17(加越台地)北潟湖地区−−−−−5万分の1地形図【三国】【大聖寺】−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

17 北潟湖地区                            [⇒位置図]

〔概 要〕
 福井県の北端部に位置する北潟湖は、広い加越台地が侵食され、その谷部が
浸水して出来たものである。海岸側にある台地の表面は砂丘状の地形を呈して
おり、その海食崖の上位には小規模の新砂丘が分布する。この付近は中新世中
〜後期の海成層が基盤を構成し、その上位に台地を構成する砂層が重なり、最
上部には芦原ロームが広く分布する。
 自然植生は、海岸沿いのトベラ−クロマツ群集、丘陵地のヤマツツジ−
アカマツ群集、湖岸部のアメリカセンダングサ−ヨシ群集(仮称)及び社叢を
中心として残存するイノデ−タブノキ群集、ヤブコウジ−スダジイ群集によっ
て特徴づけられる多様化した植生帯によって構成されている。それらの調和の
とれた相観は、淡水生態系における自然景観として本県の代表的地区である。
 北潟湖、福良池には、冬期マガモ、コガモ、ヒドリガモ、オナガカモ等カモ
類が渡来し、特に福良池ではハシビロガモ、ミコアイサ等数少ない冬鳥の渡来
が認められている。周辺山地ではシジュカラ、エナガ、コゲラ等森林性鳥類が
生息する。
 昆虫では、平地性の昆虫が比較的多いが、普遍種ばかりで特にとりあげるべ
きものはない。ゲンジボタルとイラガセイボウの生息が確認されている。
 北潟湖周辺は砂質土壌に松林が多い比較的乾燥地で、両生、爬虫類の生息適
地ではない。湖中にウシガエルの幼生と成体が目立っている。
 北潟湖は、面積2.37平方キロメートル、長さ約5km(周囲14km)の細長
い湖で、湖盆は平で深さ4m位の汽水湖である。湖の奥部へ行くほど塩分は少
なくなり、淡水に近くなっている。プランクトン、魚類とも汽水性のものから
淡水性のものまで生息し、水生植物群落とともに汽水湖の生態系として重要で
ある。
 アカマツ林を主とする低い丘陵地に囲まれ、湖岸沿いに田畑を配した北潟湖
は、周囲の緑を湖面に写す波静かな湖で、水郷的景観を呈している。


〔地形・地質〕
 この地区の東側には、海抜 70m〜100m内外の加越丘陵が拡がる。広い加越
台地の北部に、その中央部を北東〜南西方向に侵食した谷部が浸水してできた
北潟湖がある。この湖はスープ皿状の湖底地形を持ち、最大深が約4mにすぎ
ない浅い低かん汽水湖である。また、大聖寺川との合流部付近の底質は砂質で
あり、マシジミが生息する。湖の西側にある高度約 60m〜70mの台地は、そ
の表面が起伏に富む砂丘状の地形を呈する。日本海側には比高20m〜30m内外
の海食崖が連なり、その上位に新砂丘をのせている。
 加越丘陵は、主として中新世中期の海成層から、また加越台地は更新世後期
の砂層から構成されている。さらに台地の最上部には古砂丘砂層が重なり、こ
の様な規模の大きい古砂丘は日本海側でも少ない。芦原町の北潟東には約20
cmの層厚をもった典型的な芦原ロームが露出する。この軽石層は、その性状
からみて大山倉吉軽石(DKP)に同定できる。北潟湖畔部の地層(橋立累層
)は中新世後期の地層と推定できる。それは凝灰質泥岩、砂岩などから構成さ
れ、魚鱗、貝化石を多く産する。


〔植 物〕
 加越台地の北端域にあたり、東縁が石川県境に接する臨海平野であり、南側
には、一部汽水湖を含む止水湖である北潟湖がひろがり、また、石川県地籍に
あるが、典型的な照葉樹林におおわれる鹿島がくみこまれて、全体的に小規模
ながら多様な構造を持つ、非常にすぐれた景観が構成されている。
 この地区は、クロマツ林による海岸林、アカマツ林を主とする台地林、
タブノキ林及びスダジイ林による社叢林、ヨシ、ヒルムシロによる沼沢及び水
生草原及びシバを主とするゴルフ場草原の植物生態系によって構成されている
。
 海岸クロマツ林では、林間にトベラ、マサキ、コマユミ、シロダモなど、林
床にはリュウノヒゲ、チヂミザサ、アズマネザサなどが頻出して、トベラ−
クロマツ群集、アカマツ林では、林間にヤマツツジ、ヤマウルシ、コナラ、
クリ、サイゴクミツバツツジ、コバノガマズミなど、林床にはワラビ、
ヤブコウジ、サルトリイバラ、アクシバなどが優占するヤマツツジ−アカマツ
群集が大部分をおおっており、現存植生帯としては、この両マツ林帯が主要素
になっている。潜在的には、ヤブツバキクラス環境、特に典型的なイノデ−
タブノキ群集及びヤブコウジ−スダジイ群集による照葉樹林帯によって標徴さ
れる顕著な暖帯林環境域である。
 北潟湖は、汽水域を一部含むが、近年生活廃水等によって急速に汚染が進行
しているようで、淡水域では、ごく一部であるが富栄養化指標種とされる
ヒルムシロ及びヒメビシが発生し、群落を形成しており、ヒシ−ガガブタ群集
期に入ろうとしているようである。また、沼沢地性の水湿環境、特に北潟湖の
南隅低地帯を中心に、アメリカセンダングサ−ヨシ群集(仮称)がひろがる。
 それら森林及び草原の植生による自然環境は、変化に富み、非常にすぐれた
景観と好適な緑地構成の潜在性を容していると考えられる。しかし、現在の植
生帯としては、全体的に基礎自然度が低く、照葉樹林の林間に
オオムラサキシキブ、ツルマサキ、林床にカラタチバチ、オモトなどが分布し
、海岸暖地自然環境を呈するが、それら森林植生の分布域が全体的に狭くなっ
ており、互いにモザイック状を呈して自然度が著しく低くなっている。
 北潟湖は、全水域にわたって、近年富栄養化が急進している条件下におかれ
ており、それらに独特な水生植物の群集が形成される傾向を示すが、それにも
まして沿岸部の沼沢地には、ヨシの侵入が著しく、湖畔植生帯特有の景観が、
森林植生に対照的である。
 北潟湖地区は、ヤブツバキクラス域の暖地性植生帯として組成的に非常にす
ぐれた生態系が構成されるので、貴重な地域のひとつである。
 ただ、近年ゴルフ場の建設や土砂の採集等開発の傾向が著しく、また、台地
における畑地造成が急速に進行されていることから、自然環境の低次化に充分
留意すべきであり、特に海岸クロマツ林と台地上アカマツ林帯の保全対策が必
要である。


〔鳥 獣〕
 鳥類の生息地となる山林は、アカマツを主とする二次林で、ヒヨドリ、
ホオジロ、シジュウカラ、エナガ、ヤマガラ、コゲラ、アカゲラ、カワラヒワ
の生息および一部繁殖があり、森林鳥生息に関しては一般的である。
 水辺周辺の露出した崖地では、環境汚染の指標鳥といわれるカワセミや奥地
河川筋でよく見かけるヤマセミの繁殖のあることは注目すべき点である。
 北潟湖、福良池では夏期のバン、カイツブリの繁殖をはじめ、アオサギ、
コサギ、アマサギ、カルガモの生息を見る。冬期には、マガモ、コガモ、
ヒドリガモ、オナガカモ等カモ類の休息地となる。特に福良地のハシビロガモ
、キンクロハジロ、ミコアイサは数の少ない仲間で、珍鳥アカハシハジロの滞
在を見たこともある。


〔昆 虫〕
 平地性の昆虫が比較的多いが、普通種ばかりでとりあげるべきものはない。
ゲンジボタルとイラガセイボウの生息が確認されている。


〔爬虫類等〕
 両生類のサンショウウオ目ではイモリの他には発見できず、カエル目では普
通種だけの生息で、ただ湖中にウシガエルの巨大な越年オタマジャクシが目立
った。爬虫類でもアオダイショウ、シマヘビ、ヤマカガシ等のみの分布で平凡
である。
 貝類では、水の豊かな地区でありながら、富栄養湖と水質汚濁のためか、淡
水貝が目立って少ない。ドブガイの非常に大形のものが多い。


〔陸水生物〕
 北潟湖は、大聖寺川に近接してともに日本海に注ぐ、典型的な汽水湖である
。北東から南西方面に細長く、約5kmの長さ、約 2.4平方キロメートルの面
積をもつ比較的小形の湖で、全体的に浅く、最深部で約4mの水深を示す。湖
の奥部へ行くほど塩分は少なくなり、淡水になっている。塩素量は、水門の管
理状態によってかなり変動するようであるが、湖の中央部付近で0.1〜 3 g/リ
ットル程度である。プランクトンによる生物学的水質判定は、β−中腐水性で
ある。近年、北潟湖の南隅部付近を中心に、水郷環境の造成が計画されたが、
その後の水質各種要因調査により、低塩性の上に有機物の増加による富栄養化
が進み、急速に汚濁が進行していることから、再考の状況にあるようである。
 プランクトン、魚類とも汽水性のものから淡水性のものまで生息し、水生植
物群落とともに、汽水湖の生態系として重要である。
 (プランクトン)
 動物プランクトンでは、キスイヒゲナガミジンコやオナガミジンコが多く、
前者は汽水に産する大形のケンミジンコ、後者は日本各地にごく普通の富栄養
型の水域を好むプランクトンである。ハネウデワムシ、フクロワムシなどの輪
虫類は、種類も量も豊富である。植物プランクトンでは、春にメロシラ、
ハリケイソウ、ホシガタケイソウなどの珪藻類が多くなり、夏にはヒザオリな
どの接合藻類が多量に発生する。
 (魚類)
 全部で35種の魚類が生息する。1つの湖の中に、淡水性魚類(コイ、フナな
ど)、汽水性魚類(シラウオ、クルメサヨリなど)、沿海性魚類(ボラ、
スズキなど)がみられ、それぞれ塩分濃度の異なる水域に応じた生態的分布を
示している。
 (水生及び湿生植物)
 北潟湖の湖岸部には、西岸及び南岸を主にして、ヨシ−
アメリカセンダングサ群落が優占し、挺水植物帯を構成している。
 水生植物群落としては、湖水全域にわたってひろがるものはみられず、わず
かに北側の湖岸近くに、ヒルムシロ−ヒメビシ群落が、小群落として形成され
ているのみで貧弱である。ヒシ−ガガブタ群集に属する群落型で富栄養水系の
環境を指標していると考えられる。
 保全策によって、高等水生植物によるすぐれた湖水生態系が形成されると考
える。


〔景 観〕
 北潟湖は、加越台地の谷地形に水をたたえた湖で、低い丘陵が湖水に接近し
ている。丘陵には、アカマツ林を主に暖地性の常緑広葉樹が散在し、湖の東岸
にはコナラ林も分布していて、それらを湖に写している自然の風景は、静かで
美しい。
 西岸には、アカマツ林を主とする低い丘陵との間に、一部に漁村風の舟小屋
を混えた人家があって、本県としては数少ない水郷的風景がつくられ、この地
特有の風土的情緒性もみられる貴重な風景である。
 湖の北端には、タブノキ、スダジイ林等の典型的な照葉樹林によってできて
いる鹿島の森があり、アカマツ等の老木が遺存している吉崎山がある。
 吉崎山は、文明の頃、本願寺の僧蓮如が、この地に據って加越に巡錫をすす
めた遺跡で、現在東西両本願寺の別院もあるなど、この地の自然景観は、宗教
的、歴史的景観として貴重である。
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