13(加越山地)浄法寺山周辺地区−5万分の1地形図【永平寺】【大聖寺】−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

13 浄法寺山周辺地区                            [⇒位置図]

〔概 要〕
 浄法寺山( 1,052.8m)を中心とした壮年期山地は深く侵食され、山腹斜面
は急である。九頭竜川の北岸には基盤である飛騨変成岩類、花崗岩、流紋岩な
どがみられ、その上位に中新世前期の糸生累層、中期の酸性火山岩類が厚く分
布している。
 植生では、丈競山の固有種エチゼンダイモンジソウ、西限種タマアジサイ、
オオタネツケバ、北限種クロソヨゴの分布により、区系地理学的に貴重である
。オオバクロモジ−ブナ群集の標徴種、日本海地域固有種が多く、浄法寺山周
辺尾根沿いのミズナラ林相は、原生林に近い安定した林相を呈する。森林生態
系による自然景観が、本県でも低山地の中で最もすぐれた地区のひとつである
。
 この地域は、一部スギ林を含む開けた地域であるため、ホオジロ、ヒヨドリ
の出現が多くなっている。
 竹田川上流域の急峻な渓谷には、蝶、甲虫、トンボ類が豊富であり、浄法寺
山、冠岳は全体的には昆虫相は単調であるが注目すべき昆虫も確認されている
。
 両生、爬虫、貝類では、この地域でスギの植林が進んでいるため、その好生
息地が狭められつつある。
 竹田川の上流にはトワダカワゲラ(水生昆虫)、アジメドジョウ(魚類)が
生息し、分布上特記すべき種である。また的川の上流には、チドリノキが優占
する渓谷植生がみられ、生態地理学的に貴重である。
 福井市街地の東北に位置する浄法寺山は、福井平野を取りまく山々の最高峰
で、冠岳とともに福井市、坂井郡の平野部から一望される。本地域では広範囲
にスギの植林地が分布するが、山地上部にはブナ−ミズナラ林など夏緑広葉樹
林が原生林に近い状態で保たれ、四季の変化が見られる。


〔地形・地質〕
 この地区は 1,000m級の浄法寺山を中心として北は石川県境まで、また南は
九頭竜川までの広い範囲である。海抜 500m以上の山地が大部分で、壮年期的
山容を呈する。特に竹田川、浄法寺川、岩屋川などが深く山地を刻んでいるた
め、その山腹は急斜面で取囲まれている。
 中新世前期の糸生累層が厚く発達し、流紋岩〜安山岩質の溶岩および同質火
砕岩類が複雑に累重する。浄法寺山などの山頂〜山稜部には石英安山岩ないし
類似の岩石が分布し、九頭竜川谷の山脚部には、その基盤を構成する飛騨変成
岩類、花崗岩、流紋岩などが露出する。両県境付近には酸性火山岩が広くかつ
厚く分布するようである。
 この地区の北西端には竹田ダムが建設中であるが、この竹田川の河床には竹
田礫岩層が発達しており、その上位の凝灰岩中からは稀に植物化石を産する。
          (注:竹田ダムは「龍ヶ鼻ダム」として完成)


〔植 物〕
 加越山地の西側山塊の一角で、丈競山(1,045m)、浄法寺山及び冠岳(838
m)をめぐる急峻な地形区である。冠岳付近では、基盤の露頭が顕著であり、
浄法寺山頂を含め全域にわたって基盤が浅い地表条件にあり、気候的にも冬季
季節風の影響による多雪地であるが、現存植生、特に森林生態系が好適な自然
環境を構成している。特に、浄法寺山付近では、基礎自然度が比較的高い状態
にある。
 この地区は、九頭竜川から浄法寺山、近庄峠( 400m)を含む非常に広範囲
にわたり、林帯としても、その多様な徴地形に応じて各種の森林型が識別され
る。中でも浄法寺山の山頂付近におけるブナ・ミズナラ林は、やや二次林化し
ているが、加越山地の縁辺部山塊では極めて顕著な林帯として注目される。そ
の下部には、クリ−ミズナラ林、クリ−コナラ林、アカマツ林、スギ植林が分
布し、渓側にはこの付近の渓側に顕著なチドリノキの低木林叢も識別できる。
 浄法寺山の山頂を中心に、平野に近い山地ながら、オオコメツツジ、
アカモノ、ジンバイソウが分布し、また、オオバクロモジ、マルバマンサク、
アカミノイヌツゲ、サイゴクミツバツツジ、オオカメノキ、ヒメモチ、
ハイイヌツゲ、ツルシキミ、エゾユズリハなどの日本海地帯固有種が多く分布
し、植物区系地理学的にも非常に貴重である。
 浄法寺山の北側には、丈競山が位置し、標高200m付近には、固有種である
エチゼンダイモンジソウが分布し、また西限種として タマアジサイ、
オオタネツケバナ、北限種としてクロソヨゴが分布して、浄法寺山と同様に、
植物区系地理学的に極めて貴重である。
 以上、丈競山、浄法寺山及び冠岳を中心とする山地は、森林帯が重厚であり
、好適な二次林環境が構成されるが、特に、山頂付近におけるブナ・ミズナラ
林及びクリ−ミズナラ林は、ブナクラス域の代償林帯として、非常に安定した
二次林相を呈する。
 中でも、ブナ・ミズナラ林では、林間に日本海型ブナ林の標徴種が豊富に分
布するオオバクロモジ−ブナ群集型の林相を呈する。ミズナラ林からブナ林へ
の遷移過程を示す林相として、夏緑林環境を指標する林帯として、植物社会学
的見地からも本県では、非常に貴重である。
 近年、特に浄法寺山の山頂、斜面沿いに、地形的に不安定であること、また
一部でかなり広範囲に伐採が進行されており、林相の変動が顕著になってきた
。
 浄法寺山の山容もさることながら、山頂から九頭竜川、平野部の自然景観の
構造は、非常にすぐれている。
 それらの観点からも、これら山地森林帯の保全について今後充分検討を進め
るべきである。中でも、清水小場付近から上部、蛇谷滝付近、冠岳、浄法寺山
、丈競山を含む山地範囲を対象に保全を図るべきであろう。


〔鳥 獣〕
 この地区はかなり広範囲な山地で、山地斜面には一部に夏緑広葉樹の自然林
や二次林が残存するものの、全域にわたって造林地が拡大分布し、谷筋も開け
て全般的に鳥類の生息環境は劣化しつつあり、冠岳林道は清水小場まで進んで
周辺一帯の伐採は著しい。
 鳥相は、一部スギ林を含むも全般に開けた地域であるためホオジロが優占し
、ヒヨドリの出現も多くなっている。渓流のカワガラスのほか、イカル、
カケス、ウグイス、キジバトは一般的であり、アオゲラ、ヒガラの森林性鳥を
見る。夏鳥のヤブサメ、サンショウクイのほか、ホトトギス、ツツドリ、
ブッポウソウの生息は開けた高原性環境を思わせる。
 山頂稜線部周辺に分布するブナ林等の夏緑広葉樹林帯は、鳥類のよい生息環
境と思われるが、調査が及んでない。
 獣類ではニホンツキノワグマをはじめ、ホンドタヌキ、ホンドキツネなどが
生息する。


〔昆 虫〕
 広範囲な地域を包含する地区であるため、いくつかの亜区に分けて見ること
ができる。竹田川上流域は急峻な渓谷をなし、その斜面はかなり杉の植林が進
んでいるが、自然度は高く昆虫相は豊富で、とくに蝶類、トンボ類、甲虫類が
多い。しかし、ダム建設が進行中で、それに付随して道路も整備されるであろ
うから、今後大きく変貌することが予想される。近庄峠周辺からその南斜面は
昆虫相はかなり単調であり、ここも道路建設(国道)が進行している。また、
浄法寺山、冠岳を中心とする山岳地帯は、山麓から中腹にかけて林道が整備さ
れて自然度は低くなったが、中腹以上は良好な自然環境が残され、注目すべき
昆虫も記録されている。この地区を包括的にみると全体的に昆虫相は比較的豊
富といえるが、加越国境の山地の中では、三ノ峰から杉峠に至る白山山塊や、
赤兎山から大長山に至る地区に比べるとかなり劣るといえよう。
 蝶類は古い記録や迷蝶と思われるものを含めると75種が記録されており、そ
のうち、竹田川上流から記録されたウラミスジシジミは県下で数少ない生息地
の一つである。キベリタテハの古い記録があり、その後得られていないので偶
産とみた方がよいかもしれない。そのほか、注目すべきものとして、
ホシチャバネセセリ、シータテハ、エルタテハ、アカシジミ、
ウラナミアカシジミ、ミズイロオナガシジミ、ミドリシジミがやや珍しいもの
としてあげられよう。蝶類全体の種数が多いわりには、どういうわけか
ミドリシジミ類の記録に乏しい。
 トンボ類では竹田川上流でムカシトンボの幼虫の生息が確認され、個体数も
少なくないという。ムカシヤンマは竹田川、的川流域の両方で採集されており
、サラサヤンマも生息する。
 甲虫類は奥越山地と比較すると貧弱であるが、それでもかなりの種数と個体
数がみられる。冠岳中腹で発見されたマガタマハンミョウは、その後取立山で
も採集されたが、県下最初の記録となったもので分布南限である。また、
カタビロハムシ(冠岳)は福井県で唯一の記録である。竹田川上流域からは注
目すべき甲虫がかなり採集されており、そのいくつかをあげると、
ヒレルコキノコムシ、ホソリンゴカミキリ、トワダムモンカミキリ、
タテジマハナカミキリ、ベニナガタマムシ、オオヒラタハナムグリ、
ヒメテントウダマシ、ジュウロクホシテントウなどが、県下では記録が少ない
甲虫である。
 蜂類はそれほど豊富でないが、むしろ麓の方に多く、また浄法寺地区で採れ
た稀種としてヤマトキマダラハナバチ(県下3番目の記録)、
ウスキギングチバチ(県下で4番目)、フタモンアワフキバチ、
ハクサンギングチバチがあげられる。
 岩屋では、ムカシトンボ、ムカシヤンマ、ルリボシヤンマ、オオカワトンボ
など貴重なトンボをはじめ、多くの珍しい昆虫が記録されており、
ベニモンマルテントウダマシの模式産地で他には全く採集されていない。昆虫
相の豊富な所であったが、近年観光客の訪れが激増し、自然度は低下しつつあ
る。


〔爬虫類等〕
 両生類では、サンショウウオを除く他は多種にわたり生息する。カエルでは
モリアオガエル、カジカガエル、アマガエル、ヤマアカガエル等が比較的に多
い。爬虫類ではヤマカガシ、シマヘビ、マムシ、イシガメ、トカゲ、カナヘビ
等が多い。
 貝類では、山地の南麓が勝山街道であるためか、モノアラガイ、コハクガイ
、ハリマキビ等の外来種が多く生息し、山地ではコガネマイマイ、
クロイワマイマイが多く生息している。貝類は全般に豊富な地域である。


〔陸水生物〕
 主な水域は、浄法寺山の北にある竹田川の源流域と、南西にある的川である
。竹田川の源流域は、福井県では最北端に位置する。標高 950m付近から水脈
が現れ、渓谷は急勾配の渓流で占められ、水生昆虫の生育に適した河床が多く
みられる。的川は浄法寺山の下部標高 500mぐらいから流出し、蛇谷滝で落水
し、清水小場付近で他の流れと合流して上浄法寺付近で九頭竜川に合流する。
清水小場付近から蛇谷滝付近までは、急斜面を呈し、的川は渓谷状態になる。
 竹田川の上流には、トワダカワゲラとアジメドジョウが生息し、生物分布上
注目される。また、的川の上流には、チドリノキが優占する渓谷植生がみられ
、生態地理学的に貴重である。
 (藻 類)
 源流域のため量的に少ない。ホメオスリックス、コメツブケイソウ、
アクナンケイソウ、クチビルケイソウなどが主なものである。
 (水生昆虫類)
 竹田川は人為的な構築物が少なく、自然な状態がよく維持されているため、
山地渓流を特徴づける種類、特にトビケラ類について多くの種類がみられる。
特記すべきことは、源浅域にトワダカワゲラが生息することである。本種は特
異な姿(幼生期)を示した原始的なカワゲラで、中部以北、北海道に分布してい
る。近県では白山山麓での生息が報告されているが、本生息地は日本海側での
最西端地になる。
 (魚 類)
 竹田川上流に、イワナ、ヤマメ、アマゴ(放流)、カジカ、タカハヤ、
アジメドジョウが生息する。特異な分布と生態を示すアメドジョウの生息が注
目される。
 (水生及び湿性植物)
 的川の渓流(清水小場付近より上流)には、流水中に高等水生植物は分布し
ていないが、水辺には ホクリクネコノメソウ、ミヤマキツリフネソウ、
コチャルメルソウ、ウワバミソウ、コアカソなどの草本相と、水面をおおうよ
うにチドリノキ、サワシバ、キブシ、サワグルミなどの渓谷低木相が顕著な植
林帯を構成している。特に、チドリノキが優占する渓谷植生として、本県にお
ける峡谷植生構造に関して、生態地理学的に貴重である。
 清水小場付近より下流域は、顕著な植生はみられず、非常に単純な河辺及び
水中環境になっている。したがって、清水小場付近から上部が、最近伐採の対
象になっているようで、是非保存するよう検討すべきである。


〔景 観〕
 この地区は、加越山地の西端にあたり大日山の西に連なる海抜 1,000m内外
の県境背稜山地と、浄法寺山、冠岳および丈競山の山塊からなり、これら山地
の海抜 400m〜500m(中には700mを越す部分もある)位までは伐採造林が進
んでスギの植林地が拡がるが、登るにしたがいクリ、ミズナラ林などの夏緑広
葉樹林帯となり、中でも岩屋川、竹田川の奥地山頂付近には、ブナの原生林が
見られるなど山地上部は比較的原生に近い自然が保たれた林相景観を呈し、四
季の変化を見せている。
 また、山頂付近に基岩の露頭を見せる浄法寺山、冠岳の山容もさることなが
ら、山頂稜線部は眺望性に富み、九頭竜川や福井平野の俯瞰景観はすばらしい
。
 一方、これら山地は福井市に近く、平野部から四季折々の山容が眺められ、
登山、ハイキングの場として親しまれている。
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