1(奥越火山地)二ノ峰地区−−−5万分の1地形図【越前勝山】【白山】−−

〔概 要〕〔地形・地質〕〔植 物〕〔鳥 獣〕〔昆 虫〕〔爬虫類等〕〔景 観〕     

1 二ノ峰地区                                       [⇒位置図]

〔概 要〕
 起伏の大きい壮年期山地で白山火山の一角を占め、中生代後期の手取層群を
被って白山系の安山岩が高所に分布するこの地区は、本県における最高山地で
あり、山頂付近には、雪田草原を含む高山草原群落、特にシラネニンジン−
ハクサンコザクラ群落及びモミジカラマツ−イワイチョウ群落が優占する。雪
田では、チングルマ及び イワイチョウが優占する。これらの下部には、
ハイマツ帯が分布し、オオシラビソが疎生する。
 鳥獣の環境としては、ブナ林も残っており、渓流も深く、森林性鳥類や夏鳥
の繁殖にも適しており、高地性のゴジュウカラの繁殖の他、獣類の生息にも適
している。
 昆虫相は、高地性昆虫が多く、県下唯一の高山蝶生息地でベニヒカゲが分布
し、ハクサンクロナガオサムシ、ハクサンヒメハナカミキリ、
クモマハナカミキリ、クロクシケアリ、ハネナガクモマヒナバッタ、など、県
下では他に見ることの出来ない昆虫が生息する。
 爬虫類等では、積雪期間 110日以上、年平均の最高気温約6℃、最低気温
−4℃、といわれる厳しい気象条件下にありながら、恵まれた植生の中で、両
生・爬虫・貝類とも豊富な生息相を示している。
 県境山稜線部は、白山国立公園の特別保護地区に指定されており、ブナに代
表される夏緑広葉樹林帯から、風衝林帯、雪田草原と変わる自然環境は、すぐ
れた山岳景観を呈しており、特に打波川沿いから眺める夕日に生えた二ノ峰、
三ノ峰の景観は荘厳である。


〔地形・地質〕
 海抜 2,000m近い三ノ峰を最高峰とする起伏の大きい壮年期山地で、白山火
山の一角を占める。石川県白峰村と県境を接し、切り合ったけわしい稜線をつ
くる。海抜1,300m付近に狭い緩斜地が残存している。
 地質的には、ジュラ紀後期〜白亜紀前期の手取層群があり、それを被って白
山の安山岩類が高所に分布する。安山岩の末端は急峻な斜面〜崖をつくってお
り、崩壊も著しい。


〔植 物〕
 別山(2,399.4m)山系の中、杉峠から二ノ峰(1,962.3m)に到る尾根沿い
と、それらの南側斜面山地を含む地区は、高山帯及び亜高山帯によって占めら
れる地区である。
 二ノ峰周辺は、現在まで人為的な影響は極めて少なく、自然条件下で更新が
行われている。
 この地区では、二ノ峰を中心とする高山草原が中心となり、ヨツバシオガマ
、シナノオトギリ、タテヤマウツボ、イブキトラノオ、
ミヤマダイコンソウ、ハクサンフウロ、チングルマ、イワイチョウ、
ショウジョウスゲ、イワカガミ、シラネニンジン、ハクサンチドリ、
モミジカラマツ、イワノガリヤス、ミバオウレン、コバイケイソウなどが分布
し、群落型としては、シラネニンジン−ハクサンコザクラ群落、
モミジカラマツ−イワイチョウ群落が識別されるが、チングルマや
イワイチョウを優占種とする亜高山帯高部の雪田草原が極めて顕著であるのが
注目される。
 ハイマツ帯も見られるが、全体的にはそれほど広大ではなく、またそれらに
オオシラビソの雪条型が見受けられる。


〔鳥 獣〕
 頂上付近は亜高山植生帯、1,000m付近の渓谷から杉峠の高さまでは所々に
ブナ林が分布してホオジロをはじめ、エナガ、シジュウカラ、ゴジュウカラ、
ヤマガラ、ウグイス、メジロが生息する。夏鳥のホトトギス科の4種がすべて
認められ、オオルリ、キビタキ、クロツグミ、冬鳥のカシラダカ、アオジ、ク
ロジも観察でき、繁殖期における鳥類の生息環境はよい。
 ニホンツキノワグマの生息を見る。


〔昆 虫〕
 標高1,200mから2,000mにわたる白山山塊の一部をなし、福井県では最も標
高の高い地域である。そのため、高地性昆虫が多く生息することで特徴づけら
れ、県下ただ1ヶ所の高山蝶生息地で三ノ峰近くではベニヒカゲが多い。その
ほかの注目すべき蝶として、クジャクチョウ、キベリタテハ、
ギンボシヒョウモン、ツマジロウラジャノメなどがあげられる。そのうち、
キベリタテハは六本桧付近に例年生息が認められているが近年著しくその個体
数が減少している。甲虫類ではハクサンクロナガオサムシは
コクロナガオサムシの1型とされることもあるが、白山山系の高山固有のもの
である。カミキリムシのうち、クモマハナカミキリ、
ニセフタオビチビハナカミキリ、ハクサンヒメハナカミキリ、
フイリメハナカミキリ、ルリハナカミキリはいずれも県下では当地域(三ノ峰
付近)だけから記録された高地性のものである。そのほか、
ツノグロモンシデムシ、ホソヒラタシデムシ、ヒロオビモンシデムシ、
ルイスナカボソタマムシなどの甲虫類が高地性で少ないものとしてあげられる
。同様に高地性蜂類として、アギトギングチバチ、ベットウプセンバチ、
タカミネプセンバチ、アイヌギングバシ、ヒゲアシギングチバシが注目すべき
である。アリ類ではクロクシケアリは二ノ峰〜三ノ峰の標高2,000付近に生息
し、ヤマクロヤマアリは二ノ峰に分布が確認され、ともに県下では他に記録の
ない亜高山性の種である。ハネナガクモマヒナバッタは本州中部高山地帯に分
布し、白山山系のものは固有亜種とされ、最近、福井県側にも生息が確認され
た。そのほか、キシタトゲシリアゲ、コエゾセミが高地性昆虫としてあげられ
る。
 一ノ峰から三ノ峰近くにいたる地域は上に示したようにな高山性、または高
地性昆虫の生息に代表されるが、この地区の1,200m〜1,500mあたりのやや標
高が低い所では、別項(2)上小池周辺地区に類似して、山地性の昆虫が豊富
である。
 本地区は白山国立公園特別保護地区として環境保全の対象となっているが、
登山道の拡張を極力控えるなどして、現状の維持に努めるべきである。


〔爬虫類等〕
 両生類について見ると、クロサンショウウオは加越山地が南限とされている
が、今次の調査では、他区を含めて数地点で確認することができた。
モリアオガエル、ナガレヒキガエル、カジカカエルの他にアカガエル、
タゴガエル類も目撃できた。
 爬虫類では、ヤマカガシ、マムシが目立って多く、ジムグリも確認できた。
いずれのへびも、ネズミ類の天敵で、この地区にノネズミが多いための多産と
思われる。豊かな自然の中での食物連鎖の巧みな仕組であろう。
 貝類では、高山帯に分布するハクサンマイマイ、トノサマギセル、
エチゴキセルモドキ、ココロマイマイが多く生息する。特にハクサンマイマイ
は、加賀白山の模式タイプに近く、資料価値が高い。


〔景 観〕
 二ノ峰から三ノ峰にかけては、海抜2,000mに及ぶ本県の最高地で、わが国の
山岳中でも最もよく原生自然が保たれていると云う白山の一部とも云える地域
であるだけに、全山ブナの原生林に覆われ、山頂には典型的なお花畠も形成さ
れているなど、極めて自然度の高い景観の地区である。崩壊性の著しい谷地形
をもってそびえる山容は、この原生自然と相まって、深山の趣の深い美しい山
岳景観をつくり出している。
 一ノ峰、二ノ峰より三ノ峰、別山を経て白山へと連なる稜線上には、かつて
白山信仰上の美濃口馬場と云われた岐阜県白鳥町の長瀧寺より、石徹白の白山
中居神社を経て、白山に登拝した修験者達の禅定道があり、そこは修験者達が
修行の場とした古代、中世に於ける白山信仰上の遺跡の一つである。
 当時の山岳仏教に於ては、峻険にして人の近寄りがたい深山性と、全山を覆
う原生自然は、そこからうける山の霊気により宗教的情緒が高められるとして
修行の場にはその様な地が重視されたものであるが、この白山禅定道はそれに
ふさわしい地であった。
 今もよく古い時代のまま自然が保たれているこの地区の景観は、白山信仰上
の歴史的自然景観としても、また極めて貴重である。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−end−−-