18(加越台地)大堤地区−−−−−5万分の1地形図【三国】−−−−−−−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔陸水生物〕〔景 観〕

18 大堤地区                          [⇒位置図]

〔概 要〕
 この地区は、加越台地と福井平野の境に位置しており、海成中位段丘を構成
する芦原砂層が台地をつくっている。崖下から湧水する地下水が、大堤を涵養
している。
 大堤は小規模な溜池であるが、ハス群落、ヨシ群落、ガマ群落、カンガレイ
群落、コウホネ群落、ヒツジグサ群落、ガガブタ群落、ジュンサイ群落、
キクモ群落が岸から中心部に向って群落帯を構成し、また岸の上部湿地に
サンカクイ群落、ミズガヤツリ群落、ミズオトギリ群落、ヌマトラノオ群落な
ど、平野部の湧水生態系としては北陸地区でも代表的であろう。
 また大堤は、冬のカモ類の越冬休息地で、マガモを中心に3,000羽〜5,000羽
におよびカモ類が水面一杯に広がる。
 昆虫相は、トンボ類及び水辺の甲虫に注目すべきものがある。


〔地形・地質〕
 この地形は海抜20〜30mの加越台地と福井平野との境にあり、段丘崖下に位
置する。現況は半人工的な堤であるが、縄文海退後に竹田川からの影響の少な
いこの付近には潟湖が存在しており、海退に伴って沼沢化が進み、最後に池沼
として残存したものが原形であろう。
 付近の台地を構成する地層は芦原砂層と呼ばれ、更新統後期(約10万年前)
の海成段丘堆積物である。この地層は、下位の細粒砂層(浅海成)と上位の粗
粒砂層(三角州〜沿岸成)に大別できる。比較的透水性の悪い細粒砂層の上位
にある透水性の良い粗粒砂層中に、かなり地下水が集中し、堤を湧水で涵養し
ている。また、段丘崖の上部には、古土壌、芦原ロームが露出している。


〔植 物〕
 加越台地の一部、加戸付近に位置する大堤を中心とする台地と水田からなる
地区である。大堤は周囲約1.3kmで、水深は約1.0mのごく小型の溜池である
。
 小規模な淡水生態系であるが、水辺から池心に向って、顕著な群落帯が形成
されている。池辺部では、ハス群落、ヨシ群落、ガマ群落、カンガレイ群落及
びコウホネ群落が優占する挺水植物群落帯、池心部の水面には、ヒツジグサ群
落、ガガブタ群落、ジュンサイ群落が優占する浮葉植物群落帯及び池辺部の水
中には、ごく一部であるがキクモ群落による沈水植物群落帯の三群帯が顕著に
形成されている。
 水辺の湿地には、サンカクイ群落、ミズガヤツリ群落、ミズオトギリ群落、
ヌマトラノオ群落等かなり顕著な湿性植物群落帯が形成されている。
 以上の通り、小規模の溜池であるが非常に多種数の群落が形成され、すぐれ
た淡水生態系を形成しているには、北陸地方においても、極めて数少ない自然
環境である。
 ただ、周辺からの有機物の流入が著しく、また、池心部に浮島が散在して、
漸次浅くなってきた。
 組成的には、ヒシ−ガガブタ群集型のものであるといえるが、それの富栄養
化型が深まってきたので、早急に地底を深くして、水域を大きくする必要があ
る。


〔鳥 獣〕
 大堤は、冬のカモ類の越冬休息地で、大部分がマガモで、次いでコガモ、
オナガガモ、カルガモ、ヒドリガモ、数少ないミコアイサ、ハシビロガモも見
られ、その数は3,000〜5,000羽におよび水面一杯に広がる。カイツブリの生息
、コハクチョウ、オオヒシクイが姿を見せることもある。チュウサギの越冬、
餌をねらうオオタカなど冬鳥環境は多彩である。
 夏期には草原性のケリやセグロセキレイ、カルガモの生息もあり、堤をとり
まく巾狭い夏緑広葉樹林ではヒヨドリ、ホオジロ、エナガ、ヤマドリ、
シジュウカラ、コゲラ、冬鳥のツグミ、シロハラ、カシラダカを見る。
 大堤の三方を形成する丘陵地斜面の樹林帯は、カモ池を構成する貴重な植生
であり、保全が望まれる。


〔昆 虫〕
 池とその周辺地域で、一般の昆虫相は貧弱で特にとりあげるべきものはない
が、池および水生植物に関連した昆虫は注目すべきものがかなりある。トンボ
類は豊富で現在までに20種が確認されており、調査が進めばさらに増加するも
のと思われる。そのうち、コバネアオイトトンボは県下では珍しい種で、
タイリクアキアカネとオナガアカネが1982年に県下で初めて採集され、注目を
あびた。前者は分布が局限されるもので、後者も全国的に採集記録の少ない
トンボで、1983年にも採集された。水草につく甲虫としてジュンサイハムシ、
イネネクイハムシ、ネクイハムシが認められ、個体数も多くあとの2種は県下
では生息地は少ない。ヨシのアブラムシを捕食すると推定される
ババヒメテントウは県下唯一の記録で、ミズギワアトキリゴミムシも珍稀種で
ある。そのほか、オニヒメテントウの記録も注目される。


〔陸水生物〕
 (プランクトン)
 大堤のプランクトンは、藍藻類2種、珪藻類49種、緑藻類30種、原生動物3
種、輪虫類18種、枝角類6種、枝脚類2種の 総計110種が報告されている。量
的には、緑藻類のセネデスムス、クンショウモが多いセネデスムス型の富栄養
池である。クンショウモは変種を含めて7種が報告されている。
イチモンジケイソウなどの清水域に出現する種類も若干見られる。汚水の流入
などの人為的な直接の影響はなく、栄養塩類が飛来する鳥類によって持ち込ま
れるという特異な条件下にある。


〔景 観〕
 加越台地の南の端であるために、福井地震の際に山崩れをおこしたので、台
地を構成する砂の層が比較的よく見られる地であるが、競艇場など付近は最近
開発が急速にすすみ、全体的には自然度は低い景観である。ただ、大堤のみは
、規模は小さいが自然に近い姿をかろうじてとどめているので、水生動植物が
かなり豊富に生棲し、鴨などの渡り鳥もみられる貴重な景観である。
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