植生帯が形成され
ている。
 (魚類)特記事項なし


〔景 観〕
 九頭竜川の南側にある海抜600m〜800mの越前中央山地に属する山で、南北
が急峻で東西に長く尾根をつらねる壮年期の如き山容の山である。山麓はクリ
、コナラ林、アカマツ林が分布し、谷地形などにはスギの植林がみられる。海
抜400m位から山はクリ、ミズナラ林が、更に山頂に近い6,700m位から上は
ブナ林が分布していて、自然度の比較的高い貴重な林相を呈している景観の山
である。
 吉峰集落の山にある曹洞宗吉峰寺より、海抜 705.5mの祝山三角点に出て、
それより仙尾山、大仏寺山頂を経て、永平寺に至る約14kmの尾根づたいの道
は、祖跡の道と云われ、僧道元が開いたと伝えられている道で、古くから宗教
関係者の尋ねた道である。このコースよりの展望は、眼下に九頭竜川の河谷や
、越前平野を一望におさめることが出来るもので、すばらしいながめである。
また、宗教上の歴史的自然景観としても、貴重な景観である。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−end−−-