15(加越山地)豊原地区−−−−−5万分の1地形図【永平寺】−−−−−−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔景 観〕

15 豊原地区                             [⇒位置図]

〔概 要〕
 この地区は、福井平野に接する加越山地に属し、東方には竹田の盆状谷があ
る。この地区には中新世前期の糸生累層が広く分布しており、全体に撓曲構造
を示し、平野側に近づくと西側へ急傾斜する傾向がある。
 植生は、本県では一部に限定して見られるアカマツ−サイゴクミツバツツジ
群落が尾根沿いに分布し、山腹斜面では同様に分布が限定されるコナラ−
ヤマツツジ群落が優占し、生態地理学的に貴重である。
 鳥獣では、スギ林と混交林地域の一般的な環境で、ヒヨドリ、エナガ、夏鳥
のサンコウチョウ、ヤブサメなどが生息している。
 また昆虫相は、若干の注目すべき種の記録がある。
 両生、爬虫、貝類の生息環境としては良好な地区と思われるが、近い将来の
山口ダムの完成につれて、下流域の水環境に変化をきたし、相当な影響ができ
ることが予想される。
               (注:山口ダムは龍ヶ鼻ダムとして完成)


〔地形・地質〕
 この地域は海抜 500m以下の加越山地に属し、福井平野に近い、西端部に位
置する。東半分の山竹田−口竹田側には、竹田川中流域の盆状地の一部がある
。
 東側の海棲貝化石を産出する凝灰質岩石は竹田川両岸付近に分布し、それに
対して西側には安山岩類及び同質火砕岩類が厚く分布しており、両岩相の境界
部には南北性の断層が推定される。この付近の地層は平野側へ近づくと、西側
へ急傾斜を示すが、これは全体的に撓曲構造の存在と解される。口竹田付近に
は、河谷方向に沿った南北性の岩脈、小断層が存在する。この近くではかつて
竹田鉱山が盛に採掘されたこともあり、また最近では竹田温泉も開発されてい
る。


〔植 物〕
 加越山地の西縁部、上竹田の西側の豊原付近の低山地で竹田川の上流域にあ
たり、冬季多雪地で、冷湿な気候的な条件下におかれている。
 標高 389m付近を山頂として、その稜線付近にはごく狭い範囲であるが、
アカマツの自然林が分布し、山腹斜面にクリ−コナラ林、渓側沿いにスギ植林
がひろがる三林帯からなっている。
 アカマツ林の林間には、サイゴクミツバツツジ、コバノトネリコ、
コシアブラ、ホツツジ、ヤマツツジ、キンキマメザクラ、クロソヨゴ、
ダンコウバイ、林床にはケアクシバ、ツルアリドウシ、ツクバネ、チゴユリ、
などが優占し、全体的にアカマツ−サイゴクミツバツツジ群落にまとめられる
が、組成的にはヤマツツジ−アカマツ群集に属すると考えられる。ただ、低山
地における代償林性のアカマツ林の組成とは、組成的に識別される。
 山腹斜面におけるクリ−コナラ林では、林間にマルバマンサク、
サイゴクミツバツツジ、アズキナシ、キンキマメザクラ、リョウブ、
ヤマモミジ、イヌツゲ、クリ、ナナカマド、林床にはヤブコウジ、アクシバ、
ツノハシバミ、ジャノヒゲが優占し、全体的にはコナラ−マルバマンサク群落
にまとめられ、組成的にはヤマツツジ−コナラ群集型で、低山地性のクリ−
コナラ林とはやや相違していると考えられる。
 渓側沿いのスギ植林では、ツクバネ、ヒメアオキ、ヒサカキ、コマユミなど
が優占する。
 二次林、代償林のひろがる地区であるが、組成的に安定しており、更に
アカマツの自然林とともに、山地型の林帯として生態地理学的に非常に貴重で
ある。


〔鳥 獣〕
 スギ成林にアカマツの点在するコナラ林で、榎峠付近は混交林も多く、
ヒヨドリが優占し、エナガの群れ、ヤマガラ、コゲラ、ウグイス、キジバト、
カケス、モズ、イカル、夏鳥のサンコウチョウ、ヤブサメ、センダイムシクイ
の生息する一般的な環境である。寺跡の平坦な草地はホオジロ、ヤマドリの好
む場所でもある。


〔昆 虫〕
 低山丘陵地帯であるが、部分的にはかなり豊かな自然が残されている。しか
し、最近では道路建設によって、自然は低劣化が著しい。竹田地区では
ウラミスジシジミ、エルタテハ、サラサヤンマ、オオムラサキの生息が認めら
れているが、現在この地区は相当環境が変化しているので、再調査が望まれる
。豊原付近では、ムラサキシジミが分布し、この蝶は南方系のもので大飯・遠
敷地方では各地に生息するが、豊原に産するのは注目に価する。甲虫では
ムツボシチビオオキノコムシが採集されたが、これは県下唯一の記録で、全国
的にも採集記録は極めて少ない。また、アラキヒメテントウは県下ではほかに
文殊山だけである。そのほか、ギフチョウがかなり多いことを付記しておく。


〔爬虫類等〕
 両生類ではモリアオガエル、シュレーゲルアオガエル、カジカガエルが多い
。モリアオガエルの繁殖期には、夜間森から水田地区に降りてくる途中に自動
車につぶされたおびただしい轢死体が並ぶという。当地区がモリアオガエルの
生息多産地の証拠であろう。
 爬虫類では、イシガメを始めシマヘビ、ヤマカガシが多く、ジムグリも生息
すると聞いた。
 貝類ではニクイロシブキツボがいまだに生息することは特記すべきことであ
ろう。全般に貝類の種類数が多い。


〔景 観〕
 丸岡東方の海抜300m〜400mの低山性の山地で、アカマツの自然林、クリ、
コナラ林及びスギ林が分布し、竹田地区ではスギの植林が目立つ。豊原及びそ
の北方山地のアカマツ自然林、クリ、コナラ林、スギ林等の林相は、この地方
特有の山林景観として風致をよくとどめているもので、貴重であり、特に竹田
地区のスギ林は管理がよくゆき届き緑豊かな針葉樹林独特の林相景観を呈して
美しい。
 豊原は平泉寺などと共に、古代、中世における白山信仰上の豊原寺のあった
ところで、今も白山神社、閼伽井、塔頭の跡など、当時の跡を多くとどめる山
岳仏教の一大遺跡である。また竹田の吉谷も、豊原と同様に、中世時代の吉谷
千坊の名のもとに知られている、山岳信仰における多くの僧坊のあったところ
である。この遺跡の景観には、遺存する一木一石に至るまで風土的情緒さえ感
じられるもので、山岳信仰上の歴史的自然景観として、極めて貴重である。
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