12(越美山地)箱ヶ瀬、田茂谷地区−−5万分の1地形図【荒島岳】【白鳥】−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

12 箱ヶ瀬、田茂谷地区                               [⇒位置図]      


〔概 要〕
 九頭竜川が東から西へ流下して、九頭竜湖に注いでいる。ほぼ、この河谷沿
いに断層が発達しており、九頭竜川構造帯に属する。そこでは古生層の帯状構
造がみられ地質層序は複雑である。シルル−デボン紀の化石を産する白馬洞は
、日本最古の地層として、その鍾乳洞と共によく知られている。
 この地区は毘沙門岳(1,385.5m)、西山(1,359m)及び油坂峠の県境脊稜
地から田茂谷付近を含む地区でオオバクロモジ−ブナ群集の典型的な組成が分
布する豪雪地である。
 油坂峠付近のブナ−ミズナラ林の林床に、シロモジ、マルバノキ及び
マルバフユイチゴなど太平洋沿岸要素の侵入がやや顕著であるのが注目される
。
 この地区も、林道が奥地稜線部付近まで進み森林伐採が進行しているが、稜
線部のブナ疎林のヤブではウグイスが多く見られる。全般的にゴジュウカラの
繁殖やタカ類の生息、また湖水面は、オシドリほかカモ類の渡来地となってい
る。
 昆虫相も、森林伐採等の影響によりそれほど豊かではない。しかし、部分的
には注目される昆虫類の記録もあり、潜在的には興味ある昆虫相がうかがわれ
る。なお、白馬洞には当洞固有の甲虫の種が生息し学術上貴重である。
 両生類、爬虫類は、水環境は豊かなものの特に注目すべきものはない。
 九頭竜湖は、人造湖ながら湖岸の新緑紅葉が水に映え、美しい景観を呈する
。


〔地形・地質〕
 海抜1,000m前後の壮年期的山地で、その中を東から西へ九頭竜川が流下し、
上半原以西は九頭竜湖となっている。北から子馬巣谷、林谷、田茂谷が、南か
ら荷暮川、面谷川、伊勢川が注ぐ。
 地質的には、下半原以東の地域には、ジュラ−白亜紀の手取層群が広く分布
し、高所は面谷流紋岩に被覆される。九頭竜河谷付近は東西性の断層が発達し
、九頭竜構造帯の延長に当たっている。一方下半原以東の地域は二−三畳紀の
中古生層の帯状構造が発達し、複雑な様相を呈する。箱ヶ瀬付近には蛇紋岩が
、また荷暮川口付近には結晶片岩が露出する。
 子馬巣谷の白馬洞付近には石灰岩、珪質砂岩があり、灰白色、かなり結晶質
である石灰岩中から、ハチノス珊瑚、石灰藻、三葉虫化石を産し、シルル〜
デボン紀とされている。ここの鍾乳洞は県下で最大規模のものである。


〔植 物〕
 岐阜県との県境脊稜を含む山地で、毘沙門岳、西山及び油坂峠付近を結ぶ多
様な地形に、全体的に多雪地域に特有要素、日本海地域固有要素を多く含む典
型的なブナ林への林帯及びそれら山地に挟まれた谷沿い、特に田茂谷には、
スギの自生林が分布して、日本海側特有の温帯自然環境、相観が構成されてい
る。
 それらの中、毘沙門岳、西山及び油坂峠付近におけるブナ−ミズナラ林及び
ブナ林では、ブナ、ミズナラ、オオカメノキ、エゾユズリハ、
アカミノイヌツゲ、ヒメモチ、ツルシキミ、ミヤマシグレ、ヨグソミネバリ、
ハイイヌガヤ、キタゴヨウ、クロベ、ツシマナナカマド、マルバマンサク、
ウラジロヨウラク、ヒナウチワカエデ、イタヤカエデ、ハクウンボク、
ムラサキヤシホ、チヤボガヤ、ツノハシバミ、オクノカンスゲ、クマシデ や
ヤマソテツなど温帯林に特有な要素が高頻度に分布し、全体的に
オオバクロモジ−ブナ群集の典型的な林相が見られ、生態地理学的に極めて重
要である。
 また、特に油坂峠付近のブナ−ミズナラ林の林間、林床にシロモジ、
マルバノキ及びマルバフユイチゴなど太平洋沿岸要素が侵入しているのが見ら
れるのも注目に値する。
 田茂谷の上部に、スギの自然林が分布しているのも、本県におけるスギの自
生帯から見て極めて重要である。
 近年伐採が著しく進行されており、早急に保全計画をたてることが必要であ
る。


〔鳥 獣〕
 鳥獣の生息環境は、林谷林道、田茂谷林道の奥地稜線まで伐採されて若い植
林地、鮭ヶ洞も林道工事で新しく伐採されているが一部稜線にブナ林も残る。
鮭ヶ洞林道から油坂にかけての一帯は二次林で占められている。西部区域も二
次林となっている。
 国道付近では、ホオジロ、セグロセキレイ、キセキレイ、モズの生息環境で
、林地ではウグイス、カケス、エナガ、アオゲラ、キジバト、シジュウカラ、
ヤマガラの他、クマタカやヤマドリのヒナ連れ、ゴジュウカラの繁殖が見られ
た。夏鳥では カッコウ、ツツドリ、ジュウイチ、クロツグミ、コルリ、
コマドリの高い地域のものが観察できる。また湖面に50羽前後のオシドリを見
たことはその数において貴重である。


〔昆 虫〕
 当地区は九頭竜湖・九頭竜川の上流東端から北方へ入る鮭洞谷(油坂峠付近
)、田茂谷、林谷の3峡谷に代表されるが、いずれも林道が発達し森林開発は
著しい。そのため、昆虫相は全般的にそれほど豊富ではないが、それぞれ特色
のある注目すべき種の生息が確認されている。
 油坂峠付近(鮭洞谷)では、ハクサンツヤバチ、フタモンアワフキバチ、
ジンムプセンバチ、サトウセイボウモドキ、アイヌギングチバチなどの珍しい
蜂が記録され、コブプセンバチの多産も注目すべきで、
アブラザカハラナガツチバチの模式産地となっており、蜂類は豊富である。
甲虫ではシナノキチビタマムシが採集され、福井県では数ヶ所から採集されて
いるが全国的には稀なものである。
 田茂谷は県境まで長い林道ができ、森林伐採が相当進行しているが、一部で
は自然度の高い地域が残されており、昆虫相は比較的豊富で、蝶ではミズナラ
林にミドリシジミ類が多く、ウラゴマダラシジミ、ウラクロシジミ、
エゾミドリシジミ、ジョウザンミドリシジミ、メスアカミドリシジミが記録さ
れ、ツマジロウラジャノメ、シータテハなども生息する。甲虫では
ムネモンヤツボシカミキリ(県下唯一)、ミヤマナカボソタマムシ(多産)、
コルリクワガタ、チュウジョウヒメテントウなどの珍しい種が採集されている
。また、蜂類では、アイヌギングチバチ、ミスジアワフキバチ、
アムールギングチバチ、ツネキアリマキバチ、フタモンアワフキバチなどの珍
稀種のほか、サトウセイボウモドキが多産し、カギバラバチ類も他所に比べ特
に多い。保全が望まれる地域である。
 林谷は標高 950mから上は尾根すじまで皆伐されており、自然災害が心配さ
れるほどであるが、潜在的には豊かな自然を示す傾向もみられ、例えば、ハチ
類ではコシジロギングチバチ、ウスキギングチバチ、カゲロウギングチバチ、
フタモンアワフキバチ、スギハラギングチバチなどの珍しいものが採集された
。
 白馬洞には若干の洞穴性昆虫が生息し、その中には白馬洞だけの固有種
ハクバメクラチビゴミムシ(和名仮称)が含まれ、学術上極めて貴重であるが
、すでに観光地化され洞内はかなり人為的な改変がなされているので、現在生
存しているかどうかは不明である。


〔爬虫類等〕
 両生類では、イモリ、モリアオガエル、カジカガエル、ナガレヒキガエル、
ヤマアカガエル等を確認した。爬虫類ではヤマカガシ、シマヘビ、マムシの生
息を確かめたが、他区と比べて少ない。
 貝類では種類数、個体数共に他区と比べて劣っている。


〔陸水生物〕
 九頭竜川東古市地点。谷は開けている。河川型態はAa型、
ヒゲナガカワトビケラが優占するが現存量は多くはない。(現在量階級U)
 種類構成についても特記事項なし。


〔景 観〕
 九頭竜湖の林谷橋、箱ヶ瀬橋付近は、白馬洞があり、地形的にも頗る変化に
とむもので、人造湖ながら湖岸の風景が水に映え、うつしている眺めは、頗る
景勝に富んだ景観である。
 毘沙門岳、西山をはじめ、県境の脊梁をなす山々は、亜高山性に近い山で、
東古市集落があった付近や、田茂谷、林谷等には、かなり広い地域にわたって
スギの植林がすすんでいるが、他の大部分はブナ、ミズナラ、所によっては
クリ、ミズナラ林で、田茂谷の北側上流山地や、県境脊稜山地の山頂に近いと
ころでは、ブナの原生林も分布していて、その自然景観は自然度が高い。
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