22(大野勝山盆地)九頭竜川中流地区−−-5万分の1地形図【永平寺】−−−-

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

22 九頭竜川中流地区                              [⇒位置図]

〔概 要〕
 九頭竜川の中流部には、広い谷底平野の両山麓側に低位河岸段丘がよく発達
している。その山麓部には飛騨変成岩類が露出し、それを被って中新世前期の
糸生累層が厚く分布している。
 九頭竜川中流部付近では、耕地や集落をのせる中州がかなり顕著に形成され
ており、ナガノカワヤナギ群落、カワラホウユ群落、カワラヨモギ群落、
コマツナギ群落、ツルヨシ群落、ヨモギ群落が帯状に分布し、不安定帯の特徴
がよくあらわれている。本県における河原植物群落の代表的地区である。
 河川敷の砂利原は、夏鳥のコチドリ、草原はキジの繁殖環境である。河岸に
は、オサムシ類がかなり豊富で、マヤサンオサムシ、ヤコンオサムシ、
オオオサムシなどの生息が認められている。
 両生・爬虫・貝類の生息環境としては、非常に多様な地区であり、それぞれ
の生息に適した地区が多いと思われる。
 陸水生物では、九頭竜川の流量が比較的多く、藻類は豊富であるが、ダムか
らの放水量の変化により流量がかなり変化するため、水生昆虫の現存量はあま
り多くない。魚種は上流より多くなり、フナ、コイ、アユなど28種が生息して
いる。また、大型のカマキリ(アラレガコ)が生息し、天然記念物の指定地と
なっている。水生及び湿生植物は、中流域の典型的な構造を示し、学術的に貴
重である。


〔地形・地質〕
 この地区は九頭竜川の中流部に当り、その谷底低地は広く、現河床をはさん
で厚さ5m程度の段丘礫層をのせる低位段丘(立川期)が発達する。特に発坂
付近では左岸に、また浄法寺付近には右岸側に広く分布する。段丘礫はその場
所の現河床と礫種、礫径が類似する。小舟渡、坂東島付近には、山脚部に結晶
質石灰岩を含む飛騨変成岩類がみられ、それを被って中新世前期の安山岩質溶
岩および同質凝灰角礫岩が厚く発達し、両側の山地を構成する。


〔植 物〕
 九頭竜川中流付近で、中州がかなり顕著に形成されており、川原植物群落帯
の中で不安定な植生が分布している。
 それらの群落帯には、礫地(巨礫20%、大礫50%、中礫30%)の部分には、
ナガバカワヤナギ群落、中央部の砂礫地(大礫50%、中礫30%、砂土20%)の
部分には、カワラホウコ群落、カワラヨモギ群落、コマツナギ群落、そして、
水辺に近い砂土の部分には、ツルヨシ群落、乾燥した部分にはヨモギ群落が形
成されている。
 それらの群落帯は、中流部から上流部の下部付近まで非常に典型的な川原植
物群落が形成されている。
 中流部付近の山地は、川辺からかなり離れており、その中間部には、かなり
広範囲にわたって水田地帯がひろがる。山地の山麓部には、組成的にはやや不
安定であるが、クリ−コナラ林及びスギ植林帯が構成される。
 この地区の自然環境としては、明確な群落帯が形成される中州の生態系が保
存されるよう検討されるべきであろう。


〔鳥 獣〕
 河川敷の砂利原では夏鳥コチドリ、草原ではキジ繁殖の環境である。サギ類
、ムクドリの採餌はあるものの、特異な繁殖や生息はない。 時にはヤマセミ
の飛翔を見ることもある。


〔昆 虫〕
 この地区の昆虫はほとんど調べられていないが、河岸にはオサムシ類がかな
り豊富で、マヤサンオサムシ、ヤコンオサムシ、オオオサムシ、
クロナガオサムシ、アキタクロナガオサムシの生息が認められている。メッシ
ュ351の地域内でのムカシトンボの記録がある。


〔爬虫類等〕
 両生類では、ヒダサンショウウオの幼生多数を吉峰寺川の渓流で確認したの
を始め、モリアオガエル、シュレーゲルアオガエル、カジカガエル等多数を目
撃した。爬虫類ではイシガメ、ヤマカガシ(一番頻繁に目撃するのはこのヘビ
)、シマヘビ、アオダイショウ、ヒバカリ等のほかヤモリが、古い家屋に生息
していることを認めた。 貝類では、どの河川も清流で、イシガイ、
マツカサガイ、カタハガイが高密度に生息する。その他は移入種の
ナガオカモノアラガイ、キビガイが多い。陸貝の種類数が豊富である。


〔陸水生物〕
 坂東島から松岡付近にかけて流れる九頭竜川の中流域である。流水量は比較
的多いが、ダムからの放水量の変化により、流水量もかなり変化する。大型の
カマキリ(アラレガコ)が生息し、天然記念物の指定地になっている。水生お
よび湿生植物は、中流域の典型的な構造を示し、学術的に貴重である。
 (藻類)
 藍藻はクロオコックス、ホメオスリックス、ユレモ、珪藻はハリケイソウ、
アクナンテイス、クチビルケイソウ、クサビケイソウなどが主なものである。
付着藻の現存量が大きく、これらを餌とするアユの生活をささえている。
 (水生昆虫類)
 流水量は多く、河床礫の安定度もよいので、ヒゲナガカワトビケラを優占種
とした中流域の特徴的な生息状態を示す。しかし、ダム(発電所)からの放水
量の変化により、流水量がかなり変化するため、現存量は多くならない。生息
する水生昆虫の種類は、トビケラ目8種、カゲロウ目10種、その他5種程度で
、夏の現存量は25g/m2 前後である。
 (魚類)
 フナ、コイ、アユ、ウグイ、カマキリなど28種が生息する。特にアユ、
カマキリの好生息地になっている。
 (水生及び湿生植物)
 九頭竜川の中流域における植物生態系としては、タチヤナギ、ネコヤナギ、
カワヤナギやオノエヤナギなどの河畔低木林帯への移行を含みながらも、極め
て多様な河辺草原植生帯に移行する。
 それらの河辺草原植生には、中州、沿水区、氾濫原や高水敷を含め、著しい
微地形的変化に応じ、旧流路跡や伏流水・湧水などによる周期溜水溝などの条
件が加わり、非常に複雑な帯状群落型とすみわけ的現象がみられる。そして、
それらの中で、基本型として不安定帯、半安定帯及び安定帯に応じた群落型が
分布している。不安定帯では、沿水域を中心に、コリヤナギ−ツルヨシ群落及
びツルヨシ群落が優占する。半安定帯では、特にカワラホウコ−カワラヨモギ
群落、カワラヨモギ−ヨモギ群落、カワラホウコ−オオマツヨイグサ群落が優
占する。それらの群落組成種の多くは、年間にしばしば冠水、流水という多様
な条件下に適応できる水生及び湿生植物である。
 現在、九頭竜川中流部においては、それらの河辺植生が中央部に侵入する傾
向が著しく、人為的影響もさることながら、植物の生活を通しての富栄養化が
進行している。
 全体として、九頭竜川中流部の植生は、典型的構造を呈することで、生態系
として学術的に貴重である。


〔景 観〕
 越前の中央山地と加越山地との間に出来た地溝性の谷を西流する九頭竜川中
流には、両岸共に高い山を背にする河岸段丘上の農村集落が幾つもあって、そ
れを急流を距ててみる眺めは、この地特有の農村風景(自然景観)で、風土的
情緒が感じられる美しい眺めである。はるか上流に経ヶ岳、大長、白山を望む
川の風景も詩情が感じられて美しい。
 九頭竜川中流の川のもつ自然景観は、詩情豊かであり風土的情緒の感じられ
る美しいものであるが、種々の開発工事等のため、近景が著しく壊れつつある
ことは誠に惜しい。
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