11(越美山地)石徹白川流域地区−−5万分の1地形図【荒島岳】【白鳥】−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔陸水生物〕〔景 観〕

11 石徹白川流域地区                          [⇒位置図]

〔概 要〕
 石徹白川には谷底低地、河岸段丘が分布し、周辺ではV字谷が多くみられる
。中生代後期の手取層群が模式的に発達するルートとして、古くからよく知ら
れている。貝化石産地も多い。
 植物では、渓谷沿いのジュウモンジシダ−サワグルミ林の林帯が顕著である
。三面谷の北側、鬼亀山の標高 800m付近には、白山山系でこの地区だけに分
布するシラカンバの疎生林が見られる。シラカンバ−アクシバ−チゴユリ群落
として、生態地理学的に極めて貴重である。

 鳥獣類は、奥地森林地帯であるためキツツキ類、カラ類、夏鳥などが見られ
るが、全般的に人工造林地が拡大しており、鳥獣類の生息環境としては必ずし
も良好とはいえない。
 また、昆虫相にとっても同様な環境であるが、多様度は高くないものの残さ
れた自然林の昆虫相は豊富で、打波川流域とともに奥越の豊かな昆虫相を代表
する地域であるが、打波川流域とやや異なった傾向を示し、峡谷が広く開放的
な明るい環境が多いために蝶類相が極めて豊富で、数多くの珍しい種の生息が
認められるのが特徴である。
 爬虫類等の生息環境としては、川が比較的緩流のため、河岸に土砂の小規模
な堆積河原を点在させ、若干の集落と水田、畑あるいは荒地が河畔に連なり、
両生類、爬虫類には適当な繁殖及び生息地となっている。
 陸水生物では、石徹白川の水質が良好で、付着藻類が豊富であること、魚類
ではアジメドジョウの分布が注目される。
 蛇行する石徹白川沿いに発達する河岸段丘と堆積河原は、情緒豊かな渓流風
景を展開する。周辺山地は、広範囲にスギの造林地が分布するものの、ブナ、
ミズナラ等夏緑広葉樹林が豊富に残されており、四季の変化が見られる。


〔地形・地質〕
 この地区は海抜800〜1,000m程度の壮年期山地で、石徹白川が北東から南西
へ流下し、ほぼV字谷を形成する。河床には谷底低地がみられ、両岸には断続
的に洪積世後期の低位河岸段丘が発達する。
 地質的には、ジュラ〜白亜紀の手取層群の上位に、白亜紀後期の面谷流紋岩
質がかさなり、さらに上位に鮮新−洪積世の輝石安山岩類が北部に分布する。
手取層群は全体として向斜構造を示す。
 三面より上流には流紋岩が、伊月−後野付近には石徹白亜層群に属する伊月
頁岩層が分布する。 Corbicula,Melanoides,Ostreaなどの汽水性貝類化石を産
し、伊月の化石壁として有名である。
 智奈洞谷が合流する付近には、塊状砂岩からなる天狗岩があり、また智奈洞
谷には粗粒砂岩、礫質砂岩が分布し、化石に乏しいが波の化石(漣痕)が多い
。下流の貝皿上流 500m付近では山原坂互層(海成)と山原礫岩層(汽水成)
が不整合関係を示す。このように、従前から石徹白川中・下流域は手取層群の
代表的層序を示す所として知られる。


〔植 物〕
 石徹白川流域は、渓谷沿いのジュウモンジシダ−サワグルミ林と、山地側の
夏緑広葉樹林、特に、一部ではあるが、残存するブナ原生林によってすぐれた
峡谷景観が構成されている。ブナ原生林では、林間にオオバクロモジ、林床に
ツルシキミが優占し、オオバクロモジ−ブナ群集の組成を示す典型的な日本海
型のブナ林の植相が見られる。
 また、白山山系では、標高1,400〜1,600m付近には、ダケカンバ林が分布し
ているが、シラカンバはほとんど分布しておらず、この石徹白川の上流域の三
面谷の山地、鬼亀山の標高800〜900mの付近にシラカンバ林が一部に残存して
いる。
 それらの林間には、マルバマンサク、ウラジロヨウラク、ハイイヌツゲ、
アクシバ、サワシバ、シロモジ、ワタゲカマツカ、林床にはチゴユリが優占し
て、シラカンバ−アクシバ−チゴユリ群落としてまとめられる。生態地理学的
に極めて貴重である。
 また、智奈洞谷沿いには、極めてよく成林したスギ植林帯が見られ、多雪地
の代償林の代表的な植生帯のひとつとして、本県の森林帯の中で極めて重要な
林帯である。


〔鳥 獣〕
 全域にわたって伐採が進んでいる。三面谷、前坂谷の一部稜線には自然林が
残るが長倉谷上部のブナ林は伐採作業が進められていた。朝日の集落北斜面も
伐採地が多い。智奈洞谷一帯および支流の大栃蔵谷奥地は繁倉国有林のスギ試
験林となっており伐採部が多い。
 ホオジロ、ヒヨドリ優占ながら奥地森林地帯であるため、カケス、ウグイス
も多い。川筋ではカワガラス、ヤマセミ、キセキレイ、林地ではキジバト、
アオゲラ、アカゲラ、コゲラ、ヤマガラ、エナガ、ヒガラ、シジュウカラ、
メジロ、イカル、ダム水面にオシドリの留鳥、夏鳥ではオオルリ、ヤブサメ、
ブッポウソウ、サンショウクイ、ホトトギス、サシバを見る。


〔昆 虫〕
 古くから石徹白へ抜ける街道として多くの部落が川沿いに点在し、林業の盛
んな所で南北へいくつかのかなり大規模な渓谷が刻まれ、代表的なものとして
三面谷、前坂谷、智奈洞谷があり、それぞれやや異なった昆虫相を示し、また
、九頭竜川との分岐点入口に相当する貝皿、朝日付近も特徴のある昆虫相を示
す。全体的にみると近年、林道の整備に伴って、伐採は著しく見る影もないと
ころも多いが、部分的には優れた自然環境が残されており、従来、昆虫の豊庫
として指摘されている打波川流域にも匹敵する。また、打波川流域が本流・支
流ともに急峻な渓谷になっているため、湿潤な森林性の昆虫が多いのに対して
、当流域は谷幅が広く、ゆるやかな所が多く、そのことは蝶類が極めて豊富で
あることに代表される。
 この地区の主だった蝶類をあげると、オオミスジ、オナガシジミ、
ツマジロウラジャノメはいずれも主流にそった各地に広く生息しており、三面
谷に生息が確認されたチャマダラセセリは県下唯一の産地で中部地方における
分布西限となっている。朝日前坂では、福井県で初めてのヒメシジミが最近発
見され、今後の調査が期待されている。また、貝皿では、ウラミスジシジミ、
ムモンアカシジミが記録され、そのほか、各地にミドリシジミ類も少なくない
。朝日・貝皿などの夜間採集では、飛来する蛾類も豊富で、ムラサキシタバ、
ベニシタバ、ミヤマキシタバ、クロウスタビガなどが採れている。
 甲虫類もかなり豊富で、その種構成は具体的な解析はなされていないが、打
波川流域とはかなり異なった傾向を示し、例えば、フタスジハナカミキリが多
産する。三面谷の湧水で多数採集されたケシミズムシは微小種ながら最近日本
から初めて記録された科のもので、福井県では相当留意しているにもかかわら
ず、他の地域では見つかっていない。そのほか、ジュウジクロカミキリ、ヒゲ
ナガヒメヒラタカミキリ、トドネスイムシ、オオクチカクシゾウムシ、
カタモンミゾドロムシ、キボシチビヒラタムシ、ツマグロチビオオキノコムシ
、ムネビロカクホソカタムシ、ミジンムシモドキ、ヒメオオクワガタなど注目
すべきものとしてあげられる。
 蜂類では、美麗珍種のオタネギングチバチやフタツバギングチバチが三面谷
で採集された。朝日前坂では、キユビギングチバチ、スギハラギングチバチ、
コシジロギングチバチ、ウスキギングチバチ、アギトギングチバチ、
トワダギングチバチ、キスジカギバラバチ、マダラカギバラバチなどの珍稀種
をはじめ多種の注目すべき蜂類が採集され、河原の砂地には
マエダテツチスガリやハナダカバチが造巣する。また、小谷堂で
カゲロウギングチバチ、ウスキギングチバチ、智奈洞谷でフタツバセイボウの
記録がある。


〔爬虫類等〕
 両生類では、カジカガエル、モリアオガエル、ヤマアカガエル、ヒキガエル
、ナガレヒキガエル、ツチガエル等が多い。イモリも各止水に生息する。
 爬虫類では、シマヘビ、ヤマカガシ、アオダイショウ、マムシが多く、期待
していたジムグリは発見できなかった。トガケ、カナヘビの生息は聞き取りで
知ることができた。
 貝類では、後野のブナ、トチノキの昆成林でキビガイ、オオギセル、
オオタキコギセル、ハゲキセルを多く確認した。クロイワマイマイ、
ハクサンマイマイ、エチゼンビロードマイマイも多く、全般に個体数の多いこ
とを特記する。


〔陸水生物〕
 (藻類)
 石徹白川流域3地点(前坂キャンプ場、石徹白ダム上手、源流域)での調査
で、3地点合わせて藍藻9、珪藻50、緑藻7の計60種を確認した。河床は安定
していて付着藻の着生状態もよく、量的にも多い。藍藻のホモエオスリックス
属、珪藻のクノジケイソウ属、クチビルケイソウ属などが優占種となっている
。こられはいずれも清水性の種類である。次に多くみられるにはハリケイソウ
、アクナンテス属、クサビケイソウ属などである。石徹白川の付着藻はたいへ
ん豊かである。
 (水生昆虫類)
 石徹白川石徹白及び朝日前坂地点、河川形態はAa−Bb移行型、巨、大、
中礫、ヒゲナガカワトビケラが優占するが、現存量は多くない(現存量階級U
)。オオマダラカゲロウがみられる。クロツツトビケラもみられる。


〔景 観〕
 岐阜県白鳥町石徹白より流れ来る石徹白川は、本県に入ってからは、両岸に
連る海抜 1,200m内外の亜高山性に近い山々にできた谷間を流れる川で、水量
が多く、上流にかなりの人口が住んでいるにもかかわらず流れの清い川である
。小谷堂、三面、前坂付近では、曲流して小さな河原をつくり、詩的情緒のみ
られる渓流風景を展開している。
 小谷堂、朝日前坂付近の右岸、智奈洞谷川の右岸にはスギの植林地が分布す
るが、地区の大部分はブナ、ミズナラ林またはブナ、ミズナラ、スギの混交林
でかなり自然度の高い景観を呈している。後野付近の海抜 1,000mを超える高
所では、ブナの原生林もみられる。
 小谷堂の北方および三面付近の山地にはシラカンバの自生があり、ことに三
面付近にはかなり多く分布していて、本県としては数少ない珍しい林相景観で
ある。
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