19(加越台地)東尋坊、雄島地区−−−−−5万分の1地形図【三国】−−−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

19 東尋坊雄島地区                         [⇒位置図]

〔概 要〕
 板状節理の発達した雄島安山岩、柱状節理を示す東尋坊安山岩の景観で有名
なこの地区は、イノデ−タブノキ群集キノクニスゲ亜群集及びヤブコウジ−
スダジイ群集モチノキ亜群集によって優占される照葉樹林極相林が残存する雄
島、トベラ−クロマツ群集が優占する海岸クロマツ林及びススキ−ヨモギ群集
が優占する海岸断崖荒原が顕著な東尋坊海岸を中心にひろがる温暖な自然環境
である。
 雄島林内は鳥類にとってよい生息環境であるが密度は高くない。イワツバメ
、クロサギの繁殖は数少ない例であり、海岸のイソヒヨドリの繁殖、海浜公園
内の森林鳥もよい生息状態を示している。
 雄島は小島であるため、生息する昆虫の種類は少ないが、暖地性、海岸性の
顕著な昆虫相の特色をもち、数多くの分布上貴重な昆虫の産地となっており、
自然度の豊かさを反映している。
 東尋坊を形成する柱状節理の断崖と、安島にかけての海食崖や海食洞あるい
は崖礁等の多様な海岸景観は、名勝として知られており、また雄島の西海岸に
は板状節理が発達して特異な自然景観を呈して、越前加賀海岸国定公園の特別
保護地区に指定されている。


〔地形・地質〕
 この海岸地区は、県北部に広い分布を示す加越台地(洪積台地)の西端部に
位置する。海抜80m以下の低い丘陵性地形の一部で、高位面、低位面を有する
2つの段丘地形が発達する。高位面は海抜70〜50mの、低位面は海抜20〜30m
の高度を示す。前者は更新世中期の、後者は更新世後期の海成段丘である。両
者の地形面は、段位差によって明瞭に区別される。なお、低位面は加越台地面
の延長に当り、高位面をとりまくように分布する。三国付近では段丘層の基盤
が浅く、硬軟いろいろの岩相を反映して、海食洞、海食崖、岩礁、島など多様
な海岸(海食)地形がみられ、海岸風景に変化を与えている。
 地質的には、主として段丘を構成する被ふく層と、下位にくる鮮新世初期頃
の火山性岩石から構成される。低位の段丘層は砂層を主とし、遠く大山火山起
源の芦原ローム層に広く被ふくされる。また、高位の段丘層は、主に砂礫から
なり、表層部の厚い赤色土化が特徴的である。次に、基盤をつくる地層は米ヶ
脇層と呼ばれ、東尋坊、安島安山岩、雄島石英安山岩などの火山岩相と、凝灰
岩・礫岩などの堆積岩相からなり、両者は複雑な岩相変化を示す。その凝灰岩
中から保存不良の植物化石を産する以外、時代を指示するものはない。FT年
代から、約 500万年前後の地層とみなされる。雄島安山岩が最も古い噴出のよ
うで、東尋坊安山岩は、周囲の地層中に貫入した餅盤( Laccolith)であり、
陣ヶ岡安山岩と共に最も若い噴出である。その堆積環境は浅い湖水的状態で、
しかも火山活動の激しい動揺的環境下で形成されたらしく、地層の一部に
 slump構造などもみとめられる。
 特に、板状節理の発達した雄島安山岩、柱状節理を示す東尋坊安山岩の景観
はすでに有名である。


〔植 物〕
 加越台地の西端部海岸断崖の東尋坊及び離島の雄島をひかえ、それらの東側
背面に陣ヶ岡の一部を含む地区で、基盤が浅く表層土が貧栄養的な条件下にあ
る一帯である。
 全域が、温暖な海岸気候条件の下で、典型的な照葉樹林が極相として残存す
る地区である。
 台地地形及び海岸断崖による自然景観が極めて勝れているのであるが、それ
らをおおう海岸林の相観もまた本県における代表的な美観のひとつである。そ
れらの林帯には、臨海林相を構成するクロマツ林、台地をおおうアカマツ林及
び雄島をはじめとする社叢や、海風から保護された部所に残存する照葉樹林、
特にタブノキ林及びスダジイが顕著な林相を呈する。また、東尋坊海岸の柱状
節理面における海岸断崖荒原や雄島の風衝草原などが、それら林帯に接して分
布したり、介在する。
 クロマツ林では、林間にトベラ、マサキ、林床にはオオウシノケグサ、
ジャノヒゲなどが優占するトベラ−クロマツ群集、アカマツ林では、林間に
ヤマツツジ、ナツハゼ、アクシバ、ホツツジ、コバノガマズミ、林床がワラビ
、アズマネザサなどに優占されるヤマツツジ−アカマツ群集、タブノキ林では
、典型的なイノデ−タブノキ群集を構成しているが、雄島では、キノクニスゲ
亜群集が識別される。また、スダジイ林では、典型的なヤブコウジ−スダジイ
群集の組成を示すが、特にモチノキ亜群集として、本県におけるスダジイ林の
代表的な林相を呈する。
 近年、種々の面での開発行為によって、緑被度が低下し、基礎自然度の大き
さが著しく分散し、全体的に退行する傾向にあることから、今後、緊急にそれ
らの具体的な要因分析とともに、保全対策を進めるべきであろう。


〔鳥 獣〕
 雄島の照葉樹林は、少面積ながらキジ、メジロ、シジュウカラのよい生息地
で、西側のマント群落はホオジロの生息環境である。雄島橋にはイワツバメの
集団営巣が見られ、県内では貴重である。また、雄島及び付近の岩礁には
クロサギの営巣があり、これも数少ない例であり、海岸崖一帯では適当な密度
をもってイソヒヨドリの繁殖もある。海浜公園や陣ヶ丘のアカマツ林では
ヒヨドリ、ホオジロ、シジュウカラ、ヤマガラ、カワラヒワの生息、キジの繁
殖、渡り鳥では、オオルリ、メボソ、ジョウビタキ、キレンジャク、シロハラ
、ツグミの生息地となって数日間の滞在が見られ、保全が望まれる地区である
。


〔昆 虫〕
 東尋坊−陣ヶ岡地区と雄島とでは、昆虫相は全く異なるので、同一の地区と
して評価することはできない。したがって、以下に分離して記述する。
 東尋坊−陣ヶ岡地区は、宅地化や観光開発が進んで、昆虫相は貧弱である。
松島近くの海浜公園内の松林で、ムツキボシテントウの多産が見られたが、こ
の種は、暖地性のもので、県下では敦賀半島から1頭採集されているだけなの
で、その多産は注目すべきであるが、他に特記事項はない。
 雄島は照葉樹の自然林に覆われ、西部海岸は海浜植生となり、自然環境は良
好に保たれている。調査は精度高く行われているが、記録される昆虫の種数は
未公表のものを含めても、約 450種であるから、種数から見れば昆虫相は決し
て豊富とはいえない。しかし、それは、島嶼の生物相がその島の面積と強く相
関するという生物地理学上の一般原則に一致するためで、自然度の低さを示す
ものではない。そのことは、以下に述べるように、生物地理学上極めて注目す
べき貴重な種の存在や、福井県では雄島だけに記録される昆虫が、小さな島で
ありながら相当数になることでも明らかである。当地区の昆虫相の一般的特徴
として、暖地性又は南方系昆虫がかなりあることと、海岸性昆虫がみられるこ
とである。また、相当多数の珍しい種が生息することは、優れた自然環境が保
持されていることを示唆するものである。 
 蝶類は30種が記録され、すべてが平地性の普通種であるが、クス科植物を食
草とするアオスジアゲハの個体数が多いことが目立つ。トンボ類は水系に乏し
いため、極めて貧弱で8種が確認されたにすぎないが、オオキトンボの記録は
特記すべきである。しかし、1頭だけなので、島で土着繁殖はしていないであ
ろう。
 甲虫類では注目すべきものが多数あり、中でも特筆に価するものは
オガサワラチャイロカミキリである。この種は和名が示すように、小笠原諸島
で最初に発見され、その後琉球列島各地、四国足摺峠、九州南端佐多岬で分布
が確認された。そのような分布パターンをもったものが、雄島で発見されたこ
とは驚くべきことであったが、ごく最近、対馬から記録されたことによって、
暖流によって食樹材について漂着したものと推定される。カミキリムシ類は、
14種が知らされるにすぎないがそのうち、ベーツヒラタカミキリ、
ヨコヤマヒメカミキリ、ヨツスジトラカミキリは、やはり暖地性のものである
。そのほかの暖地性甲虫として、チャイロズマルヒメハナムシ、
テラニシセスジゲンゴロウ、オビキノコヒゲナガゾウムシがあり、あとの2種
は県下で唯一の産地である。チビヒョウタンヒゲナガゾウムシ近縁種(多分新
種)は、目下のところ雄島だけから知られる南方系の固有種である。海岸性の
甲虫として、シバンムシの1種 Xyletinus tomentosus、
チャイロチビゲンゴロウ(県下唯一産地)があげられる。福井県では雄島だけ
から記録される甲虫としては、オシマヒメテントウ(模式産地)、
ダエンヒメテントウダマシ、ナカネヒメテントウがあげられる。また、一般に
は少ないケナガコメツキモドキ、セスジヒメテントウ、
フタモンヒメナガクチキムシ、ヒラタコメツキモドキの多産も注目すべきであ
ろう。
 ハチ類では、エサキミツバチモドキが特記すべきで、奄美大島で記録され、
本州からの記録は雄島と福井県の青葉山(多分海岸)だけである。また、
コシブトシガバチモドキが多産し、ムナカタエンモンバチ(全国的にも珍しい
)、クズハキリバチが採集されたことは注目に価する。
 そのほかの昆虫群では、照葉樹に特異的に分布する暖地性のヒナカミキリ、
県下唯一のオオツノカメムシ、一般には珍しいヒゲブトグンバイ、海岸性の
ハマベアワフキ、県下唯一のヒラタグンバイウンカの生息が注目すべきものと
してあげられる。
 雄島は大湊神社、無人灯台、海上保安庁監視所がある以外は人工的建造物が
なく、社務所の配慮によって林内立入禁止、車輌の島内乗入禁止によって自然
環境の保全がなされているが、近くに東尋坊や松島などの観光地があり、雄島
自体が観光価値を有しており、近年訪れる人も多くなっていることから、今後
の保全には充分留意しなければならないであろう。


〔爬虫類等〕
 両生類爬虫類の生息では、雄島でアオダイショウ、シマヘビ、カナヘビそれ
にアマガエル等のわずかな目撃に過ぎなかった。貝類ではキセルガイの類や
マイマイの類をわずかに確認した。(照葉樹林中の豊かな腐葉土の持ち出しは
、陸貝保護のため厳重に監視すべきである)東尋坊地区では一般的なものばか
りである。


〔陸水生物〕
 東尋坊海岸、陣ヶ丘台地付近には、小河川と小水路、湧水域がある。水域が
狭く、特記すべき生物は少ない。
 (水生及び湿生植物)
 宿の一地区の溜水域には、ノタヌキモ、ガマ、カンガレイ、マコモ、クロモ
などが分布している。また、雄島の北側の一部に湧水及び伏流水と考えられる
淡水域が、岩隙平坦部に位置し、そこには、ノハナショウブ、カキツバタ、
ドロイ、イソヤマテンツキなどが分散的であるが分布して、小淡水植生帯が形
成されている。
 東尋坊及び雄島地区は小環境区であるが、淡水高等水生、湿生植物の分布、
群落がみられ、それらの動態は環境保全の上で非常に重要である。
 (藻類)(水生昆虫類)(魚類)特記事項なし


〔景 観〕
 雄島の海岸には、板状節理と柱状節理の発達した安山岩の断崖があり、島内
にはタブノキ、スダジイ林等の暖地性照葉樹林の原生林がよく茂っていて、人
家に近い島でありながら、全島は原生自然の姿をよくとどめる極めて自然度の
高い景観である。島は大湊神社の神域として、古くより人々の立入りが禁じら
れてきたので、原生自然をとどめるこの様な社叢が、今日に伝えられたのであ
る。
 東尋坊は、発達した安山岩の柱状節理が、海食によって断崖をつくっている
もので、その景観は奇勝として知られている。東尋坊から安島にかけての海岸
は、海食によって海食崖や海食洞、あるいは岩礁等の多様な海岸風景がつくら
れ、これら雄島、東尋坊を含むこの地区の海岸一帯の自然景観は、すこぶる景
勝に富むもので、越前加賀海岸国定公園の中でも、最も重要な景観をもつ地域
の一つである。
 この海岸の背後にある陣ヶ丘台地の大部分は、クロマツ林、アカマツ林が分
布していて、それが東尋坊等の断崖や海食洞などの海岸景観の背景としての役
割を果たして、奇勝の効果を一層高めている。
 東尋坊では、人家店舗が海岸の崖上近くまで張出し、景勝地としての自然景
観を著しく損じているが、環境整備事業により岩場先端部の店舗の移転、後退
と跡地の緑化修景が進められておりその成果が期待される。
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